この後七灰は家入さんに揶揄われた「え!?ナナミンって結婚してるの?」
先日の一級術師と二人での合同任務について同級生に話す虎杖に伏黒が「灰原さんの旦那か」と言ったのが話の始まりだった。
「結婚というか…同棲?高専出てすぐ一緒に住みはじめたらしい」
「ってことは学生時代からの恋人?すげー!」
「でもなんで結婚しないのかしらね?」
話を聞くに適齢期だろうに、とツッコミをする釘崎に男同士だしな、と言いあぐねていると虎杖が先に反応した。
「確かに、ナナミンそのへん真面目そう」
「そんなに違うか?」
一緒にいることには変わらないだろうと言うと釘崎が激怒した。
「大違いよ!これだから男は!」
机を叩きながら結婚の責任の重さを力説する姿に男子二人は慄いた。
「で、その灰原さん?ってどんな人?」
「どんな人…?」
灰原の名前を出したものの伏黒もそこまで詳しくない。そのことを素直に告げると虎杖と釘崎はわずかな情報から考察を始めた。
「ナナミンの彼女かー!どういうタイプなんだろう?」
「高専出てから同棲ってことは交際期間もそれくらいかしら?」
「高専卒業を期に付き合いだしたらしい」
「じゃあ軽く10年!?なんでプロポーズしないのよ!?」
「お、落ち着け釘崎」
憤る様子に男子二人は慌てて宥める。
「本人たちが決めることだから」
「…10年一緒にいて結婚できないってどんな相手よ?というか相手は呪術師なの?」
「いや、今は呪術界とは関係ない仕事をしてるらしい」
「なら結婚より仕事なのかな?」
「ドラマの見すぎじゃない?」
「逆にナナミンの家が厳しいとか?」
「大人って大変だな」
三人は答えの出ない議題にも関わらず熱心に考え込んでいた。
***
七海の恋人はどんな人?という学生たちの話を灰原は廊下から申し訳なさそうに聞いていた。
(確かに今は呪術に関係ない生活をしているし何なら在宅業だから外にもあんまり出ないけど、一応僕の収入だけで二人で食べていけるくらいには稼いでるし…)
よりにもよって自分の義足のメンテナンスの日にその話をしなくても、とため息をつく。産土神から負った傷は深く呪力で動く義足を使う灰原は、数か月に一度メンテナンスのために高専に来ていた。目的地へ続く廊下で雑談する学生とその内容に一歩を踏み出せず困り果てていた。
(このまま素知らぬ顔で通り過ぎる?でも伏黒くんは気づくよね…かといって『やあ!』って会話に入っていくのもなあ…)
真剣に頭を悩ませていたため背後の気配に気づかなかった。
「どうした?」
「七海!」
「「「え?」」」
しまった。灰原の大声で三人がこちらに気がついてしまった。
「ナナミン!」
「こんにちは」
灰原が固まっていると三人がこちらに移動してきた。
「お疲れ様です。今日は任務では?」
「先程終えたので報告書を提出しに来ました。あと、灰原の様子を見に」
「灰原?」
「あ」
七海の発言で灰原に視線が集まった。
「え?この人が灰原さん!?」
「ああ」
男だったのか…と虎杖と釘崎の顔に書いてある。
「はじめまして、灰原雄です」
「はじめまして!」
気持ちの切り替えが早いのか元気よく挨拶を返す。そんな虎杖を横目に伏黒は灰原に話しかけた。
「今日は義足のメンテナンスの日ですか?」
「そうだよ」
「メンテ?」
「任務で足が吹っ飛んだからね、呪力で動く義足を使ってるんだ」
ほら、とスウェットを軽く捲ると、「かっこいい!」と虎杖の目が輝いた。男の子は好きだよね、こういうの。
「触ってもいい?」
「壊さないなら「駄目です」
言葉を遮った七海は鮮やかな動きで灰原を横抱きにした。
「そういうわけなので、私たちはこれで失礼しますね」
「あ、はい」
「え?ちょっと、降ろして!」
「断る」
「なんで!?」
虎杖に義足を見せたのがサービスシーンのようで気に入らなかったということに灰原は気づいていない。独占欲が強く、少しでも灰原が他の人に露出するのが嫌なのだ、この男は。
戸惑う灰原と機嫌の悪い七海を三人は呆然と見送った。
「…ナナミン、灰原さんのこと超好きじゃん」
「なんで同棲どまりなのかしら…?」
「そりゃ男同士だからだろう」
「「そこかー」」