「これ、KKが喫煙所に行ってる間につい買っちゃったんだけど」
仕事から帰ってきたKKが凛子に報告している間に暁人はボディバッグから手の平大のぬいぐるみを小さいKKと暁人の前に置いた。
黄土色の毛に小さいKKがびくりと体を震わせる。短い髪の毛が逆立って見えるのは暁人の幻覚だろうか。小さい暁人の方はサングラスとギターかベースの貼りついた陽気な笑顔に釣られるようにぱっと表情を明るくしてぬいぐるみに手を伸ばした。
「カピバラだよ。音は鳴ったりしないけど手触りはいいだろ」
暁人の言葉に小さい暁人は頷いてぬいぐるみに抱きついた。小さいKKは嫌な顔を隠さないが止めまではしないらしい。
「また変なモン与えてんな」
凛子との会話を終えたKKが小さいコーナーを覗き込む。小さいKKがすぐさま小さい暁人とぬいぐるみを庇った。
「別に獲りゃしねえよ……そんなぬいぐるみ怖かねえだろ」
犬のマスコットキャラクターのイラストに怖くないのかと揶揄ったことを思い出して暁人はこっそり笑った。暁人だって倍近い年上の男が絵を怖がるとは思っていない。ただあの自分以外の人間が存在しない世界で他人と何でもないやりとりをすることがささやかな救いになっていた。
簡単に言えばKKの声が聞きたくてわざと揶揄していたのだ。動物嫌いしかり、幼児扱いしかり。
「小さいオレを忘れんなよ」
囁くような声で要望を伝えるのを暁人は聞き逃さなかった。小さい暁人も心得たとばかりに頷いて、ぬいぐるみを優しく撫でると今度は小さいKKに抱き付き頬にキスをした。
「わ!」
「そこまでしろとは言ってねえよ!」
「ねえ、貴方たち、イチャついてないで報告書をまとめなさい」
「「イチャついて」」「ねえよ!」「ないです!」
それがイチャついてるって言うのよとわざとらしく肩をすくめて笑う凛子に小さいやつらだけだと否定するKK。でも小さいのって結局僕らなんだよなあと思いつつも口には出せない暁人を見上げてた小さいKKと小さい暁人はカピバラぬいぐるみをそっと差し出してベッドに向かっていった。