親友というには愛深く「我が名は吸血鬼——」
シンヨコでよくある吸血鬼騒動。
今夜も今夜とて吸血鬼が現れる。
それにいつものようにシンヨコの住人が巻き込まれ、退治人や吸対が退治して一件落着——とはならなかった。
三木カナエが消失した。
久しぶりに飯でも行こうと連れ立って、シンヨコの町を歩いていたら、吸血鬼が何かを叫び、ビームのような光を受けた三木は輪郭がぼやけ、空気に溶けるように消え去った。
「え?」
三木がいた空間を触る。
なんの手応えもない。
吸血鬼は、と慌てて周囲を探すが、もう逃げおおせた後であった。
目の前で人が煙のように消えた。
異常事態とはいえ、神在月はそこまで焦ってはいなかった。
ここはシンヨコ。超常な出来事が日常な町。
退治人や吸対がなんとかしてくれると楽観的にとらえていた。
だからVRCに通報して、三木からの連絡を待った。
『酷い目に遭った』
なんて言って、今回の騒動の顛末を聞かせてくれるのだろうと。
だが一日経っても二日経っても三木からの連絡はなく、神在月から電話をかけても繋がらない。
じんわりと背中に冷たい何かが広がる。
いてもたってもいられず、VRCに連絡をすれば、まだ吸血鬼の正体すら判明していないと冷たくあしらわれ、この件は吸対も動いているから、余計な事はするなとまで注意された。
注意されたからとジッとしていられない。
人を煙のように消す吸血鬼について調べてみる。
探偵でもなく吸血鬼に造詣も深くない自分は手がかりすら掴めないと思っていたのだが、手がかりの端を掴めた。
それなりに力がある吸血鬼一族。
どちらかといえば嫌人間派の若者がそのような能力を持っていた。
少し調べれば判明した事実。
きっとVRCも吸対も掴んでいるだろう。
それなのに手を出せないという事は、慎重にならざる何かがあるという事か。
それとも何かしらの交渉をしている最中なのかもしれない。
それならば一般人にすぎない神在月に出る幕はない。
下手に突けば三木を危険に晒すかもしれない。
だが、だがだ。
こんなにも長い間、吸血鬼の能力下におかれて、三木は大丈夫なのだろうか?
「……」
打てる手は、ある。
三木の隣の隣に住む吸血鬼。
彼自身は人の良い三木の友だが、彼の親の血は古く、また竜の一族の一員でもある。
彼に状況を説明し、力のある一族にお願いできれば、状況が好転するのでは。
三木とその彼は友達として親交を深めている。
彼を利用するやり方、三木は嫌がるし、自分だって嫌だ。同じ事をされたら激怒する自信があるし、泣きながら責めるかもしれない。
その後、二人の交友に影を落とすかもしれないし、二人はなんともなくとも、一族の方が警戒するかもしれない。
だが、だ。
それでも神在月は三木が心配で三木が大事だった。