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    悟チチ版ワンドロワンライ『天下一悟チチ武道会』
    第10試合 お題『りんご 〜Apple〜』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge #悟チチ #Gochichi

    二度目のあの世の住人となって、困ったことというのは実は少ない。
     もちろん息子の悟飯のこれからを父親として見ていきたい気持ちはあるが、それよりも地球という星のこれからの平穏を望むことにして甦りの方法を模索する仲間達をそれを制した。 この世が穏やかであれば、元来優しい性格の息子は必要以上に闘うことはなく学者になりたいという夢に向かって勉強をすることができる。
     武道家として我が子の潜在能力に盲目になってしまった自分ができる、願いと、罪滅ぼしだと思っていた。

     仲間達も皆、それぞれの時間を歩んでいける者達ばかりだ。ピッコロなんかは新しい地球の神となったデンデに付いてやるだろうし、多少厄介ごとがあってもなんとかできるだけの力がある。
     未来からやってきたトランクスから聞かされた、悲痛の路からは外れたはずだ。

     二度目の死でも幸い肉体は与えられた。だから、地球で生きる者達が天寿を全うしてこちらで会えるまでは存分に修行をして、己が望む武を高めていけばいい。



     そう、思っていたのだが。

    「なぁ、界王様。もうちっとなんか食うモンねぇかな?」
    「お前まーだ食うつもりなんかい」
    「いや、結構たらふく食ったつもりだったんだけどよ、なんか物足りねぇっつうかさぁ」
    「食わせるのは別に構わんが、ワシも今日はこれ以上洗い物しとうないからな。ほれ、コレでも食っとれ」
    「っと、ととっ」

     大量の皿をバブルスくんと共に運ぼうとしていた界王が片手でぽいっと投げてきたのは小ぶりながらも真っ赤なリンゴだった。

    「リンゴ…」
    「なんじゃ、お前さんそれ嫌いじゃったか?」
    「いや、サンキュー、界王様。あっちでコレ食ってくるよ」

     受け取ったリンゴを手に、悟空は小さな星を少し行く。
     足を止め、不思議なピンク色の雲が広がるのを眺めながら悟空はリンゴを口元に寄せ、すん、と果実の甘酸っぱい香りをたっぷりと吸い込んだ後、がぶりと囓りついた。

     小気味良い音と共に果汁が口の中に流れ込んできて、囓り取ったリンゴの欠片を噛み砕くと更に口内で果汁が溢れる。
     リンゴはまだ若かったらしく甘みよりも酸味が強くて、悟空が思わず「酸っぺぇ」と苦笑してしまうものだった。でも、不快ではない。むしろ悟空は満足感を持って、更に大きく果実に齧り付いた。


     思う存分修行をして、界王が用意してくれる食事を腹一杯に食べて、夜は訪れないがこれまでと変わらず睡眠も十分にとっている。
     不自由のない生活だと思う。だが、先の光景でもあったように、悟空は時々、言い表せない「食べ足りない感」を伴うことがあったのだが、今、それがなんであるか理解し、解消された。

     酸っぱいリンゴが思い出させたのは、過去の記憶。
     小腹が空いたとぼやく悟空に、食事を作るまでコレ食べててけろと差し出してきたのがリンゴで、それがとても酸っぱかったのだ。アップルパイを作るつもりで買っていた酸味の強いリンゴと、普通に食べる用のリンゴを間違えて出してしまったと慌てふためいて詫びる妻はとても可愛かった。

     あのときのリンゴと今食べているリンゴの味が似ていて、チチの手から直接手渡されたリンゴを、この身体はチチの手料理と認識しているのだと理解する。
     手が果汁で汚れるのも厭わず食べ続け、結局は種も芯も噛み砕き食べきってしまう。

     息をひとつ付いて、空を見上げる。
     抱え続けていた物足りなさは消えていた。

     しかしながら………

    「やっぱ足りねぇんだよなぁ」

     スン、と手のひらに残るリンゴの香りを嗅ぎ、べろりと果汁を舐めた悟空はごろりと地面に横になり空を仰いだ。

     これから一時しのぎとなるリンゴを一体幾つ食べ続けることになるのだろうと思う彼が、現世の人となって妻と共にリンゴを食べられるまでは七年ほど先のこととなる。
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    TRAINING悟チチ版ワンドロワンライ『天下一悟チチ武道会』
    第3試合 『春 〜Spring〜』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge
    #悟チチ #Gochichi
    茄子に胡瓜にトマト。アスパラ、カブ、ピーマン、春菊―――。

     春に種まき、ないしは苗植えを行う作物のことを考えながら、チチは起こされて湿り気を含んだ独特の匂いのする土の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 

     トラクターで掘り起こされた土は黒々としていて、春の陽射しをぐんぐんと吸いこんでいるのが分かる。この、畑の「目覚める」様子がチチはとても好きだ。
     もちろん冬にも幾つか作物は育てていたが、やはり秋までに比べれば幾分縮小させていたし、この春に備えて手入れをし、休ませていた畑もある。

     雑草などで作った堆肥を含んだ土に器具を入れてひっくり返すときにわくわくすると言うと夫である悟空に笑われてしまったが、それはマイナスな意味ではなく「チチらしい」という明るくてどこか嬉しそうなそれであった。
     
     もう二度と会うことは叶わないと思っていた夫が現世の人となり、チチが生業として選んだ「農業」に加わったことで、孫家の農業はぐんと幅を広げた。
     トラクターなどを使って畑を耕していたとはいえ、パオズ山の土地はその内に大小様々な土をはらんでいることも多いし、また土も農作物を育てるにはまず土を育てて整えて 1425

    eastdragon_DB

    TRAINING悟チチ版ワンドロワンライ『天下一悟チチ武道会』
    第9試合 お題『夢』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge #悟チチ #Gochichi
    思えばずっと、自分は彼女に待たせているばかりだった。

     幼い約束を信じて、少女から乙女となるまで待ち続けた彼女。
     天下一武道会の武舞台で夫婦となりパオズ山で生活はし始めたけど、修行のために家を出れば一人きりの朝と夜を迎えさせたのは片手どころか両手、両足の指を使っても数えきれないほど。それで泣かせてしまったのも数として口にすると後ろめたさでいたたまれなくなるのだが、そこに死別が割り込んでくるとなると、もうなんともさすがの悟空とて申し訳ないどころでは済まされないと反省したくなる。
     二度の死別から現世の人となり、そこから先で、また彼女の元から離れた。

     背中にかけられた声にまともに返せなかったのはともすれば彼女を道連れにしてしまいかねなかったからだ。
     今の孫悟空という存在はこの世、あの世、どちらの存在とも言い難く、地球という星と共に在るが、個として明確であることは短い時間でしか今は保てない。

     そうなることは悟空自身の意思であるし、悔やんではいない。
     自慢の息子達が家庭を持ち、仲間達のそれぞれの人生、可愛い孫娘が孫の世話をする時の流れを穏やかに、なつかしさと羨望のまなざしで見守 1238

    eastdragon_DB

    TRAINING第13試合『告白〜Confession〜』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge #悟チチ #Gochichi
    パオズ山、孫家。
     長男、悟飯が家庭を持ち家を出たことにより、息子達の部屋は次男悟天の自室となった。
     最初は広くなった部屋に落ち着かない様子だったが、成長と共にそこは彼のテリトリーとなり自室で過ごす時間も多くなった。

     家族仲が悪くなったわけではないが、悟空からしてみればやはり以前のように家族三人でリビングで過ごす時間が少なくなったと感じるし、それとなくチチにそれを話してみたところ、それが子供の成長だと微笑まれた。

    「悟空さは意外と子離れが寂しい性質なのかもしれねぇな」
    「そうなんかなぁ」

     風呂上り、チチがリンゴを用意してくれるというので悟天にも声をかけたのだが、彼は机に向かって今はいいと返してきたことを妻に話して、彼女が置いてくれた皿からリンゴをつまんで食べる。
     子離れというと悟飯の結婚式の前夜に涙をこぼしていたチチを思いだすのだが、そこまでではないと思う。でも確かにチチの言う通り、なんとも言えない感覚は「親」としての何かしらの感情だろうともあり、……なんとも表現し難い。

    「まぁ、おらと悟空さは子育ての差に七年ほどあるだ。そのうち追いついてくるだよ」
    「なんかチチ、セン 1899

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    TRAINING第15試合『眼鏡』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge #悟チチ #Gochichi
     チチの武は亀仙流であり、師は父である牛魔王だ。
     夫である悟空を始めとする他の亀仙流の使い手達は自身の特色を含ませて発展させていったが、チチのそれはほぼ純粋なるものだ。

     天下一武道会の武舞台に上がったときと比べるとさすがに力やスピードは落ちたが、その代わり受け流しなどのスキルは今の方が磨きがかかったと思う。それは亀仙人のお隅付きだ。

    「悟天に武を教えたい。だがそれに値する状態かどうか確かめてくれと筋斗雲に乗ってわしのところまで来たときは結構たまげたもんじゃ」
    「武天老師さま、おくちあんぐりしてたべ。悟天のことも悟飯のときみたいにお勉強漬けにするもんだと思われてたんならまぁ仕方ねぇと思いますだ」
    「いやいや、そりゃちぃっとは思って驚いたのは確かだがの。わしはな、悟天があんまりにも悟空に似て生まれてきよったから、そこに武をつけさせればますます悟空のやつに似てしまいお前さんが辛くなるんじゃないかのうと心配したんじゃ」

     言いながらのんびりと茶を啜る武天老師は比較的近しい過去の出来ことを思い返し、ほっほと笑う。
     本日は定期的に行われるブルマ主催のカプセルコーポレーションでのお茶会だ 1494

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    TRAINING第18試合『手紙〜Letter〜』

    #悟チチ版ワンドロワンライ
    #天下一悟チチ武道会
    #Gochichi60minOneDrawWriteChallenge #悟チチ #Gochichi
     掃除、洗濯、夕食の下ごしらえ、他のこまごました家事が終わると、チチのちょっとした自由時間となる。
     自由時間といっても大概は針仕事や近隣(と、言っても孫家からかなりの距離はあるのだが)への用事事や畑の様子などを見にいくことも多いが、まれに本当にぽっかりとそれらもない自由時間がある。

     そうなるとチチはお茶を淹れて雑誌を読んだりテレビを見たり、時々午睡をしたりとして過ごすが、気が向くとリビングのとある収納の引き出しを引く。

    「ああ、そろそろこの便箋もなくなってきてるだなぁ」

     言いながら取り出したのは、淡い緑色で揃えられているレターセットだ。共に万年筆も出して、ダイニングテーブルに座る。
     
    「さて、と」

     便箋をめくり、チチは慣れた様子で万年筆にインクを補充すると、その切っ先を紙面へと滑らせ始めた。
     出だしはいつも決まっていて、「悟空さへ」 である。

     
     書くことは基本とりとめもなく。
     自分がその日思っていること、伝えたいことをつらつらを書いていく。満足するまで書いたあとは便箋を折り封筒に入れて封をして、便箋をしまっている同じ引き出しに手紙をしまう。
     この手紙は決し 1450