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    ことざき

    @KotozakiKaname

    GW:TのK暁に今は夢中。
    Xと支部に生息しています。

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    ことざき

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    とんちきな日常の話。K暁。

    #K暁

    チアーズ・トゥ・ザ・フィブズ!「今日はワインとウィスキーと生ビールの日らしいぜ。エドが言っていた」
     暁人の顔を見るなりKKが言い放った。

     すっかり日も長くなった春の夕暮れ。依頼先からマンションに直帰した暁人は、部屋の玄関先でKKとばったり出くわした。そこで言われたのが先程の言葉だ。
     玄関の鍵をボディバッグから取りだそうと四苦八苦していたらしい彼の両手には、白いビニール袋がそれぞれふたつずつ。かなりの重量があるらしく、すっかり伸びきった持ち手が、彼の手の平へギチギチに食い込んでいる。
     今にも破れそうな半透明のビニールから透けて見えているのは、日の丸を思わせる赤い円が描かれた長方形の紙パックに、透きとおるような琥珀色の液体がたっぷり入ったお洒落なガラス瓶。そして、黒い背景と黄色い星マークが鮮やかな白い缶の群れ。
     先程のKKの言葉と、彼の手元にある光景。そこから導き出される答えはひとつしかない。
     暁人は片足に体重をかけるふりで、さりげなく半身になって右手を身体の後ろに下げた。そのまま何食わぬ顔で訊ねる。
    「しばらくは飲まないって言ってなかったっけ?」
    「ああそうだ。酒は控える。これはエドに頼まれて買っただけだ。オレが飲むわけじゃねえ」
     KKの答えは素早く明快だった。あまりにも滑らかすぎて、かえって不自然さすら感じてしまうほどに。
     この分かりやすさは、さすがに元警察官としてどうなんだろう。というか、こんなに分かりやすい人だっけ。暁人はつかのま、無言で目の前のパートナーの顔を見つめた。
     その一瞬の沈黙と視線をどう捉えたのか、KKがじろりと暁人を睨んだ。彼の視線はそのまま暁人の顔から首、右肩へと流れてゆき、やがて身体の後ろへ隠した右手――中身のぎっしり詰まったエコバッグへとたどり着く。
     暁人が身を硬くするのと、目をすがめたKKが口を開くのは、ほとんど同時だった。
    「オマエこそ、オレと一緒に減酒するんじゃなかったのか?」
    「もちろんするよ。これは料理で使うから買っただけ。ほら、肉を柔らかくするのにさ」
     嘘だった。いや、実際に肉の筋繊維をほぐすためにアルコールを使ったことは何度もあるのだが、それはあくまでも料理酒でのこと。いま暁人が右手に提げているような、甘くて度数の低い果汁入りリキュールを使ったことはない。
     KKの目が意地悪く光った、ような気がした。
    「ずいぶんと甘ったるい肉料理になりそうだな?」
    「そうかもね。でもKK、牛すじ肉の甘辛煮は好きだよね? 白身魚の甘辛煮付けも。この前作った牛丼や玉子焼きだって……」
     今度は暁人の口が滑らかに回る番だった。キッチンの主であるのをいいことに、こっそりと隠し飲むつもり満々だったせいで、やましさはひとしおなのだ。
    「いつも美味い美味いって食べてたけど、あれ、嘘だった? 僕に気を使ってたとか?」
    「んなわけあるか」
     だよね、知ってる。暁人は内心で深くうなずいた。たまにしか会わないような関係性であればともかく、生活をともにする相手と腹を割って話せなければどうなるか、暁人もKKも身をもって経験している。
     ならば今のこの白々しい状況はなんなのかという疑問からは綺麗に目を逸らしつつ、暁人はコホンと大きく咳払いした。
    「ところでさ、KK」
    「なんだよ? 暁人」
    「エドさんはどうしてわざわざKKにお酒を買うよう頼んだの?」
    「そりゃあ……アレだ、アレ。酒の値段がまた上がりやがるからな。今のうちに買っておくつもりなんだろ」
    「ああ、なるほど」
     つまり、暁人とKKの二人して、考えることは一緒だったというわけだ。暁人はやや遠い目になりながら相槌を打った。これもうお互いに隠しつづける意味あるのかなぁ、などと考えながら。
    「ところでな、暁人」
    「なに? KK」
    「もしエドがこんなにアルコールはいらないと言ってきたら、オマエも飲むか?」
    「そうだね。せっかくだし、飲みたいかな」
     暁人は、言葉だけは控えめに、けれど、しっかりはっきり同意した。ちらっとだけ胸に浮かんだ、「なんで頼んだエドさんがいらないなんて言うんだよ」という意地悪な疑問は口にしない。ここで下手に突っついて、せっかくの美味しい酒にありつけなくなったら困るからだ。同様に、先程のKKの突っ込みがやけに甘かったのも、夕飯を食いっぱぐれることを恐れてのことだろう。
     暁人は半身になっていた身体の向きを元に戻すと、したり顔をしている年上の恋人を正面から見つめた。
    「ところでさ、KK」
    「なんだよ? 暁人」
    「僕が買ったこのリキュール、ちょっと料理に使うには多すぎたかなぁと思うんだよね。だから、もし……」
     皆まで言わせず、KKが大きくうなずいた。
    「そうだな、もしエドがこれを突っ返してきたら、オマエのと併せて今晩か明日あたりに酒盛りでもするか」
     彼はもはや隠そうともせず、ウキウキと声を弾ませている。暁人も鹿爪らしい表情を投げ捨てると、ぐっと身を乗りだした。
    「じゃあ、そのときにはオツマミを作るね。焼き味噌とかどうかな?」
    「いいねえ。ぜひともソイツで頼む。オレもこれを部屋に置いたら、もう一回、今度は酒の肴になりそうなヤツを買いに行くかな。オマエのツマミは抹茶のロールケーキで良いか?」
    「うん! お願い」
     こうして、とんとん拍子に宅飲みの話は纏まった。二人でかわした減酒の誓いは、遙か彼方へ置き去りにしたまま。いったいこの万年新婚夫夫は玄関先で何を長々とやっているのだろうと、近隣住民から投げかけられている好奇の視線にも気づかずに。

    「ところでな、暁人」
    「なに? KK」
     両手が塞がっているKKにかわり、玄関のドアの鍵を開けていた暁人の背中に、ふたたび真面目くさった声がかかった。
    「今日は四月一日だろ?」
     わざわざ言わずもがなの確認をしてくるからには、酒盛りの件でまだ何かあるのだろう。暁人も大真面目な声を作って答えた。
    「そうだね。今日は四月一日、新年度が始まって一日目だね」
    「んで、減酒の話をオマエとしたのは朝起きてすぐ、午前中のことだった」
    「うん」
     KKの言わんとしていることが、だんだん暁人にも見えてきた。
    「つまり、オレたちは誓いを破ったわけじゃない」
    「ちゃんと午後にネタばらしもしてるしね」
    「そういうことだ」
     勝手に名前を使われただけのエドがもし近くにいたなら、午前中ルールの真偽について、イギリスの歴史を含めた講義のひとつやふたつが始まったのかもしれない。が、あいにくなことに、この場にいるのはしたり顔でうなずきあう暁人とKK、そして、そんな二人をひたすら生温く見守るご近所さんだけだった。
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    ことざき

    DONEこぼれ落ちてゆくもの。K暁。薄暗い。

    診断メーカー【あなたに書いて欲しい物語(ID:801664)】さんの【「ぱちりと目が合った」で始まり、「君は否定も肯定もしなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。】から。
    忘れじの行く末に ぱちりと目が合った。それで分かった。これは夢なのだと。
     僕が右手を伸ばすと、彼もまた右手を差しだしてきた。重ねた指先は突きぬけなかった。筋張ってゴツゴツとした手の甲、かさついた皮膚の感触。やや低い、じんわりとした体温。握りこめば、同じだけの力で握りかえされた。
     彼がいる。今ここに、僕の目の前に。確かな身体を持って。夢でもかまわない。だって、彼がここにいるのだ。
     心臓を鋭い痛みが貫いた。喉が締めつけられ、押し戻された空気で顔中が熱くなった。気づいた時には、目の前のすべてが歪んでいた。
     波立つ水面のように揺らめく視界では、彼の姿を脳裏に焼きつけられない。しゃくりあげながら顔を拭おうとした僕より早く、彼の手の平が頬をおおった。そのまま親指の腹で目元をこすられる。とても優しい仕草なのに、硬いささくれが皮膚に刺さって痛い。思わず息を呑むと、覚えのある苦い香りが鼻先を掠めた。
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    MENU◇フォロワーさんのイラストに文章つけてみったー◆
    大変遅くなりました&あまりにも長くなってしまったので3編に分けてお出しします。
    ぽすわい様のジューンブライドイラストにどうしても物語をつけたくて書かせていただきました!
    ・便宜上全7パートに分かれています。今回は前章~プロポーズまで。
    ・プロポーズ~初夜まではR18となりますので別途パス付で上げます。
     皆様のお気に召しますと幸いですm(__)m
    雨が連れてきたはじまり<前編>別れと復活、そして再開「・・・ありがとうーおやすみ、KK」
    そう言って別れを告げたあの日。
    そういえばあの日も、あれから雨が降り始めて。まるで別れの涙のようだなんて思ったことを、覚えている。


    【覚醒前夜ー夜明けの手紙】

    これは、僕の罪の記憶。
    もう二度と同じことを繰り返さないために、ここに書き残しておくことにする。


    ーあの夜、KKはたしかに僕のなかから姿を消した。黒い靄が霧散するように消えて、僕の右の手のひらについた傷は何事もなく消えてなくなって。
    それくらい遺してくれたってかまわないと思っていた。だって、KKを思い出せる何もかもが消えてなくなってしまったような気がしたから。
    それでももう、きっと二度と逢えないのだと。そう覚悟は決めていたし、
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