月夜の戯れカチャリと鍵が開き、隙間の空いた窓から少し冷たい風が入り込んできた。
さっきまで行われていたコトの途中は暑くて火照っていたのに、それが冷えていくようだった。
「…夜風が、心地いいな」
「ヴァル様、起きてらっしゃったんですか」
「ああ。…お前が加減したからかもしれんな」
「主に無体を強いたくはありませんから」
「このような関係になって、今更か?」
窓際に立つシモベは、白銀の髪が月夜を受けてキラキラと光り、まるで雪のようだ。
「フェンリッヒ、寒くないか」
布団に寝転がり、包まった状態でヴァルバトーゼがフェンリッヒに問う。
フェンリッヒは上半身に何も着ていない状態で、下だけ着ていた。対してヴァルバトーゼは下着だけの状態。
「いつもとさして変わらない格好ですから、平気ですよ。ヴァル様は寒くありませんか」
「…少し、寒い。だからこっちに寄れ」
「お望みとあらば」
行為の後は、ヴァルバトーゼは少し甘えてくる。フェンリッヒは微笑みながら、主の近くへと寄る。
同じ布団に入り、許しを得てその身体を軽く抱きしめた。
「身体が冷えていますね」
「元から体温は低い。だから、お前の体温が心地いいのだ」
「そうですか。…気の済むまでどうぞ」
フェンリッヒはいつも、ヴァルバトーゼには優しく甘い。
普段は小言を言われるが、心酔している故か、折れてくれることが多い。
抱きしめていると、先程までの匂いがほのかに香り、ヴァルバトーゼの身体が疼いた。
彼は無体を強いたくないという理由で、あまり長い時間はしないのだ。
「…フェンリッヒ、お前はまだ若いのだから、我慢はしなくても良いのだぞ。俺は女子供ではない。身体はまだ頑丈な方だ」
「わたくしは、ヴァル様を欲を吐くだけの相手にはしたくありませんし、明日の仕事のことも考えると、無理はさせられません。貴方のことですから、お休みにはなられないでしょう?」
優しい言葉が耳元から入ってくる。
このシモベは察しが悪いのではなく、素で言っている。
最中は余裕が無い目をするクセに、終わるとそれが隠れてしまう。ヴァルバトーゼは、普段のフェンリッヒの余裕が無くなる瞬間が好きであった。
「…あまり、耳元で喋るな」
「それは失礼致しました」
そう言いながら耳を軽く触り、主の肩が少し震える。
何故かフェンリッヒは最中、ヴァルバトーゼの顔を触りたがる。
頬を撫で、耳元で囁き、髪を梳くのだ。
そしてヴァルバトーゼもフェンリッヒの髪を梳くのが好きだ。
背中に回した手を、髪の毛へやる。誘う時も、そうするのだ。
「…ヴァル様は、わたくしの髪をやたら触りたがりますね」
「ふわふわして気持ちが良い。それだけだ」
「そうですか」
「……」
本当にもう手を出してくる気がないらしい。
一度疼き出した腹の奥がどうにも出来ず、ヴァルバトーゼは痺れをきらす。
顔を上げ、乾燥した唇に己のものを重ねた。
シモベが何か抗議の声を上げようとする度に重ねる。
「…あの、あまり煽らないで頂けませんか。……我慢が効かなくなります」
「そんなもの、取っ払ってしまえ」
「ですから、わたくしは…」
無理をさせたくない。
明日に障る。
そんな用意したような答えは、言葉は聞きたくない。
ヴァルバトーゼはフェンリッヒの首に両手を回し、一気に引き寄せ、耳元へ囁く。
「…察しの悪いシモベだな。俺に全部言わせる気か?」
──足りぬ、と言っているのだ。
砂糖をそのまま溶かしたような、欲を孕んだドロドロの甘い言葉が耳に流し込まれる。
ゾクリ、とフェンリッヒの背筋に衝撃が走った。
「〜〜っ!!…本当に、貴方という人は…!」
常の彼ならやらないような、強引な引き剥がし方をされ、その顔はかつてない程に真っ赤だった。
向けられるその目に、先程の余裕などない。
(─その目で射られるのが、何より心地いい)
「…煽ったのは、貴方ですからね」
布団に押し倒される。
目の前にいるのは、微塵も優しくなどない、ただ獲物を狙う獣。
「言っただろう、足りぬと。─好きにするがいい」
空気が変わったのを感じる。
またあの時間が始まるのだ、とヴァルバトーゼはその高揚感にただ口角を上げた。