譲テツミニスカサンタ部 譲介は天井を仰いでガッツポーズをした。
自身を取り巻く様々な縁と偶然の糸が縒り合わされた人生という組紐。その先端に今この瞬間がある、そのことに感謝した。クリスマスイブの夜のことである。
「お前ェにこういう趣味があったとはなァ」
TETSUからの呆れ気味の視線すら心地よい。愛する人のミニスカサンタ姿を見る譲介の返事は決まっている。
* * *
クリスマスになんか欲しいモンあるか? 譲介がTETSUに尋ねられたのは、アドベント期間が始まったばかりのある日のこと。
「欲しいものはありませんが、して欲しいことは……無くもない、です、けど……」
「なんだ遠慮か? 言うだけ言ってみろ」
「ええと……その。なにか楽しい思い出を、といいますか」
譲介は希望を正直に述べた。
「僕が衣装を用意しておくので、イブの夜にそれ着てください」
TETSUは訝しげに眉を寄せたが、すぐに表情を緩めた。
「わかった」
イブの夜に譲介から渡された衣装を見たTETSUは衣装と譲介の顔を何度か見比べたあとで言った。いいだろう、まだ想定の範囲内だ、と。
* * *
「ありがとうございます! 最高です!」
「嬉しそうだな……」
「素晴らしい着こなしです。サンタのキャリアが長いだけのことはありますね」
赤いベロア生地のふちを白いファーで飾り、胸には同じく白いファーの玉が二つ。肩を大きく出したワンピーススタイルの衣装は膝上十五センチのミニスカートだ。冬の装いらしく、同じ色の短いケープが肩と二の腕をふわりと覆う。足元は膝上までの黒いブーツを用意した。
全て譲介自身が真剣に選んだ衣装だ。靴は脚の出るショートブーツと最後まで迷ったが、ロングブーツを選んで良かったと譲介は思う。艶のある黒に脚の長さが実に映える。太く高いヒールにはフェティッシュな空気さえ纏っている。
「肌の露出自体は意外と少ないところがこだわりです」
「へーえ」
TETSUはからかうように笑って、ソファにどっかと腰を下ろし足を組んだ。譲介の視界では、短いスカートの奥が一瞬見えそうになる。
「で?」
TETSUはニヤリと歯を見せて譲介を見る。
「はい?」
「こういう服は、着せたあとに別のオタノシミがあるんだろうがよ」
「そ、それは……確かに……」
譲介はおそるおそる赤いケープに手を伸ばす。
「だがその前に!」
TETSUはソファの裏から紙袋を出し、譲介に突きつけた。
「コイツを着て貰おうか」
「なんですか、これ?」
「サンタクロースと言やトナカイだろ」
紙袋の中身はなんてことのないトナカイの着ぐるみコスチュームだった。茶色のツナギのような構造で、角をあしらったフードが着いている。
譲介は下着の上からトナカイの衣装を身につける。この流れ、トナカイの下は脱いでおくべきで間違いない。
「おー、なかなか可愛いじゃねえか。サンタのツレとしちゃあ悪くねえ」
ソファで脚を組み替えたミニスカサンタが機嫌良く笑った。
「じゃあ……」
譲介は満を持して赤いケープに手を伸ばす。TETSUが立ち上がってその手を取り――譲介の視界が一回転した。
「うわっ!?」
譲介は床に両手両膝をついた。背中にコツンと固い感触。首を曲げて見上げると、譲介の背中にTETSUがブーツの片足を乗せていた。その手には細いベルトのような物がある。
「ソリは用意できなかったが――トナカイにゃハーネスが必要だろうと思ってな」
床から見上げるミニスカサンタは口元に笑みを浮かべている。その表情があまりに刺激的で、譲介はやっとの事でただ、ひゃい、と間の抜けた返事をした。