「大学で男に惚れられて困ってる?」
食事が終わり、KKはリビングでゆったりと寛いでいると、暁人にそう相談された。
どうしようと涙目に訴えてくる。普通に無理だと言えば良いだけの話なのだが、お人好しの暁人は無碍には出来なかったらしい。
はぁ…とため息を付いてとりあえず説明をしてもらう。
事の発端は、大学の女装ミスコンに暁人が出場した事だった。
何故そんなものに出たと聞けば、サークルの友達に勝手にエントリーさせられたのだと。
女性の友達に助けを貰いながら出たそれは、大盛況で暁人はなんと優勝まで果たしたという。そして冒頭に話した通り、とある男にしつこく惚れただの、付き合って欲しいだの言われて困っているらしい。
いやいやとKKは首を振る。
男の女装なんて高が知れる。そんな惚れるような要素なんてあるか?
確かに、暁人は顔が整っていて、綺麗な方であるとは思っている。が、きちんとした男の顔だ。化粧したって、男と言う要素は消えることはない。昔、見た女装したやつを思い出して、背筋がゾッとした。あれは化け物みたく気持ちが悪かった。
「女装したお前に告白だなんて、さぞ物好きなんだろうな。女装なんてただただ気持ち悪いだけだろ」
「ふーん、そんなこというんだ。そこまで言うならいいよ、実際に見て貰うから」
「やめろ。どうせ白けて終わるんだ。」
「絶対にぎゃふんと言わせてやる!」
ぷんぷんと怒りながら暁人はリビングを出ていった。
なんでわざわざ見なきゃ行けないんだか、と煙草に火をつけて吸い込む。気持ちの準備をしておかないと、絶対に吐く気がして。
そして、紫煙を燻らせながら新聞を読み待つこと1時間。
暁人が出来たよ。と叫ぶから新聞を置き、見せてみろとKKも叫ぶ。
そして、入ってきた暁人の姿に、KKは目を見開き、咥えていた煙草を落とした。
「ちょっと!煙草は落とさないでよ。」
「わ…悪ぃ。え…は…?暁人…だよな?」
「ふふっ、どう?すごいでしょ?」
得意げに笑ったその顔は暁人そのもののなのだが、メイク1つでかなり違う人に見える。
目元は暁人そのものだが、つけまつ毛をしているのか、少し目元が強調されており、
チークはナチュラル目に。でも、可愛らしさを見せる為に、薄いピンクの物を。
リップも同様に薄いピンクのものだが、少しオーバーめに引かれており、その上からグロスも塗られていた。
ウィッグは、鎖骨より少し下の長さのもので、髪色は暁人の元の色に合わせるように、茶色みのある黒が使われている。
服装は喉仏をレースのハイネックで隠されており、その上から骨格を隠すためにオーバーサイズのライトブルーのセーター。スカートは紺色で足首までの流さのあるものを履いていた。こちらも、足の筋肉を隠して女性さを出すために。
仕草も勉強したのか、男のようなガサツさはなりを潜めていて、なよなよとしたものではなく、でも奥ゆかしさはある。これで外を歩いても、声を出さなければ男だとバレないだろう。
それくらい完璧なものだった。
ポカンとしてるKKに満足した暁人は、ソファに綺麗に足を揃えながら座って、KKに垂れ掛かるようにぴっとりと身体をくっつけ、
「ね、これでも告白されないと思う?」
妖艶さを見せながら、ふわりと笑う。
どんな女性にも負けない綺麗さが暁人にはあった。KKは両腕を上げて降参のポーズを取った。
「俺が悪かった。仕草まで勉強してるとは恐れ入った。確かにこれは変な虫が付くな。」
「僕も周りに褒められすぎて自信着きすぎちゃいそう。どうしたら諦めてくれると思う?」
KKはんー、と顎を触りながら考える。
暁人は普段はこの格好をしてる訳では無い。
そうなると、これが一番手っ取り早いのでは無いか。
「そのままじっとしてろよ」
「えっ?なにっ…あっ…!」
首元のレースを少しずらして、剥き出しになった首筋に吸い付く。暁人が驚きでピクリと身体が震えた。
「これでいいだろ」
暁人の首筋には綺麗なキスマークが付いた。あまりハイネックの物は着ないから、これを見せつければ、大抵の相手は来なくなるはずだ。暁人は真っ赤になって、パクパクと口を開閉している。驚きと怒りで声にならないようだ。
「これでも寄ってくるようなら、また俺に言えよ。」
顔を拝みに行ってやるよ。
ニヤリと笑ったKKに、暁人は穏便にね。と言うだけだった。