3.5話「出かける時の付き人はいらない?」
「うん」
反物屋からの帰り道、灰原は七海に提案をした。
「僕、動き回ることが多いし奉公もしてたから、一人で動くのに問題ないし。…というか、落ち着かないからいない方が助かるんだけど…」
「だが…」
「どこに行くかは事前に伝えるし、危険な所なら誰かに頼むから、ねえ、お願い!」
必死に懇願する灰原の様子に、比較的早く七海は折れた。
「…わかりました。あとこの際だから聞きますが、女中や下働きはいりますか?私はあまり常駐で身内以外の人間がいる状況は好きではないので一応、掃除婦を隔週で頼んではいます」
「家事は大体できるし、掃除の人が定期的に来てくれるなら女中さんはいらないかな。ご飯も自分で作りたいし」
「わかりました。大変な時は言ってください」
自分も一通りのことはできるから、と灰原のことを気遣う。
「他にやりたいことはありますか?」
家にいる時間は灰原のほうが長い。家事以外に趣味など希望があればと考えた故の問いだった。
「あ、あのね…」
言い淀む灰原のいじらしさに、何を言われても頷く決意をした。
***
「おかえりなさい!見て!収穫できたよ!」
帰宅した七海を笑顔で迎える灰原の腕の中には、採れたての白菜があった。
「ただいま。立派に育ちましたね」
「ね!大根も食べられるくらい大きくなったから、今日は鍋にしよう」
「ええ」
灰原の背後に視線を移すと、そこには小さいながらも畑が広がっている。
あの日の灰原が望んだこと、それは庭に家庭菜園を作ることだった。
「自分で野菜を作ってみたいんだけど、実家じゃ許可してもらえなくて…あんなに庭が広いのに!ひどいよね!?」
落ちぶれても華族。そのあたりはきっちりしているらしい。
「誰かを招く予定もありませんし、好きに使ってもらってかまいませんよ」
「やったー!」
その日から灰原が丹精込めて育てた畑はこうして収穫できるまで成長した。
「それにしてもいっぱい実りましたね、食べ切れるでしょうか?」
「大丈夫!…と言いたいところだけど多いよね。どこかお裾分けできそうな人いる?」
「そうですね…私が持って行けるのは官舎くらいですかね。結婚までお世話になりましたが、そこそこの大所帯なので食堂で使ってもらえると思います」
数ヶ月後には五条の嫁である夏油にもお裾分けをすることになる。