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    まどろみ

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    七灰♀。バレンタインデーとホワイトデーと可愛い君がいっぱい見たいの続き

    #七灰
    #七灰♀

    可愛い君と幸せになりたい先輩たちが卒業して最上級生になった。すると何故か女性に声をかけられることが増え、今日も任務前に新卒の補助監督から連絡先を渡されどう断るか考えあぐねるハメになっていた。だが今日はいつもみたいに苛立つだけでは終わらなかった。連絡先を渡された場面を灰原に見られてしまったのだ。
    平手打ちと共に「僕も浮気してやる!」との言葉を受けたが悲しきかな、そこは呪術師。走り去る彼女を追えずに死んだ空気の中で任務へと向かうことになった。

    ***

    こういう日に限って難しい任務が割り当てられているものである。日付が変わる頃に帰還し灰原の捜索を始めるが、寮には外泊届をだして失踪中だった。こんな夜中にと不安が募る中、携帯に一件の連絡が入る。差出人は去年高専を中退した先輩で、件名は『かわいいね』、本文なし、添付画像は2枚。1枚目は女性の胸に顔を埋める彼女の姿が、2枚目には先輩が育てている双子に囲まれて眠っている彼女の姿がそれぞれ写っていた。感謝と嫉妬の感情がない混ぜになりつつ、某宗教団体の本部へと向かった。

    ***

    「胸なら私の方が大きい!」
    「彼女を迎えに来ての第一声がそれでいいのかい?」
    本部へ行くと話が通っていた様でスムーズに教祖様の部屋へ通される。そこではメールの差出人の先輩でフリーの呪術師で教祖の夏油がくつろいでいた。
    「灰原はどこですか?」
    部屋には夏油しかいない。早く灰原に会いたいと気が急いていると「まあ座りなよ」と着座を勧められる。
    「灰原なら美々子と菜々子と就寝中だよ」
    2枚目の写真は撮影用ではなく本当に寝ていた時の隠し撮りだったようだ。だとしたら七海がとる行動は一つ。
    「…朝までここで待っててもいいですか」
    「いいよ、というか起こせと言われたら叩き出すつもりだったのに」
    ケラケラと人を食ったような笑い方をする先輩は、在学時から少し苦手だ。何を考えてるかわからないし、強くて全然勝てないし、…灰原が尊敬しているし。
    「浮気してやる、と言われましたが、あなたの所に行ったと言うなら納得です。悔しいけど」
    「手は出してないよ」
    「もちろんです」
    睨みつけると「おや怖い」と心にもないことを言う。

    「今回の件、大体は灰原から聞いたけど、一応七海の弁明も聞こうか」
    「…進級してからというもの、女性に声をかけられることが増えたんです。全部即お断りしていたんですが、今回は間が悪く任務前の同行する補助監督でして…」
    「職務怠慢だね。悟に伝えておくよ」
    「ありがとうございます。」
    「…相手が悪いことを考慮しても、今回の件は七海が悪いね」
    「…?」
    「彼女の気を揉ませる男はいい彼氏とは言わないからね」
    痛いところをつかれた。わかっている。七海だって灰原が自分じゃない誰かにナンパされていたら嫉妬で気が狂いそうだ。
    「灰原は七海との関係に駆け引きやスリルを求めてるわけじゃないんだから、彼氏が引く手数多な現状は気が気じゃないみたいだよ。『昔から七海は可愛くてかっこよかったのに、みんながそれに気づいて連れて行こうとしても僕には留めておくだけの魅力がない』ってね」
    「…っ!」
    魅力がないだなんて、魅力しかないと言うのに。隣に立つのにいつも必死だと言うのに。
    それに、もし七海が可愛いくてかっこよくなったというならそれは灰原のおかげである。元々後ろ向きな自分が女性が魅力的だと感じるくらいまっすぐ立ってられるのは、鍛えたら「かっこいい」と褒め、彼女の好みの服を着れば「可愛い」とお世辞なしの賞賛をくれて、どんな七海も受け入れてくれた彼女のおかげなのだ。
    そんな彼女を不安にさせるなんて、彼氏失格だ。これはなりふり構っていられない、彼女とのハッピーライフのためにの早々に手を打たなければ。

    「夏油さん」
    「なんだい」
    「教祖は人の心を集めるスペシャリストだと思います。そんなあなただからこそ、ぜひ伝授してほしいことがあるのですが」
    「ほう」
    七海の本気を感じ取ったのか、夏油も居住まいを正す。七海はまっすぐな瞳で夏油に教えを乞うた。
    「『仕事はできるが男としてはナシ』と他人から思われる方法を教えてください」

    ***

    「というわけで、灰原と喧嘩をするたびにこうして女装をして任務に当たっているわけですが…聞いていますか?」
    「可愛いなぁ…!」
    「ここ最近なりをひそめていたので油断していました…」
    ゴスロリ服を着て仁王立ちしている七海と、彼と色違いの服を着て恍惚の表情を浮かべている灰原と、二人を見て頭を抱える伊地知という三者三様の姿を見て、こんな大人にだけは絶対にならないと誓う虎杖だった。

    ***
    七灰♀の七は自己肯定感高め(灰のおかげ)




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    可愛い君がいっぱい見たい単独任務が終わり、次の任務に行く補助監督を見送り徒歩で帰宅する。その道中で女性物の服屋にある一つのマネキンに目が止まった。正確にはマネキンが着ている服に。白のブラウスにカーディガン、ロングスカートとショートブーツという春らしい装いだ。
    (これなら灰原も着てくれるだろうか)
    頭に思い浮かべるのは愛しい恋人の姿。彼女の名前は灰原雄、高専の同級生だ。付き合いだして半年経つが七海には悩みがあった。等級違いの任務で負傷して以降、彼女が男物の服しか着ないのだ。それまで制服は通常の上着とカスタムのキュロットを着用していたのに、復帰時には上着は短ランに、キュロットは男子と同じズボンに変わっていた。私服も今までは可愛らしいものが多かったのに、最近はパーカーとジーンズのようなシンプルな装いばかりになっていた。それが彼女の好みなら文句は言わない。しかし、一緒に出かける時に同性に羨望の眼差しを向けていることを七海は知っている。だからこそやるせなかった。一度「前みたいに可愛い服は着ないのか?」と聞いてみた結果「可愛い服の似合う女の子と付き合えば?」と返され大喧嘩に発展してしまったので以降服装の話題は出さない様にしている。格好いい彼女ももちろん素敵だが、それ以上にいろんな姿の彼女が見たいというのが本音だった。
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