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    selaselax

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    selaselax

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    pixivに投稿しているシリーズの続きです。
    https://www.pixiv.net/novel/series/13646209

    #よだつか
    YodaTsuka

    【よだつか】12の続き 鴗鳥そにどり慎一郎は全日本選手権の公式練習で、リンクサイドに友人の姿を見つけて驚いた。

     全身黒い服で黒のサングラス姿の純くんは、彼の持つ存在感もあり、周囲から浮いて目立っている。

     彼は人探しをしていたと思ったら、中学生の男の子を見つけるなり即日『横浜に行く』と言って名古屋の家を引き払い、今は横浜のクラブでコーチをしているらしい。
     失礼ながら、純くんが人にスケートを教えるなんてできるのだろうか、と疑っていたけれど、ネットで話題になっていた4Aを跳ぶ選手がいる、という記事の動画を見て確信した。
     あれは、純くんのジャンプだ。

     純くんは九月にスケート連盟に再登録して一部で騒ぎになったらしい。でも、バッジテストの八級を取ったらすぐにまた脱退したようだ。それを聞いて、彼はもうオリンピックに出るつもりはないんだな、と落胆した。僕は純くんのスケートが好きだったから。

     リンクサイドの純くんは梟木先生に声を掛けて何か話をしているようだ。そういえば、彼は一シーズンだけ、梟木先生のクラブに所属していたことがある。
     純くんが珍しく軽く頭を下げたと思ったら、梟木先生が目の辺りを覆って泣き始めたのを見て、慌ててそちらに滑っていった。
    「純くん!」
    「……慎一郎くん」
     リンクの中から声を掛けると、彼がこちらを見る。
     約一年前に見た時とはまったく印象が違っていて、ものすごく驚いた。
     スケート選手を引退してからの純くんはろくに食事をらずに煙草をたくさん吸うようになり、すっかり荒んでしまっていた。どうにかしてあげたかったけれど、僕自身も不調や怪我に見舞われたり、その時に支えてくれたエイヴァと結婚したりして生活環境の変化に追われ、氷から離れて苦しむ彼に何もしてあげられずにいた。
     その彼が一年経った今、雰囲気が穏やかになって、髪は艶めき肌の血色もよくなり、煙草の匂いもしなくなっている。色んなものを犠牲にして、自身を削って焼き尽くすような演技をしていた現役時代よりも、ずっと健康そうだ。
    「あの、梟木先生はどうして……」
     目頭を押さえている先生に話を振る。一体何があったんだ。
    「……自分がコーチになってみて、スケートを教えるだけじゃない大変さが少しはわかったから、僕も昔は迷惑かけたな、って謝りに」
     他人を省みるなんてしなかった純くんが、精神的に成長していて、強い衝撃を受ける。
    「純くん……私はあなたに、もっと何か、差し出せるものがあったんじゃないか、とずっと思っていました。迷惑かけられた、とかはどうでもいいんです。今あなたがスケートに再び関わって、幸せそうでいるのが、何より嬉しい……」
     梟木先生は人格者で、スケートに関わる多くの人に慕われている。純くんのことも随分と心配してくれていたらしい。
    「コーチ、着替えてきました……っと、お話し中にすみません。おはようございます、鴗鳥選手、また会えて嬉しいです」
     そこに、僕より少し低いくらいの身長の青年が現れた。明るい髪色に特徴的なほくろ。前に会った時と比べると随分背が伸びているが、純くんが探していて邦和みなとのリンクで会った司くんだ。
     動画で4Aを跳んでいた、東日本の優勝者。
    「うん、アップはしてきたね? 調布の氷の感触を、確かめておいで。少し滑ったら、立川の方で明日まで調整しよう」
     司くんに話しかける純くんの声が甘く優しくて、僕と梟木先生は揃って衝撃を受けた。純くんを変えたのは、間違いなく司くんだ。
    「はい、行ってきます!」
     元気良く滑り出していった司くんは、スケートリンクを一周してから、四回転ルッツと三回転トウループの難しいコンビネーションジャンプを跳んだ。東日本ではフリップからのコンビネーションジャンプだったものが二ヶ月の間に進化している。氷上できらきらと輝く若い才能は、まぶしいほどだ。
     どうやって見つけたのかわからないが、きっと純くんは、あの輝きに魅せられたのだろう。
    「慎一郎くんは……調整不足?」
     さっき滑っていたのを見られていたのか。僕は純くんに今の状態を的確に言い当てられて苦笑するしかない。
    「……言い訳にしかならないけれど、怪我から復帰してから、十分に練習場所の確保が出来なくて……シーズン中は混み合うからね」
    「……慎一郎くんひとりなら、来てもいいよ。明日の午前まで、思い切り滑れる」
     純くんが何を言っているのかよくわからなかったけれど、今の公式練習の時間が終われば、明日夜の六分間練習まで、氷に乗る機会はない。
     僕が今期のオリンピックに出場できるかどうかはぎりぎりのところだ。全日本選手権で表彰台に乗れないようであれば、次回はまた四年後になってしまう。
     僕は迷わず彼の提案に乗ることにした。





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