「私達から見てチチさんって悟飯くんや悟天くんの『お母さん』って感じなんだけど、孫君にとってはチチさんって自分の『嫁』よね」
「当たり前だろ? 何言ってんだ、ブルマ」
「……ああ、はいはい。そうね、そうよね、アンタってそういう感じよね」
「 ? 」
言ってることが心底分からないと首を傾げる孫悟空にブルマは手をひらひらとさせてこの話はこれでおしまいと、打ち切る。悟空は納得はしていないようだったが、そもそも食事の最中だったのでそちらに意識が戻ったようだ。
ブルマの夫であるベジータも共に食事をしていたが、彼はこちらの会話には割り込まなかったものの、ちらりとブルマに視線を向けてきたのでベジータはブルマが言わんとしていたことに察しはついているだろう。
孫悟空の妻、チチはブルマや18号とのお茶の席では、孫悟空は「父親」という家庭の人だと零している。確かに、先にブルマが言っていた通り、印象としてはふたりの息子の父親という印象が強いが、長い付き合いもあってブルマはそこを少し深く進めば執着にも近い感情が孫悟空からチチへと向けられていることに気付いている。
いや、年頃を迎えた彼の長男、孫悟飯もまた気付いている者だろう。
「父さんは、お母さんのことが大切で、僕や悟天にはまだ「母さん」呼びをさせないんですよね」
自分は読んでるのに。 とは、声にはしなかったが表情がそれを物語っていた。
家族という中でも、夫と妻という立場は子供にすら踏み込ませない不可侵領域である。
それを大きく明言するでなく、日常のあちこち、細々に潜ませているのが性質が悪く、チチにもあまり悟らせていないのがブルマからしてみたら悪質といってもいい。
「まぁ昔よりは言葉や行動に出せてるし、あれがいい塩梅なのかもしれないんだけどさ」
呟くブルマはまだ幼い愛娘を抱き、微笑みかける。
「チチさんはもう自分が孫がいるから~って言ってるけど、孫君のあの様子だったら、ブラに幼馴染ができる可能性もゼロじゃあないわよねぇ~」
そうなったらきっとこれからも楽しくなるのになぁ、という母親の声に賛同してか、小さな手がきゃっきゃと伸ばされる。
孫家の母親としてではなく「妻」としてのチチは、孫悟空の不可侵領域。
我が子であろうが、古い友人であり彼女と同性である者としても何か言おうものならきっと彼は牙を剥いてくる。
サイヤ人のいわゆる悪い部分って、アイツの場合きっとチチさんへの執着心に全部いってるわよねぇ。
食後早々に再び修行を開始しに行った男共を見て、ブルマは半分まで飲んでいたジュースのストローを咥えたのだった。