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    sazanka_1031

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    sazanka_1031

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    キスから始まるシルデュの話?
    長編小説を書こうとして頓挫し、ずっと出し損ねていた小説の一話目を蔵出ししています。あっさり、短め(5000字程度)です。

    #シルデュ
    sirdu

    はじまりのキス※長編小説を書こうとして頓挫し、ずっと出し損ねていた小説の一話目です。単体でも読めるので、投稿しています。
    ※監督生♂がデュースの友人としています。ちょっとだけ喋ります。






     キスをされた。
     きっかけは、よく分からない。運動場の片隅で、他愛ない話をしていたと思う。そしたらいきなり、キスをされたんだ。……シルバー先輩に。
    「俺のことも、少しは見ろ」
     シルバー先輩はそんなことを言って、拗ねたようにそっぽを向いた。……え? ぼ、僕、今、先輩とキス、しちゃったのか?
    「し、失礼しますっ!」
     居ても立ってもいられなくなって、その場から慌てて逃げおおせる。その僕の行動にシルバー先輩が後ろでどんな顔をしていたのかは、まだ知らないままだった。



     キスをした。
     きっかけは、自分でもよく分からない。運動場の片隅で、他愛ない話をしていた。その中で、デュースが言った。
    『先輩はモテそうですもんね。僕もいつか彼女とかできたらって思うけど、女の人と話すと緊張しちゃって……』
     それがなんだかとても、癪に障った。だから、キスをした。
    「俺のことも、少しは見ろ」
     そう言ってそっぽを向いた。そうしたら、デュースは慌てて逃げていってしまった。けれど、逃げていく先の耳が真っ赤だった。
     残された俺は、自分の行動に、言葉に、驚いていた。……なぜ、デュースに自分を見てほしいと思ったのか、と。
     ひとり考え込んでいると、じきに動物たちが集まってくる。その頭を撫でてやっていると、自然、答えは出てくるような気がした。
     ……デュースは、セベクやマレウス様、親父殿。俺の家族と仲が良い。少し前にあった星送りの祭りでも、とても気が合うことが分かった。あれ以来、俺は思っていたんだ。もし、自分が人を好きになるのなら、恋をするのなら、デュースのような奴がいい。将来的に、新しく家族に迎え入れるような存在にするなら、こんな奴がいい、と。だというのに、デュースは平気で言うんだ。『僕にもいつか彼女とかできたら』なんて。俺ではない人間を想定して。
     だから、俺を見てほしくなった。俺のことも視界に入れてほしくて、キスをした。同じように、人を好きになるのなら俺がいいと思ってほしくて。
    「……ああ、そうか」
     飛んできた小鳥の喉を撫でてやりながら、呟く。
    「いつの間にやら……好きに、なっていたのか」
     指先の小鳥を広い空へと帰し、土ぼこりを払って立ち上がる。眩しい日差しと青空が、俺を照らしていた。



     あの日のキスから、シルバー先輩は、ずいぶん積極的に僕にアタックしてくるようになった。とは言っても、偶然二人きりになったときだけ、なんだけど……。それでも、どうにかこうにか僕と過ごすチャンスを狙っているようで、前よりもグッと会う機会が増えた。
     たとえば、図書室。ひとり机で参考書を見て唸っていたら、いつの間にか向かいの席にいて、僕のことを眺めていたり。
    「うん? 気付いたか。何か、分からないことがあったか?」
    「し、シルバー先輩!? いつからそこに……!」
     シルバー先輩は僕の唇に人差し指を当てる。
    「……図書室では静かに、だ。デュース」
    「は、はい……」
     それ以外にも、だ。元々、休日の運動場なんかではよく会っていたけど、ジャックが麓の街に出かけていなかったりすると、もうシルバー先輩の独壇場だ。準備運動から一緒にしようと声をかけられて、一緒に走って、一緒に休憩する。走っている間はいいんだ。自分を鍛えるときは、真面目に集中してする人だから。でも、休憩中とかは……。
    「デュース、今日はこうしてお前と二人でいられて、嬉しい」
    「は、はい……」
    「……なんだ? 俺は何か、悪いことを言っているか?」
    「い、いえ、そういうわけじゃ、ないんです、けど……!」
     ……ものすごくストレートな言葉を投げかけてくる。稀に、珍しい笑顔もついてたりすると、もうほんと僕に効果は抜群だ。とはいえ、シルバー先輩はそんな風に好意を示してくるものの、決定的な言葉を投げかけてはこない。キスも、あれからしてはこない。
     いっそ『好きだ』と言ってくれたら、と思う気持ちと、まだ僕の気持ちが曖昧だから、まだ言わないでくれ、って気持ちが交錯する。でも、このままだとシルバー先輩を好きになるのもたぶん、時間の問題だ。だって、僕はみんなが言うには単純なやつだから、こんな風に好きだって全面に押し出されて、大切に扱われたら、その人のことをきっと好きになっちまう。
     そんなことをオンボロ寮で監督生に相談していると、こう言われた。
    「別にいいんじゃない?」
    「い、いいのか!?」
    「だってデュース、今付き合っている人もいないし、好きになって何か問題あるの?」
     グリムとじゃれあいながら、僕たちの話を横で聞いていたエースも茶々を入れてくる。
    「ユウの言う通りじゃん。別に嫌いでもイヤでもないんなら、一回付き合ってみれば? で、やっぱ違うわってなったら別れればいいじゃん」
    「そういう……もの、なのか?」
     僕には、なんかいろいろと問題ある気がするんだが。
    「デュースは何がそんなに気になってるの?」
    「そ、れは……」
     僕が、いまいちシルバー先輩の好意を受け止めきれない理由。それは、いくつかあった。まず、男同士だってこと。正直、いつか女の子と付き合うんじゃって気持ちで今まで生きてきたから、まだ慣れない。とはいえ、シルバー先輩に好意を向けられているこの状況は、困るが嫌ではないから、これは大した問題じゃない、気もする。
     次に気になるのは、シルバー先輩と僕じゃ釣り合わない、ってことだ。普段から、冷静沈着、クールで、努力もできて、渋くて恰好良くて、人当たりも良く、家族を何より大事にしてる、僕にとってはどっからどう見ても「ああなりたい」としか思えない憧れの先輩で……。そんなシルバー先輩が、僕なんかに好意を向けてくれていることが、未だに信じられない。ドッキリか何かで騙されているってネタバラシされた方が、むしろ安心ですらある。
     それに、僕には、先輩には少ししか伝えていないけど、良くない事情もある。
    「……ユウにはもう話したが、僕は、昔、ワルだったから。もし、付き合ったあとで、そういう事情を知られて、幻滅とかされたら嫌だなって……」
     勇気を振り絞って言ったのに、エースはそれを一蹴した。
    「なんだよ、もうお前先輩のこと好きじゃん」
    「な、何!? なんでそう思うんだ、エース!」
    「だって、好きじゃないなら幻滅されたくないとかウジウジ悩まないでしょ、フツー」
    「そうだゾ。デュースらしくもねえ。いつもの当たって砕けろの精神で、シルバーに『僕ワルだったんだけどそれでもいいですか』って聞いて、フラれたらキッパリ諦めたらいいんだゾ!」
     グリムとエースは無責任に僕をはやし立てる。けど、二人の言うことにも一理はある……気が、する。悩んでいると、監督生が声をかけてくれた。
    「デュース。自分の欠点を知られて、幻滅されたら嫌だって思うのは、誰にだってあることだと思うよ。きっと、シルバー先輩にもさ」
    「ユウ……。そう、だよな。いつまでも悩んでても仕方ねえ。次こそ、ハッキリさせてやる!」
     その意気だ、と応援され、僕は決意を固める。……言うんだ、シルバー先輩に、次に会ったときこそ。
    『先輩、シルバー先輩は僕のこと好きなんですか』
    『僕は好きです、でも僕、昔ワルだったんです、それでも本当にいいんですか』って。



     楽しんでいる。俺は、以前デュースにキスをした。自分のことを、視界に入れてほしくて。恋の相手の選択肢として、意識してもらいたくて。あれ以来、デュースに接触する機会を意識して増やしてみたが、そのどれもにデュースは新鮮な反応をくれる。そんな関係が、心地良かった。俺が勝手に好意を伝え、デュースはそれにいちいち慌ててくれる。それだけでも十分だと思っていた。そんな折、運動場の片隅で休憩をしていたところ、デュースから唐突に尋ねられた。
    「せ、先輩、って、僕のこと……っ、好き、なんですか!?」
     ふむ、と考えた。すぐに答えてやってもいいが、ほんの少しだけ焦らしてみたくなった。
    「お前はどう思う?」
    「えっ!? えっと、僕、僕は……っ」
     やはりデュースは、俺の思った通りに真っ赤な顔で慌ててくれる。その顔を覗き込むと、さらに真っ赤になった顔で、デュースは言った。
    「……僕、は、好きでいてくれたら、いいのにって思います。僕は、先輩のこと、好き、だから……」
     デュースはどうやら、この短期間で俺のことを好きになってくれたらしい。……嬉しいことだ。俺の努力のようなものが報われたことも、喜ばしい。
    「そうか、嬉しい」
     俺はまだデュースに俺も好きだとは答えず、キスを落とす。すると、デュースはぱくぱくと口を開け閉めしたあと、なぜか暗くうつむいてしまった。
    「……待ってください。こういうこと、する前に、言っておかなきゃいけないことがあるんです、僕には……」
    「なんだ?」
    「僕は……、昔、喧嘩に巻き込まれてばかりだった、って話は前、しましたよね」
    「ああ。覚えている」
     それは星送りの祭りの際、デュースから聞いた話だ。よく、覚えている。
    「もうちょっと詳しく話すと、僕はその頃、どうしようもないワルで……。自分が馬鹿でどうしようもない奴だってことから、逃げたくて。楽な方に、楽な方に行きたくて。人に迷惑かけてばっかりだった。魔法使えない人にマウント取ったり、ハロウィンのカボチャ割って回ったり、ヒドいことたくさんしました」
    「それは良くない行いだ」
    「うっ……。はい、今は反省してます。……だから僕、昔はそういうヒドい奴だったから……。シルバー先輩のことを好きになったって、先輩から同じように好きになってもらったりできるような奴じゃなくって……その、なんていうか。釣り合わない、って思うんです。僕の方が、シルバー先輩と……そう思うと、苦しくて、苦しくて……」
     だから、とデュースは続けた。
    「もし、それでダメだってんなら、ここでキッパリ振っちまってください。そしたら、ちゃんと、キレイさっぱりテメェの気持ちにケジメつけて忘れるんで!」
    「……もし、俺がお前の過去を受け入れる場合は、どうするんだ?」
    「えっ、それは、そのー……っ、なってから考えます! とりあえず、答えお願いします!!」
     デュースの奴は、俺がデュースを過去ごと受け入れるとは微塵も考えていない様子だ。俺は、考える。デュースの過去がそうしたものであることと、俺がデュースに好意を持ち、愛することは矛盾することだろうか? ……もし俺が、生まれてこの方何ひとつ罪のない人しか愛してはいけないのなら、世界中のどこを探せば俺が愛して良い人は見つかるのだろうか? そんな風に都合良く答えの決まった問いを考える時点で、答えは決まっている。
    「デュース」
    「はいっ!」
     デュースは力を入れて答える。これは、俺に断られると思っているのだろうな。その誤解だけは解いてやらねばならない。
    「俺は、お前が昔そうしたことをしていたのだとしても、今のお前を好きでいたいと思う」
    「え……?」
     ぽかんとした顔で疑問符を浮かべるデュースに俺は続ける。
    「お前の罪を、赦すということではない。お前はこれからも、その迷惑をかけたという人たちに、反省し、己を正した姿を見せていかねばならないのだとは考えている」
    「はい、それはもちろんですっ!」
     ただ、と俺は続けた。
    「お前がそうした態度を続けることと、それとは別に俺がお前に好意を向けることは、矛盾しない問題だとも考えた」
    「え、えっと、つまり……どういうことですか?」
     デュースには少し難しい言い回しだったらしい。俺は、分かりやすく単純な言葉に言い換えた。
    「つまり、過去のことについては反省しろ。それはそれとして、俺はお前が好きだ、ということだ」
    「え……えええっ!?」
     デュースは大きな声をあげて驚いた。常々ながら、一年生の肺活量には驚かされるものがある。
    「何を驚くことがある。俺の想いには、薄々気付いていたのだろう。そうでなければ、あのような問いは出てこない」
    「い、いやだって、そんな、都合の良い……」
    「誰にとって、都合が良いんだ?」
     僕にです、とデュースは言った。奇遇だな、俺にも都合が良いようだと答えれば、デュースは手で顔を覆った。
    「……僕、ほんとにシルバー先輩と付き合っちゃうんですか……」
    「なぜ少し嫌そうなんだ」
    「嫌じゃないです、嫌じゃないですけど! ……うわ~、マジか……」
     風が吹く木の影がデュースに落ちて、ざわりと揺らめく。観念しろ、と呟き、顔を隠すデュースの手を剥がしてもう一度キスをすれば、デュースはまた顔を真っ赤にさせた。

    *おしまい
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    くろあだ、前世でも今世でも来世でも幸せになってほしい(どの口が言う)。ちなみに私、伊藤左千夫の野菊の墓がめちゃくちゃ好きです(突然の性癖暴露)。あと直近でミスチルのHANABI聴いてました。


    ――――――――――――





    俺たちの穏やかな日常が、あんな形で終わりを迎えるとは想像もしていなかった。







    口下手で、分かりやすい言葉では、あまり表さないけれど。だけど、何気ない一言、さり気ない行動で、溢れる愛を示してくれて。
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