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    love_murasakixx

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    物置小屋

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    第十八回五七ドロライに参加させていただきました。
    お題は『執着』です。

    #五七
    Gonana

    お題『執着』「では、いってきます」

    「うん、いってらっしゃい。下で待ってれば伊地知が迎えに来るから。もう来てるかもな」

    「…あの、アナタは今日は、」

    「僕、今日は久しぶりに休みなんだよね。だからオマエが帰ってくるの待ってる、晩メシは期待しといていいよ」

    「…判りました。それじゃ」

    「待って、七海」

    「何ですか、っ…ん、う、」

    「…怪我しないように、おまじないだよ。気をつけていきな」

    「……子供じゃないんですから…いってきます」


    パタンと閉じられたドア、遠ざかるアイツの足音。
    僕はリビングに戻ると、窓を開けてベランダに出て地上を覗き込んだ。

    マンション前には既に黒い車が止まっており、見慣れた黒髪の男がその周りを落ち着きなくウロウロとしている。
    やがてマンションから出てきた眩しい金髪の男に嬉しそうに駆け寄った黒髪は、その場で何度も頭を下げて肩を震わせていたが、そのうち二人で車に乗り込むと安全運転で走り去っていった。


    「……ははっ、」


    一人残された部屋に、僕の笑い声が落ちる。


    「あははははっ!はーっはっはっ!」


    ベッドルームに駆け込んで、昨夜の情交の痕跡が色濃く残るベッドへと勢い良く飛び込んだ。
    笑いは尚も止まらない、だってそりゃそうだ。

    七海が高専を卒業したあの日から、四年。
    やっと、やっとだ。
    やっと手に入れた、ようやく取り戻した。
    僕は遂に、七海を永遠に我が物とする事に成功したんだ。
    これが嬉しくない訳がないだろう?

    シーツに染み込んだ七海の汗や精液の匂いを胸一杯に吸い込んで、しばし僕はかつての記憶に思いを馳せた。


    ◆ ◆ ◆


    七海が呪術師を辞めると言い出したのは、アイツの卒業が一月後に迫った、そんな頃だった。
    通い慣れた寮のアイツの部屋。
    安っぽいベッドの上で散々乱れた所為か、声は掠れてガラガラだったけれど、その言葉だけはすんなりと僕の耳に届いて。

    内心、『きたな』と思った。
    だけど僕はそんな感情をおくびにも出さず、ただ一言「そっか」とだけ返した。

    「止めないんですか」とアイツが言う。
    「泣いて縋って引き止めたら考え直してくれんの?だったら俺、恥も外聞もなくそうするけど」と僕が答える。

    案の定、七海は俯いて唇を閉ざした。


    灰原を喪って以降、七海の呪術師に対する遣り甲斐やら情熱やらが急速に枯れていってる事には気付いていた。

    七海とこういう関係になってからは僕も可能な限りアイツのメンタル面のサポートをしていたつもりだが、如何せん特級の僕への任務配分量は他の奴と比べて桁違い。
    それでも、増える一方の任務の合間を縫ってこまめに七海の元に顔を出してはいたが、どうしたって限界はある。
    それを埋めるように寄り添っていてくれた傑もあの事件以降いなくなってしまい、結局七海は呪術師である己の有り様を完全に見失ってしまった。

    だから、七海がそう言い出す事は判っていた。
    そして呪術界を離れるという事は、すなわち。


    「…俺と、別れるんだ?」

    「……済みません。勝手なのは判っています」


    そう、呪術界を離れてしまえば、僕との接点もなくなってしまう。
    それはつまり───僕等の別れを意味する。
    呪い渦巻く世界から身を引く以上、その世界でなければ生きていけない僕との関係をも断たなければならない、七海はそう考えているのだろう。
    真面目で堅物な七海らしい考えだ。


    ───でもな、甘いよ。
    僕がオマエを自由にしてやると、平穏で平凡な世界へ祝福と共に送り出すと、本当に思ってるのか?
    そんな訳ないだろう。

    七海、オマエは僕のモノだ。
    何があろうと、どんな事になろうとも、絶対に手放してなんかやらない、誰にも渡さない。
    その為なら僕は、善性も良心も正義だって、地面へ投げ捨てぐちゃぐちゃに踏みにじってやるよ。

    でも、今は───まだ、その時じゃない。
    だから僕は。


    「…判った。オマエがそう決めたのなら、俺は何も言わない。でも七海、ひとつだけ約束してくれよ」

    「……何ですか?」

    「もし…もしもオマエが、オマエ自身の意思でもう一度ココに戻る事があったなら。その時はまた、俺のものになって。二度とどこへも行かないで、俺だけの七海になって」

    「! 五条さん……」


    随分と分の悪い賭け、きっと七海はそう思ってる事だろう。
    何しろ七海は二度とココに戻る気はないのだから。

    でも、大丈夫。
    僕がオマエをもう一度ココに連れ戻してやる、戻りたくなるように仕向けてみせる。
    例え、どんな非人道的な手段を用いようとも、絶対にだ。

    だから七海、それまでは。


    「…どこにいてもオマエの幸せを願ってるよ、七海」

    「っ、ありがとう、ございますっ……」


    精々、退屈でつまらない生活を楽しむといいさ。


    ◆ ◆


    七海が卒業して呪術界を離れたあとに僕が最初にやった事、それは七海の新しい居住地と行動範囲を知る事だった。
    どうやらアイツはどこぞかの学校に編入し、勉学を重ねた上で就活をするらしい。
    住むところも、その学校に近いところにアパートを借りていた。

    アパートと学校の場所、通学経路、その他アイツの行動範囲になり得る場所。
    それ等を特定できた僕は、アイツの視界に呪霊どころか蝿頭一体の姿すら入り込まないよう、その場所全てに蔓延る呪霊を一気に祓っておいた。
    僕の術式をもってすれば難しい事じゃないし、これも七海をこっち側に引き戻す為の下準備だ。

    そして七海には、僕が手ずから造り上げた式神…いや、どちらかと言えば蝿頭のような低級呪霊に近いか…を監視カメラ代わりに憑けておいた。
    コイツは僕の呪力を核にして、更にその核を七海自身の髪の毛や精液、血液や爪の欠片を混ぜ込んだ媒体で何重にもコーティングしたモノで造られている。
    だから七海は憑かれている事に一切気付かない、何しろ七海自身の気配しか感じないのだから判る筈もないのだ。


    そうして僕の、長きに渡る七海監視ライフはスタートした。
    僕とは違う場所で生きる七海を見るのは新鮮ではあるけれど、やっぱり寂しくて辛くて苦しくて。
    何度、今すぐにでもアイツを連れ戻そうと思った事か。

    そんな昏い衝動に堪えつつ、僕は毎日毎日毎日七海を見つめ続けた。
    勉強する姿、街を歩く姿買い物する姿、家で寛ぐ姿風呂に入る姿、そして独り自慰をする姿……切なげに眉を寄せて僕の名前を呼びながら自慰に耽るアイツの姿は鮮烈過ぎて、僕も一緒になって自身を慰めたりした。
    アイツの気持ちは、心はまだ僕にあるのだと嬉しくなった。

    一方で僕は、七海が僕を忘れたりしないように策を弄する事も忘れなかった。
    これは簡単な事で、アイツに憑けてある式神もどきを通じて僕の幻を七海に見せるだけ。
    例えば街中でアイツの目の前を横切る僕の姿を見せる、その度にハッとした顔をして思わず周囲を捜す七海は、しばらくしてから『…目の錯覚、か』と肩を落とすのだ。
    こうしていれば、七海はいつまでも僕を忘れられないのだと思い込むだろう。
    それでいい、それでいいんだよ、七海。


    月日は過ぎる。
    七海の髪型が変わり、表情も精悍になり、体格もヒョロっこかったのが筋肉がついて逞しくなった頃、アイツは所謂一流企業へと就職した。
    それに伴って、僕はまたアイツの行動範囲内の呪霊を根こそぎ祓い、ガラリと変わった環境下におかれた七海をこれまで以上に注意深く観察する。

    七海は我武者羅に働いていた。
    退勤後に遊ぶ事もなく、頼まれもしない残業を抱え、何かに取り憑かれた(まぁ実際に憑いてるんだけど)ように仕事に打ち込む。
    時折洩れる独り言を拾って聞いてみると、どうやら七海は自分自身の価値そのものを見失っているようだ。

    呪術師として一人前にはなれず、かといって誰にでも代わりが務まる仕事に遣り甲斐を見出だせず。
    生真面目な七海は、働くという事に何らかの付加価値を見出だせない自分自身に絶望しているらしい。
    全く、本当に不器用な男だよ、オマエはさ。
    そんなところも愛してるけどね、まぁそろそろ次を仕掛けてもいい頃かな。
    何しろ僕もいい加減待ちくたびれてるんだ。

    こうして直接干渉できないままに七海の姿を見て声を聞く、そんな生活がもう三年以上続いているこの現状。
    時にはアイツに馴れ馴れしく接する会社の奴等を殺してやりたくなったり、格段に回数は減ったものの、相変わらず僕の名を呼びながら自慰をするアイツのところへ押し掛けてめちゃめちゃに抱き潰してやりたくなったり。
    今思えば、本当の本当に、僕も限界ギリギリまできていたんだろうな。

    だから、実行に移す事にした。
    アイツを、七海を呼び戻す為に。


    手始めにアイツが通うコンビニで、アイツがいつも欠かさず買っているお気に入りのカスクートパンの流通を止めさせた。
    僕の家の力をもってすれば、そんな事は造作もない。
    そのコンビニでカスクートが買えなくなった七海は、仕方なく他のパン等で我慢しているようだった。

    まぁね、大の大人がお気に入りのパンがなくなってしまったくらいで駄々を捏ねる訳にはいかないよな。
    だけど僕には判る、毎日毎日クソみたいな労働を続ける七海が、昼に好物のカスクートを食べるのを唯一の楽しみにしてたって事。

    そんな日々が一月程続いたある日、僕は式神を通じて、七海をとあるパン屋へと誘導した。
    そこは普段七海が行かない方向に最近できた新しいパン屋。
    パンのラインナップには七海の好きなカスクートもちゃんとある。
    何故って僕がパン屋のオーナーにちょちょいと吹き込んだから、害のない呪いというカタチでね。

    僕の思惑通り、七海はそのパン屋に頻繁に通うようになり、決まってカスクートを買っていくようになった。
    そしたら次の段階だ、店員の女が七海へ話しかけるように仕向ける。
    本当は店員といえども七海と会話させたくなんかない、でも七海を取り戻す為に血涙を呑んで我慢した。


    「好きなんですか? カスクート」


    律儀な七海は、話しかけられて無視するような奴じゃない。
    案の定、二言三言と会話を続けてから店を出た七海の表情は曇っていた。
    それはそうだろう、だって先の店員に蝿頭が憑いているのに気が付いたのだから。

    繰り返すが、高専を卒業してからの七海は、蝿頭をはじめとする一切の呪霊の姿を見ていない。
    何故なら僕が定期的に、七海の行動範囲内全ての呪霊を祓っていたからだ。
    だからきっとアイツは、自分は呪力を失ってしまったのだろうと錯覚していた事と思う。

    ところが今日、店員に蝿頭が憑いているのに気が付いてしまった。
    真面目な七海ならこう考えるだろう、『今まで見えなかったのは自分が目を背けていたからだ』と。
    その考えが確固たるものになるよう、僕はさほど害のない低級呪霊達を街中に呼び込んでおいた(高専で研究用に飼っていたモノだけど)。
    だから今、七海の目にはそれなりに多くの呪霊が見えている筈だ。

    七海ははじめ、それ等呪霊をことごとく無視しているようだった。
    しかし、日に日に顔色の冴えなくなる店員をこのまま見過ごす事は生来優しいアイツにはできない筈、絶対に。


    その日はきた。
    遂に七海は店員に憑いていた蝿頭を、自ら祓った。
    高専を卒業して以来、実に四年振りに使った呪術師としての力。
    そして店員からかけられた「ありがとう」の言葉に、七海の腹は決まったようだった。

    スーツからスマホを取り出し、僕の連絡先を呼び出す七海。
    僕は監視式神から送られる映像の音声だけを遮断し、スマホが鳴るのを待つ。
    僅かの間のあと、軽快な音を立てて鳴る僕のスマホ。
    かけてきた相手は、勿論。


    「もしもし、七海です」


    僕は込み上げる笑いを抑えられず、七海に訝しがられてしまった。
    ああ、ようやく直接オマエに会えるんだね、七海。


    ◆ ◆


    話があるという七海に迎えを遣ると伝え、約束の日は僕が直接車を出して迎えにいった。
    七海は自分の外見が昔と大分変わったからと心配していたが、大丈夫、僕はずっとオマエを見ていたんだからそんな心配は要らないさ。
    勿論、本人にはそんな事は言わないけれど。

    待ち合わせ場所の駅前、その近くに車を止めて七海の元に向かう。
    七海は既に僕に気付いていて、遠目にもまっすぐに僕を見つめているのが判る。
    だから僕も、大股で一直線に七海に歩み寄った。


    「よ。久し振りだね七海、元気そうで良かった」

    「…はい。五条さん、アナタも元気そうで何よりです」

    「まーね。じゃ、取り敢えず高専行こっか。話はソコで聞くから」

    「判りました」


    七海を助手席に乗せ、高専へ向かう。
    僕自らが迎えに来た事に七海は驚いたようだが、特にそれを指摘してくる事もなく、高専に着くまで車内は沈黙に支配されていた。

    きっと七海は戸惑っているのだろう。
    あの日、卒業前に僕と交わした約束を、コイツはまだ確実に覚えているから。
    その上で、自分の外見が昔と変わってしまった事、あれから四年も経ってしまった事を踏まえ、その約束を自分から口に出すべきか否かと考えている。

    ま、ここまできたら焦る事はない。
    先ずはさっさと用件を済ませ、本題に入ろうじゃないか。


    七海、僕、そして夜蛾学長を交えて話し合いの結果、七海の呪術師復帰は呆気ない程簡単に認められた。
    まぁ認めない奴は僕が潰す気でいたから、手間が省けたけれど。
    当面は僕が七海を直々に鍛え直しながら、先ずは低級相手の任務から徐々に勘を取り戻してもらう、そうも決まった。
    七海は僕に鍛え直されると聞いて僅かに顔を顰めたが、特に異論は無いようだった。

    話し合いが終わった頃には、すっかり陽が落ちていた。
    タクシーを呼ぶという七海に、僕は軽い調子で声をかける。


    「七海、もう帰るだけだろ? 一緒にメシ食おうぜ」

    「っ、……ですが、」

    「久し振りに会ったんだ、積もる話もしたいし。な、いいだろ?」


    積もる話、に含みを持たせてやれば、案の定七海の表情が僅かに強張るのが見てとれた。
    それでも逃げる訳にはいかないと思ったのか、ややして小さく頷いてくれて。
    こうなればもう、こちらのモノだ。


    「…判り、ました」

    「よし、それじゃ善は急げってね。七海、しっかり掴まってろよ」

    「え、あの、五条さっ……」


    七海の腰に腕を回して引き寄せると、有無を言わさず術式を使って僕の自宅まで跳んだ。
    呆然としている七海を手早く部屋に押し込み、しっかりと玄関を施錠。
    スマホの着信音も切り、誰にも邪魔をされないように舞台を整える。

    さあ七海、覚悟は決まったか?
    一生涯、僕だけのモノになる、その覚悟は。


    「…七海。あの日の約束、覚えてるよな?」

    「…………」

    「僕は覚えてるよ。一日だって忘れた事なかった。でも…果たされる事はない、それでいいとも思ってた」


    そんな訳あるか、僕は七海を手放す気なんてこれっぽっちもないんだから。
    内心でそう毒吐きながら、慎重に言葉を続ける。


    「この約束が果たされる時、それはつまり、オマエがまたこの世界に舞い戻って来るって事だ。折角平和な世界へ帰ったオマエに、二度とコッチ側へ来て欲しくなかった。それなのに…」


    僅かに声を詰まらせ、肩を震わせる。
    今の僕、きっと主演男優賞も楽々受賞できるだろうな。


    「ねえ、七海。どうして戻って来ちゃったの? 僕、もう、二度とオマエを手放してやれないよ?」

    「……! 五条、さん…」


    目を見開いた七海に手を伸ばし、思い切り抱き締めた。
    ああ、夢じゃない、映像じゃない。
    本物の、ずっとずっと触れたくて堪らなかった、本物の七海が僕の腕の中にいる。


    「七海、ねえ七海。聞かせてよ、オマエの気持ち。もう僕の事なんて何とも思ってない? 僕の気持ちは迷惑なだけ?」

    「……っ、私、は、」


    七海が未だに僕を好きでいてくれてる事は判ってる、何しろずっと見てきたんだから。
    それでも今、この時、どうしても七海の口から言わせなければ、僕は本当の意味では七海を手に入れた事にはならないのだ。

    言って、七海。
    その唇で、その声で、僕を好きだと、愛していると。
    オマエの想いを僕に全部ブチ撒けろ……!


    「…五条さん、私は」

    「うん」

    「…あの頃と随分変わりました。見た目も、中身も」

    「うん」

    「アナタが想ってくれていた頃の私は、もうどこにもいないんです。それでも…それでもアナタは、」

    「七海は七海だよ。確かに見た目は大分変わったけど、心根も魂も七海のままだ。僕はね、七海。オマエの見た目だけを愛した訳じゃない。七海建人って存在全てを愛してるんだ」


    真っ直ぐに七海の瞳を覗き込んで、子供に言い聞かせるように一字一句をしっかりと告げる。
    美しい碧色が物言いたげにゆらゆらと揺れているのを見て、駄目押しとばかりに笑いかけた。


    「愛してるよ、七海。昔も今も、ずっとずっと、ね。だからちゃんと聞かせて、今のオマエの本当の気持ちを」

    「………」


    僅かな沈黙。
    しばらく互いに見つめ合っていると、不安げに揺れていた碧の双眸が不意にギラリと輝いた───それはまるで、何かしらの決意を固めたかのようで。


    「…五条さん。私はきっと、アナタより先に死ぬでしょう。アナタを独り、置いていってしまうでしょう。それでも…それでも私は、これからもアナタを愛し続けたい。この命が尽きるまで…いえ、尽きてからもずっと」

    「! ななみ、」

    「アナタと共に在りたい。この想いは…学生の頃から変わっていません。五条さん、私は」


    フッ、と。
    七海はとても柔らかく、慈悲深く、美しく微笑んだ。


    「アナタを、愛しています」

    「っ、七海……!」


    ああ、ようやく。
    僕はやっと、本当に、七海の全てを手に入れたのだ。


    ◆ ◆ ◆


    「七海、お帰り。復帰後の初任務はどうだった? 怪我してない? お腹空いただろ、ご飯できてるよ。あ、それともお風呂の方がいいかな」

    「……ただいま戻りました。取り敢えず、矢継ぎ早に話すの止めてもらえますか」


    十九時を少し過ぎた頃、七海が無事帰宅を果たした。
    復帰後の初任務という事で、どこか怪我してきやしないかと内心ヒヤヒヤしていたが、この様子なら大丈夫だったんだろう。
    ま、今日まで僕がずっと稽古をつけてきてた訳だし、元々七海は呪術師としては優秀だ。
    これならかつての二級、イヤ、一級に昇格するのも時間の問題だろうな。

    ……正直、七海の等級が上がるのは、僕としては歓迎できないけれど。
    でも仕方ない、僕が仕向けた事とはいえ、ある程度は自分の意思で七海はここに戻ると決めたのだ。
    ちゃんとアイツの実力に見合った任務に当たらせてやらなくては、アイツの決意を踏みにじる事になってしまう。
    それは僕の本意ではない。


    「伊地知と会ったのも久々だったろ。何か言われた?」

    「それが、何故か泣かれてしまって。落ち着かせるのに苦労しましたが、彼も元気そうで何よりでした」

    「硝子には?」

    「会いましたよ。今度、飲みに行く約束をしました」

    「はぁ 何ソレ、ずるい!」


    硝子のヤツ、やっと僕のモノになった七海と簡単に約束なんてしやがって!
    ダメだダメだ、絶対に許さないからな!


    「七海、ソレ、僕も行くから。絶対に行くからな!」

    「行くって、アナタ飲めないでしょう。行ってどうするんですか」

    「決まってんだろ、七海といちゃつくのを硝子に見せつける」

    「止めて下さい、冗談じゃない」


    心底嫌そうな顔をして、七海は着替える為にリビングを出ていった。
    僕はその間に夕食を温め直し、僕と七海、二人分の配膳を整える。
    しばらくして着替えとうがい手洗いを済ませた七海が戻り、僕等は揃って夕食を摂った。


    「任務はどうだった? まぁオマエならラクショーだっただろうけど」

    「そうでもありませんよ。やはり四年のブランクはキツい」

    「そう? それじゃもう少し特訓の密度あげる?」

    「ええ、お願いします。今のままでは、ただの足手まといにしかなりませんから」


    七海はストイックなまでに強さを求める。
    それはイコール、僕と共に生きる為。
    だから僕も特訓に容赦はしない、七海が真の強さを引き出せるように徹底的に叩きのめす…胸は痛むけれど仕方がない、これも七海の生存確率を高くする為だ。


    「次の任務はいつ?」

    「明日の午後です。アナタは?」

    「僕は朝から。あーあ、もっと七海といちゃいちゃしていたいなぁ」

    「それは無理でしょう。特級なんですから、アナタ」

    「判ってるけどさぁ、四年だよ? 四年の空白を埋めるには、まだまだたーっくさんいちゃつかなきゃ足りないでしょ!」

    「……それなら、」


    食事を終えてコーヒーを飲んでいた七海が、ニィと唇を吊り上げる。
    その蠱惑的な微笑みの意味するところを悟り、僕は誘われるように手を伸ばしてその薄い唇を指先でなぞった。


    「勿論、そのつもり。安心しなよ、明日の任務に障るような無体な真似はしないから」

    「ふふ、どうですかね。アナタ、私のカラダ大好きじゃないですか」

    「心外だな。カラダも心だって、僕はオマエの全てを愛してるのに」

    「知ってますよ、そんな事。私も同じですから」


    満足げに微笑む七海が愛しくて、我慢できずに引き寄せてキスを仕掛けた。
    あーごめん、やっぱ無体を強いるかも。
    だってオマエ、エロ過ぎるんだもん。
    加減も我慢もできる訳ないじゃん。


    七海、僕の、僕だけの七海。
    どうか命尽きたその先までも、ずっとずっと僕だけのモノでいて。
    オマエがまたいなくなってしまったら、今度こそ僕はどうなってしまうか判らないから。

    愛してるよ、七海。
    僕のイノチ全てで。


    ◆ 了 ◆
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