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    千代子

    七五好き。

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    千代子

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    893ぱろ75短編
    あと何個か続きます

    夏が終わり、一気に秋が来た。
    五条の別邸の周りも、いつの間にやら蝉時雨が止み、鈴虫や興梠の高く澄んだ音が月夜に冴え冴え響いている。
    あの人は、と見渡すとしどけない着流し姿で濡れ縁の柱に凭れていた。
    いや、柱に支えられて辛うじて身体を起こしている、と言った方が近いか。
    「また、そんな所で」
    戯れに「若」と声を掛けると酷く嫌そうに顔を顰めて此方を向いた。
    「お前、それは仕事の時だけにしろって」
    「一応これからシノギの話をするんですがね」
    「建前だろ、んなもん」
    ぐっとネクタイが掴まれる。
    眼前に、迫った青い目が少し揺れている。
    「……悟さん」
    余所行きをかなぐり捨てて、甘ったるく呼びながら口付けを乞う。
    ニンマリ笑った青は、矢張りあの日から変わらず美しい。

    ――四年前。
    大手証券会社で働いていた七海は、普通の生活を捨てた。
    元々辟易していたのだ。
    元手の少ない人間を踏み台にして金持ちに媚びを売る。指先一つで億が動き、読み違えれば泡と消える。カネだ。カネカネカネ……。頭の中にカネが詰まっているみたいな毎日。
    食欲が失せる。
    まともに睡眠がとれない。
    同期が自殺した。葬儀より気になるドル相場。
    明日は我が身と思いながら職場の硬い椅子で2~3時間仮眠を取ってまたカネカネカネ。
    そんな時に五条がふらりと七海の前に現れた。
    『お前の力が欲しいんだよ』
    指定暴力団五条組若頭、組長の実子にして現在組の実権を握る男。
    そんな肩書をぶら下げたスカウト。最初は受ける気など毛頭無かった。
    なのに。
    『この世界ってさ、いきぐるしくない?』
    いきぐるしい。息苦しい。生き苦しい。
    その言葉に抵抗が緩んだ。
    『でもさ、正攻法じゃぁこの世界は変わらない。だから僕は裏からこの世界を変えられないかやってみたいのよ』
    せっかく、ヤクザの家に産まれたんだし。なんてニンマリ五条悟は笑った。
    その真っすぐな瞳があんまりに綺麗で。
    あの瞬間、惚れたのだと思う。人としても、男としても。

    その日から、日陰の道を歩いてきた。
    背中に墨を入れたし、小指も欠けた。
    撃たれて腹に風穴が開いたこともある。
    それでも、後悔したことは一度も無い。
    五条に恋人として選ばれてからは、なおのこと。

    「ん……」
    五条が酸欠を訴えて胸を叩くから、仕方なしに唇を解く。
    肩で息をする美しい男。とろり、と融けた青が美味そうでべろり、と舐める。背中に回った手が縋るようにきゅぅとシャツを掴んだ。
    「中へ、入りますか」
    誘うと、彼はこっくり頷いた。
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