農家の難しいところに、「豊作過ぎても困ってしまう」ということがある。
そりゃあ不作よりは豊作が望ましい。しかしながら、たっぷり実ったものを実った分だけ市場に卸せば卸値は下がってしまうのだ。
農家によって対応は様々だが、孫家においては市場に卸せないものは自分達で食べるという選択肢をとる。
チチは他の農家にそれを告げたとき食べきれないだろうと笑われたことがあるが、なにせサイヤ人の血を引く長男次男がおり、今は純血のサイヤ人である夫もいる。調理次第でいくらでも野菜の消費は可能なのだ。
とはいえ野菜ばかりだと次男、悟天は飽きてしまい、少しの文句も出てくる。
故に、そこはチチの腕の見せ所だ。
「ぴっかぴかだべな~」
チチは大ぶりのトマトを手ににっこりと笑う。
収穫した際に思わず太陽に翳してみたほど真っ赤なトマトは、水洗い後の水滴を纏ってきらきらとしている。
このままかぶりついてもおいしいだろうが、チチはこれからざるいっぱいのトマトらを調理しなければならない。
「まずはやっぱトマトソースだべ。作って冷凍しときゃあ何かと便利だもの」
トマトだけでなく、みじん切りしたニンニクや玉ねぎも一緒に炒めた鍋が蓋をされ、コトコトを心地よい音をたてている。
大量にトマトを消費できるし、小分けに冷凍しておけば何かと使用することができるのは主婦には嬉しいものだ。
調理途中で我慢できずくし切りにしたトマトを口に放りこむとひいき目なしでもとてもおいしかった。となれば、やはりソースだけでなくトマトの味が楽しめるものも作りたい。あと、子供が喜ぶようなもの。
しばし思案したチチは、そろそろ使ってしまわなければならないサバの缶詰を見つけて手を打った。
「サバとトマトのグラタンにするべ」
大きな耐熱皿を使って一気に家族分を作る。焼くのが少し大変だが、華やかに見えるしおそらく孫家の男子陣はテンションが上がる一品になるだろう。
そして熱い料理をメインにすれば、くちやすめにひんやりとしたものも欲しくなる。日持ちもするトマトのピクルスを作ることにして、ご飯のおともになるメインをもうひとつ作ることにする。
「豚肉とトマトの卵炒めがあればきっと安泰だべ」
オイスターソースを使うので、トマトらしい青っぽい味は変化し、卵や豚肉の油と絡んでそれがまたうまい。
今日の献立は決まりだなと上機嫌になるチチだが、それでも畑でわんさかと実っていたトマトはまだまだある。
「畑仕事しつつ水で冷やしておいて、おらと悟空さのおやつにもなるけんど…」
チチは夕食の献立とは別に、トマトの塩オリーブオイル和えやら焼きトマトを作ろうかなと思う。あれはちょっとしたお酒のおつまみにはいいのだ。
おつまみ的なものを作ったからと、夫を宵の飲みに誘ってみたい。
最近比較的家にいてくれている夫だが、息子達のよき相手となっていたので、そろそろチチだって「旦那」と過ごす時間を欲したっていいはずだ。
「若い娘っ子なんかじゃあとっくにねぇのに、いつまでたってもおら悟空さに恋してるだなぁ」
照れたように笑うチチの耳は熟れたトマトのように赤かった。