あなたのおうちはどこですか「かぁんたろ、これみろぉ」
べろべろに酔っ払っている尾形さんはそう言って、自分の首から下げているネックレスチェーンを何度か掴み損ねながらなんとか持ち上げた。アクセサリー類をつけてるのを初めて見たから珍しいな、と思ってたんだよな。チェーンはパジャマの下に流れていたので、見せるためのものをつけてるわけじゃないんだなぁ、とは思っていたけど。
思っていたけどさ。
「おーまもり♡」
「ん? え?」
チェーンの先にはこの前尾形さんにあげたシル◯ニアの赤ちゃんがいた。え? なんで? シル◯ニアの猫の赤ちゃんの頭になんか刺さってるんですけど?
「これ」
「おまもりぃつったらぁ、やってくれたぁ♡」
「え、ええー?」
ドヤ顔したまま、尾形さんはシル◯ニアの赤ちゃんをまたパジャマの下に戻した。もちろん猫の刺繍が入ったカーディガンも嬉しそうに着ている。こたつで背中は暖まらないからね。
シル◯ニアのお守りを気に入ってもらえたのは何よりだけど、やっぱり尾形さんの人間関係って分かんないよな。ものすごく酒臭い状態でうちに来ることもあるし、たまに「貰った」って言いながら高そうな木箱に入れられた酒を持ってくることもある。
俺はまだ二十歳になってないから酒は飲めないっていうのに、そのままうちに置いていくし。そうやって置いていかれた日本酒、焼酎、ウイスキーにワイン。一応、順番に尾形さんが飲んでいるけど、飲み終わる前に次の酒を貰ってくるので全然減らない。
しかも冷蔵庫の中には尾形さんが買ってきたビールとかチューハイとか入っている。なんでこんだけ貰ってるのに買ってくるの? と聞いたら「知らん。本能だ本能」と返された。そんな本能は理性でどうにかしてほしいのに、酔っ払った尾形さんはコンビニに吸い込まれてしまう。俺んちをなんだと思っているんだ。
べろんべろんに酔っ払ってからうちに来たっていうのに、せっせと作ったハイボールを飲んでいる。どれだけ酔っ払っていてもハイボールが作れるのは不思議なんだけど、それも本能なのかな。
「それ飲んだら寝ましょうね」
「んー? んー」
曖昧な返事をしながらこたつの中で俺の足を蹴ってくる。大きなあくびをした尾形さんはテーブルに顎を乗せた。
「のまなかったらぁ、ねないぃ?」
「寝ますよ。もう飲まないなら今から寝ますけど」
「やぁだ、のむー!」
ぶんぶんと首を横に振る。今日の尾形さんの酔っ払いっぷりはなかなかひどいな。俺はテーブルの端に置いているお菓子ボックスからラムネを取り出す。いつだったか、二日酔いで死にかけている尾形さんが今にも吐きそうな顔をして言っていたのだ。
「酔っ払いにはコレを食わせてから寝かせろ」
それがコレ、ラムネだ。俺にはよく分からないが、どうもこのラムネを食べてから寝たときとそうでないときでは翌朝の体調が違うらしい。半信半疑ではあったんだけど、尾形さんを見ている限りでは確かに効果があるようだ。
「ラムネ食べましょうか」
「んんー……」
「水も飲んでくださいね」
「みずはぁ、ハイボールにはいってるから……」
「入ってませんよー。明日辛いのは尾形さんでしょうが」
こたつの電源を切って立ち上がる。俺も水を飲んで寝よう。尾形さんは唸りながら残っていたハイボールを一気に飲み干す。
「かぁん」
「はいはい。ほら、お水飲んで」
「ううー……」
足に絡まってきた尾形さんの頭を撫でながら水を渡すと、やっぱり唸りながら飲み干した。偉い偉いともう一度頭を撫でる。
「トイレ行ってきてください。布団敷きますから」
「ん」
頷いた尾形さんはよろよろしながらトイレに向かう。狭い家だからこたつからトイレまでだって数歩しかないのにすごく心配になる。結局尾形さんがいつ来てもいいように枕も買い足したしさ。
トイレから出てきた尾形さんを布団に転がすと、何が面白いのかくすくすと笑いだした。
「おまもりはなぁ、ずっといっしょなんだぞぉ」
「そーですねぇ」
シル◯ニアの赤ちゃんのついたネックレスは外さないってことかな。
お互いに肩まで布団を被る。シングルサイズに男二人で寝るのはどう考えても狭いんだけど、この狭さにも慣れてしまった。慣れてしまったんだなぁ。
だって一人で寝るより、尾形さんと一緒に寝る方が暖かいんだもん。
俺を抱き枕にして尾形さんはすぐに寝た。
何があったのか分からないけどどろどろのぐちゃぐちゃになって明け方にドアを叩かれるよりずっといいし、ゴミ集積所のネットに絡まってるよりよっぽどいい。
スマホのアラームを確認して俺も目を瞑る。
最近のお気に入りである尾形さんの寝息を子守唄にする。
これがよく眠れるんだよなぁ。もうほんと、慣れって怖い。