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    まどろみ

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    まどろみ

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    七灰♀。バレンタインデーとホワイトデーの続き。ほのぼの

    #七灰
    #七灰♀

    可愛い相手がいっぱい見たい単独任務が終わり、次の任務に行く補助監督を見送り徒歩で帰宅する。その道中で女性物の服屋にある一つのマネキンに目が止まった。正確にはマネキンが着ている服に。白のブラウスにカーディガン、ロングスカートとショートブーツという春らしい装いだ。
    (これなら灰原も着てくれるだろうか)
    頭に思い浮かべるのは愛しい恋人の姿。彼女の名前は灰原雄、高専の同級生だ。付き合いだして半年経つが七海には悩みがあった。等級違いの任務で負傷して以降、彼女が男物の服しか着ないのだ。それまで制服は通常の上着とカスタムのキュロットを着用していたのに、復帰時には上着は短ランに、キュロットは男子と同じズボンに変わっていた。私服も今までは可愛らしいものが多かったのに、最近はパーカーとジーンズのようなシンプルな装いばかりになっていた。それが彼女の好みなら文句は言わない。しかし、一緒に出かける時に同性に羨望の眼差しを向けていることを七海は知っている。だからこそやるせなかった。一度「前みたいに可愛い服は着ないのか?」と聞いてみた結果「可愛い服の似合う女の子と付き合えば?」と返され大喧嘩に発展してしまったので以降服装の話題は出さない様にしている。格好いい彼女ももちろん素敵だが、それ以上にいろんな姿の彼女が見たいというのが本音だった。

    店先のマネキンを眺め思案していると店の中から店員がやってきた。
    「こんにちは!この服可愛いですよねー!中にも商品がございますのでご覧になりませんか?」
    平日の夕方というにはまだ少し早い時間、店側も暇なのだろう。七海は勧められるがままに店内へ足を踏み入れた。

    ***

    店内には洋服をはじめとした商品が所狭しと並んでいる。その量に圧倒され入口付近で止まっていると、先ほどの店員が助け舟を出してくれた。
    「昨日春物の入荷をしたばかりなので新商品が揃ってますが、なにかお探しのものはございますか?」
    「そうですね…」
    灰原に着て欲しい服。考え出すとキリがないが自分の気持ちばかりを押し付けてはいけない。となると、できるだけ傷が隠せるものがいいだろう。
    「上下一式で…首元や足が隠れるものを」
    「でしたらこちらのブラウスはいかがでしょうか?ハイネックですが生地が軽いのでこれからの季節にぴったりですよ!」
    「ええと、じゃあそれと…これを」
    差し出されたブラウスを受け取り、先ほどのマネキンが着ていたものと同じロングスカートを手に取った。
    「かしこまりました!ではこちらへどうぞ!」
    商品を持ったまま案内されたのは試着室だった。
    「え?」
    「うちの商品はゆったり目に作ってあるのでサイズは問題ないと思います!内側から鍵だけお願いします!ではごゆっくり!」
    呆然とする七海を他所に、扉は閉められてしまった。

    ***

    「…」
    自分用だと思われたのだ、と言われた通りに鍵を閉めてやっと気がついた。どうしたものかと悩んでいると、ふとあることに思い至る。
    (私が着れる服は、イコール灰原も着れる服だ)
    灰原は七海とあまり体格が変わらないため、勝手に七海の服を着ることがある。それでもブカブカに見えないことに自分の貧弱さを突きつけられたようで渋い顔をしていたが、ここにきて役立つ時がきたようだ。
    そうとわかればと早速ブラウスに手を伸ばす。ボタンが男物と逆についてるため外すのに最初は手間取ったが、慣れてしまえば後は簡単だった。スカートも全面ゴムで、多少の大小はなんとかなるなと鏡を見て服の全体を確認する。
    「いかがですかー?」
    「あ、はい」
    呼びかけられ、何も考えずに扉を開けた。
    「お似合いですよ」
    「いや、その…」
    結果的に女装したまま出てきたことを後悔し、言い訳を口にする。
    「実は、彼女の服を探していて…」
    「…ああ!そうなんですね!」
    驚いてはいるものの嫌悪感はおくびにもだしていない。さすがプロだと感心していると店員は雑誌を開いて見せてきた。
    「今、二人でお揃いの服を着るのが流行ってるんですよ!よかったら彼女さんと一緒にどうですか?」
    「おそろい…?」
    灰原とお揃い。性別が違うのもあるが、元々の好みが違うため揃いのものは持っていない。付き合いたてでもないのにだ。
    「おそろいか…」
    (私も着ると言えば、灰原も断らないで受け取ってくれるかな)
    「ブラウスはそちらの色とこちらの二種、スカートは三色ありますが」
    畳み掛けるように店員が商品を並べていく。その勢いのまま、最終的に靴や鞄など文字通り一式を二人分購入していた。

    ***

    「…というわけなんだが」
    「はあ…」
    帰ってきてから恥ずかしくなったのか、ヤケクソ気味の七海は帰寮後すぐ灰原の所に向かった。そんな彼を見て灰原は複雑な心境である。
    (七海がそんな風に考えてくれてたなんて。確かに前みたいに可愛い服を着る自信はないけど、七海がくれる服なら断るわけないのに)
    自分の愛も軽く見られたもんだと少しだけ腹が立つ。その意趣返しもあって、灰原はある提案をした。
    「…七海が、僕とおそろいの格好で出かけてくれるなら、着ないことも、ない」
    「わかった!」
    灰原のしどろもどろの言葉に七海は即答する。そして「次のデートはいつにしようか」などと見たことないくらい楽しそうに手帳を見て予定を組み出した。
    (まあ、七海がいいなら、いっか)

    デート当日、予想以上に似合う七海に灰原が惚れ直し、それを見た七海が味を占め、定期的に女装デートが行われることになる。

    ***

    十年後。伊地知は真剣な顔でノートパソコンと向き合う七海と遭遇した。
    「七海さん、ゴスロリ服のサイトなんて見てどうしたんですか?」
    「灰原と揃いで着られる服がこの手のものしかなくてですね…」
    「もしもし灰原さん?七海さんと喧嘩したみたいですが仲直りしてください謝罪なら私がいくらでもしますからあっ支払い方法の選択まで進んだので早くお願いします!!!」
    『似合うからいいんじゃない?』という灰原の声を聞きながら、七海は決済を完了した。


    ***
    灰原女子の時の七海はちょっとアホの子



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