ビールは苦い。だが、それが美味い。そう感じられるようになったのは大人になった証拠だろうか、と悟飯は時折思う。愛しい伴侶にかわいい愛娘もいるので何を今更ではあるが、多分父親と一緒にビールを飲んでいる、という図がそう思わせるのかもしれない。
「はー…、うめぇな」
「おいしいですね」
喉を鳴らして缶の中身を一気に飲み干した悟空がいい笑顔を浮かべている。
最近悟飯は仕事で書斎に引きこもり過ぎるということで、本日はビーデル発案のバーベキューである。
肉類はビーデルが用意し、野菜はおいしさを分かっている孫家の畑で採れたもの達である。幼いパンも祖父や祖母が作った野菜は大好きだ。
妻と母が笑いながら肉を焼き、弟とここに招かれたトランクスが愛娘パンに年上風を吹かして世話をやいている。
「おめぇとこうしてビール飲むっての、なんかちょっとイイよな」
「そうですね。父さんって苦い飲みものは苦手な印象があったから、意外だと思ってます」
「おめぇが小さいころは確かに好きじゃなかったかなぁ。こっち戻ってきてから、チチが美味そうに飲んでっから試してみっかって飲んで、色々うめぇなってなったんだ」
「なるほど、父さんらしいです」
「母さんが美味そうに飲んでるもんは、気になるもんだろ」
ふ、と空気が変わる。父と息子というよりは、お互い妻を持つ存在というそれ。
サイヤ人という者の性質なのか、本能の中に潜む強い独占欲は自覚、無自覚、さまざまに反映されている。
「お母さんは父さんほどお酒強くないですよね」
「だなぁ、まぁチチはちょっとの量で気持ちよくなってコテンと寝れるのはお得だって言ってっけど」
「ビーデルさんは結構飲める人なんですよ」
「ふぅん」
呟きながら手の中のビールを飲もうとして、中身がすでに空であることに悟空は唇を尖らせる。
もう一本飲みたいと言い出すかと思ったが、父は立ち上がりこちらを見て少し笑うと「チチー! ビール!」と声高に、あえて妻にじゃれつくことにしたらしい。
酔っぱらったと印象を受ける周囲だが、多分悟飯と母、チチは彼が全く酔っていないことを分かっている。