悟空が苦手なものの筆頭として、病院がある。
最初にベジータと戦った後に入院したわけだが、包帯を変えるだけでも大騒ぎをして、注射などしようものなら身体の骨が多々折れているというのによく動けるものだと思うくらいの騒動になった。
今は幸か不幸か、修行の成果で普通の生活を送る上では怪我をすることはほぼないし、修行もまた負傷はしないようにしている…と思う。
強敵相手では大怪我を負うこともあるが、仙豆を用意するなどの備えはしているという。
病気に対しては手洗いうがいを言いつけることで対策しており、よっぽどのことがなければ悟空が病院に行くことは基本ない。
悟空は、だが。
「チチ、病院いってきたんか…?」
「んだ。ちょっと風邪っぽくてな」
「注射…されたのか?」
「血は抜いただよ。念のための検査だ」
「血ィ抜かれたんか!?」
「…悟空さ、声でっかいだ。まだちぃっと頭痛いんだべ、控えてけろ」
「わ、悪ィ」
悟空が界王星での修行を終え、次男悟天の気を探って瞬間移動したところ、目的地のパオズ山の自宅ではなくそこはカプセルコーポレーション内であった。トランクスと共にいた悟天がいたので我が子が遊びに来ていたのだろうと思ったのだが、話を聞けばチチが体調を崩したとのことで、ブルマから悟天を預かるという申し出をされたとのこと。
ブルマ曰く、チチもカプセルコーポレーションで療養したらどうかと言ったのだが、彼女は静かなパオズ山を望んだという。
「ちょっと眠らせてもらえたらよくなるだよ」
「ほんとか?」
「んだ。いつもは寝たら治るんだべ。今回は痛いのがいつもよりちっと強かったから、お医者いったけんど」
「……よくあるんか?」
「たまーに、だべ」
おらもう若くねぇもの。
そう言って笑うチチに、悟空はなんとも言えない苦しさを胸に覚える。
「若くはねぇけんど。自己管理は、おらきっちりするタチなんだべ」
眉根が寄ってしまった悟空の眉間をチチがつつく。
「明日また病院いってくるだよ。今日の検査結果が出てるみてぇだからな」
「お、オラも行く」
「悟空さが?」
「ん」
「病院に?」
「ん」
「ついてくるんけ?」
「ついてくぞ」
「……病院でぇっきらいなのに?」
「心配じゃねぇか」
「……!」
「……そりゃまぁ、……好きじゃねぇけどよー……」
「……悟空さ」
「うお!?」
寝台の上で、体調を回復させるべく眠ろうとしていたチチが飛びついてきたのでさすがの悟空も驚いた。
その後、チチは目的通り、遮光カーテンを引いた寝室で寝息をたてていたのだが、その傍らには夫悟空もまた横たわっていた。
「オラが薬かぁ……まぁ、いやじゃねぇな」
病院は嫌いだし、注射もごめんだけど、チチが元気になる薬といわれるのは悪くはない気分だった。