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    pie_no_m

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    pie_no_m

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    🍕(無自覚)×🎧(片想い)

    #ディノフェイ
    dinofacies
    #エリオ腐R
    elioRotR.

    求める温度 ネクタイを締めながら、ディノはとある感慨に浸っていた。洗面台の鏡越しに、少し背を曲げてディノの右肩に顎を乗せ、眠そうな顔で前髪を整えるフェイスの姿が確認できる。
     ずいぶん、心を開いてくれたと思う。
     ちいさな喜びは肩に感じるフェイスの重みからじわじわ染み込むようだった。ディノがヒーローとして【HELIOS】に復帰した頃のぎこちない関係を思えば、朝のワンシーンのなかで起こる何気ない触れ合いにさえ感動してしまうのも無理はない。かわいい後輩がせっかくセットしている髪を勢い任せに撫で回して台無しにしないよう、ディノは結び終えたネクタイを無意味に調整し続けた。慣れた手つきでいつも通りのヘアスタイルを作り上げたフェイスは小声で「よし」と呟き、ディノの背中から離れていく。肩から消えた重さに寂しさすら感じつつ、ディノもようやくネクタイに触れる手を下ろした。
     それはふとした瞬間に生まれる、まさしく日常的なスキンシップであり、ディノが意識的に幸福を噛み締める回数も少なくなってきた頃――同時に、フェイスとの物理的な距離が再び開き出した。
     肩や腕にフェイスの重みを感じなくなったと気が付いてからは、当然のように「無い方」を意識してしまう。チームメイトと映画鑑賞をしているソファで、ディノの体温よりもクッションと肘置きに吸い寄せられているフェイスは、ディノを心踊るアクションシーンにまったく集中させてくれない。繰り返す日々の中で、何かフェイスが嫌がるようなことをしてしまっただろうか。今のフェイスならば、不快に思ったことは直接口にしてくれるはずだ。それとも、それくらいの信用や信頼を得られていると勝手に思い上がっていただけなのだろうか。
     うおお、すげえ、というジュニアの歓声につられて、フェイスの顔の向きが変わる。不躾なほどその横顔を見つめていたので、ディノの視線は当然、ほかの何に例えようもないマゼンタの瞳とぶつかった。
    「え、なに」
    「あ、いや、なんでもないよ」
     そう、と低く答えるフェイスの声は訝しんでいた。シリーズには詳しいつもりでいたけれど、これを映画館で観られなかったことは残念だと独り言のように呟くディノの目の前で、どんなふうに敵を倒したかさえわからない映画の主人公が恋人の肩を寄せている。とうとうエンドロールが流れ終わるまで、フェイスと目が合うことも、その肩と触れ合うこともなかった。

     フェイスに嫌われてしまったかもしれないという懸念については、ディノの思い過ごしのようだった。会話は通常通り成立するし、フェイスから声をかけられる頻度にもその態度にも変化はない。ただ、見えないバリアを張られたように、フェイスとの物理的な距離だけを感じている。理由が思い当たらず三日間たっぷりと考え込み、目敏いキースにその様子を突っ込まれかけたのを誤魔化した翌朝。空腹で目覚めたディノが部屋を出ると、キッチンでコーヒーの湯気を立たせるフェイスと鉢合わせた。
     おはようと声をかければ、おはようと優しい声音が返ってくる。そのことに安堵して、カウンターテーブルからキッチン内部へと回り込んだ。
    「ずいぶん早いな」
    「……イベントのセットリスト、考える時間なくて」
     他愛無い会話の中にぎこちなさを感じて一拍置くと、それに気が付いたフェイスは困ったような声を出した。
    「……キースに、何か聞いた?」
    「え? 何かって、何を?」
    「聞いてないならいいんだけど……あ」
     コーヒー豆を棚に戻そうとして、結果的にキッチンの床にばら撒いてしまったフェイスが普段通りを装っていることは、寝起きのディノにさえ見抜けた。ふたりで腰を落としてコーヒー豆をかき集めるなか、ごめんと一言謝ったきり途端に口数の減るフェイスに、ディノの方は逆に普段通り話しかけながらの作業だった。
    「キースを起こした方が早かったかもな」
    「ん……」
     ざらざらと楽器然とした音を響かせるダストボックスを定位置に戻し、やたらと良い香りになった両手を洗う。水拭きもしておいた方がいいかと、シンク脇のキッチンタオルに手を伸ばした。今度は無事にコーヒー豆を収納したフェイスもちょうど同じことを考えたらしい。二本の腕がホルダーに伸びて、そして一本の腕は素早く差し引かれた。
    「……えっと」
     さすがにあからさまな態度だったと思っているのか、フェイスが視線を逸らす。傷付く前に理由を聞かなければならないと冷静さを保つ努力をして、濡れていた手をキッチンタオルで拭いつつ発された自分の声は、この場にそぐわない明るさだった。
    「ごめんな」
     ディノが謝ると、フェイスは弾かれたように視線を合わせてきた。驚きや戸惑いの入り混じるその表情は、決して見過ごしていいものではないとディノは直感した。
    「フェイス、違ったら悪いんだけど、もしかして……俺に触られるの、嫌?」
     フェイスはどう答えていいか、言葉に詰まっているようだった。フェイスの返事を待つ間、ディノはゆっくりと喋り続ける。
    「俺さ、フェイスと……結構仲良くなれたと思って、少しはしゃぎすぎてたかもな」
    「ディノ、俺は」
     焦りを含んだ制止が入る。そうではないのだと伝えたがる様子のフェイスだが、聡明な彼には珍しく次の言葉までは繋がれない。ディノも困り果てて、フェイスの眼を見つめて待つほかになかった。
    「ディノ……」
    「うん」
    「……俺のこと、どう思ってる?」
    「え」
     フェイスのことを、どう思っているか。質問の意図が分からずに、間の抜けた一音だけを発してしまう。フェイスは落ち着きなく視線を泳がせている。キースやジュニアの起床時間には、まだ少し早い。
    「どうって、フェイスは俺にとって……可愛い後輩だし、大切な仲間だし、できればもっと仲良くさせてほし――」
    「でしょ? だから俺、困ってるんだよね」
     今度はほんの少し不機嫌に、ディノの言葉を遮って、フェイスは顔を背けている。しかしフェイスのそんな雰囲気から、ディノが恐れていたネガティブな感情は掬えなかった。
    「困ってる? 何に……?」
     ディノがお手上げだという声で問う。フェイスはまるで諦めたように、自棄ともいえる勢いで答えた。
    「……ディノにとって、俺が可愛いメンティー止まりなのは、嫌なんだけど」
    「ああ……えっと、つまり」
     響いたフェイスの声と、入ってきた文章を把握するまでのタイムラグを引き伸ばして、ディノの耳と頭はようやく動き出す――そこで止まるのは嫌だということは、それ以上を求めているということで。
     歯車が噛み合うように、フェイスの変化、そしてディノの心を迷っていた感情が表へ滲み出す。次にディノを襲うのは原始的な衝動だった。どうしようもなく、フェイスに触れたい。
    「……メンティー以上なら、良い?」
    「え……」
     ふらりとフェイスに一歩を踏み寄る。ディノの纏う空気が変わったのに気が付いて、フェイスは一歩後ろへ退がった。あの夜にぶつかったマゼンタが狼狽えて潤んでいる。それもこれも全て自分のせいだと、一瞬で理解してしまった。フェイスの腕を引く。
    「待って、だめ」
    「ごめん、止められない」
     その身体をやわらかく抱き寄せるころには、どこからか湧き上がる感情の名前さえはっきりしていた。
     とにかくこれ以上、フェイスを困らせる結果にはならなさそうだ。観念したように力を抜いたフェイスの腰を引き寄せる。その体温こそが己の幸せに直結していたのだと、ようやく思い至った。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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    てゐと

    DONEフォロワーさんからもろに影響を受けたので夏のジュドニコを教師パロで書かせていただきました!
    以前保健室の冷蔵庫にニコが自分のものを入れているってフォロワーさんのツイート、本当に大好きですこ~し拝借させていただきました…すみません、お許しを。まあでもいいですよね、最高。

    ジュード→養護教諭
    ニコ→生徒

    余談ですがジュードせんせが言っている「担任のアイツ」はあの人のことです
    とけだす、泡沫「うわ、あつ……」
     誰が何と言おうとこんなにも暑いのに、空調の世話に慣れない中途半端な、夏になりかけの季節だ。校舎の窓という窓が開けられて、何が好きで我慢大会をさせられているのかと涼を求めて保健室の扉を開けたのに。ニコが風の流れを作ったので、消毒液の匂いが混じった生暖かい風が頬をさっと撫でる――いや、頬をじわりと撫でつける。
    「なんだ、ジュードはいないのか」
     廊下とは違い、締め切られた空間の暑さには本当にうんざりしてしまう。文句を言いながらもペタペタと上履きを鳴らすニコの額を、つうっと汗が流れていった。拭うこともしないまま、我が物顔でずかずかと進む先には冷蔵庫があって、ニコは迷うことなく上段に手を掛けて、まずは冷気を浴びた。それからアイシング用の冷却材や氷嚢用の氷の山を手のひらで掻き分けて探し出したのは、プラスチックの黄色いパッケージだ。ジュードはあまりいい顔をしないが特に止めもしないので、保健室の冷凍庫には定期的に氷菓を忍ばせることにしている。食べては入れて、食べては入れて。随分と奥に仕舞い込まれていたところを見るに、随分とそれもご無沙汰になってしまったようだ。
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