家入から見た恋人の縁は意外な所で繋がっている。灰原がそれを実感したのは三学期が始まってから数日経った頃だった。
「家入硝子って知ってる?」
クラスメイトから飛び出した前世の先輩の名前に、腰に七海の腕が巻き付いているのも忘れて前のめりになり反応する。
「知って…!」
る。と答えようとして思いとどまった。確かに自分は知っている。だがそれは前世の彼女の話だ。今世での彼女のことは知らない。果たしてそれは知っていると言えるのだろうか?
「知ってる…?のかな?」
「俺が聞いてんだけど」
灰原の戸惑いは上手く相手に伝わらず、会話は七海へと移る。
「七海はどう?」
「知らないです」
「そっかー」
「急に家入さんの話して、どうしたの?」
詳細を聞くと彼は素直に答えてくれた。
「正月にな、色々あってお前らの写真見せたわけよ。そしたら俺が何も言ってないのに『七海に灰原』って。知り合いか聞いてもはぐらかされちまったからさ」
「家入さんと知り合い!?」
話の中に色々と気になる点は多いが一番気になった部分を尋ねる。
「まあ、知り合いっちゃ知り合いだけど」
「紹介してくれる!?」
七海と違い早逝した灰原は前世からの知り合いは少ない。そんな中で相手に記憶があり所在がわかったなら会いたいと思うのは自然なことだった。
「いいけど」
「ありがとう!まさかこんな形で家入さんと会えるなんて!でもどういう知り合い…?」
前世では女子比率が低かったせいもあり男子と一緒にいる場面を見ることが多かったが、好んで異性とつるんでいた印象はない。首を傾げる灰原にクラスメイトはため息をついた。
「…お前、本当にわかってないのか?」
「なにが?」
「…俺のフルネームを言ってみろ」
「名前?家入…あ」
そうだ、普段はあだ名で呼んでいるから気にしていなかったが、彼の名前は家入くん。ということは…。
「親戚?」
「従姉弟だな、一応」
人の縁は意外な所で繋がっている。今回は今世と前世の縁が絶妙な形で交わっていたようだ。灰原はどこかにいるであろう運命の神とやらに感謝した。
***
数日後、灰原と七海は家入との再会と相なった。場所は家入が通う高校の最寄駅のファミレスで、この場をセッティングした従姉弟殿は部活で不在である。
「お久しぶりです家入さん!会えて嬉しいです!」
「おー相変わらずだな、二人とも」
「これ見てそれ言えます?」
家入と向かい合う形で座っていた灰原は自分の腰のあたりを指差す。そこには抱き上げんばかりにくっつく七海の腕があった。
「前世のお前たちの別れ方を思えば七海がそうなるのも納得だよ」
「そうですか?」
前世の自分たちを思い浮かべてもこんなに密着したことはない。そもそも恋人でもなかったし。
「七海から嫌われてない自信はありましたけど、ここまで好かれてる自信もありませんでしたよ」
この恋心を伝えても嫌われないくらいには信頼関係が築けていたはずだが、七海がここまで自分を愛してくれるとは夢にも思っていなかった。
「それは多分、灰原が生きている時は照れのほうが勝っていたからだろ。私はな、お前がいなくなった後の十年分の七海を知っているんだ」
七海が腕の力が強まる。灰原のほうが早くに亡くなったということしか知らない七海には恐怖を感じる話題だった。
「…たしか、七海の享年がそれくらいでしたよね?」
「そう」
アイスコーヒーに刺さるストローをクルクル回しながら話す彼女はその動作とは裏腹に大人っぽく見える。前世からの積み重ねだろうか、それとも女性だからだろうか、灰原にはわからなかった。
「他の奴にはどう見えてたのか知らないが、お前がいなくなってからの七海は随分と寂しそうに見えたよ。だから今のそれを見ても、報われてよかったなとしか」
「ええ?」
「本当に、よかったな、七海」
ふわり、と見たことのない笑みが七海に向けられる。その哀愁を含む表情に、自分の知らない十年があることを改めて実感した。
***
「しょーおーこー!!!あーそびーましょー!!!」
「帰れ」
灰原に口止めをするのを忘れたな、と家入はため息をつく。女子校の校門前で叫ぶ白髪イケメンとそれを見守る塩顔イケメンの話しはあっという間に伝説になった。
***
「よお、七海。こんな所で会うなんて奇遇だな」
「…家入くん、でしたっけ」
「ようやく覚えてくれたか。それにしても何やってんだ?」
「見てわかりませんか?」
「わかんねえから聞いてんだよ」
「きみの従姉弟に勝つにはどうしたらいいか情報収集しているんです」
「…仮に硝子姉さんと戦うにしても、女性ファッション誌に必勝法は載ってないと思うぞ」
本屋で血眼になって女性ファッション誌を読む七海を近くの図書館に誘導した俺を褒め称えろ、と言う彼に灰原が昼飯を奢ったのは翌日のことだった。
***
家でやれくんは家入くんでしたとさ。
五条は夏油に記憶を思い出して欲しくない気持ちとそれはそれとして三人でまた遊びたいという気持ちが戦い後者が勝ちました。