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    namidabara

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    5/19 進捗
    2日目/死ぬほど眠いから途中で終了 鶴月含む 恋心が分からない尾は可愛いねって話

    #尾月
    tailMoon

    尾月原稿 端から端まで嫌な記憶が敷き詰められた悪夢で、たまらず飛び起きた。ぱたた、と額を滑り落ちた汗が顎を伝ってシーツにシミを作る。最悪だ。未だに心臓の音が全身に響き渡る気怠い身体をもぞもぞと動かし、肺腑に溜まったどす黒い何かを全部吐き出すかのように深くため息を吐いた。
     着ているTシャツで顔を拭おうとして、ようやく己が生まれたままの姿であることを自覚する。そうだった、全部丸々剝ぎ取られたのだ。機嫌が悪かったのか、今日は輪をかけて乱暴だった。雑に扱われて騒ぎ立てるような初心ではないが、今までとは明らかに一線を画していた今日の行為の真意が月島には分からなかった。
     舌打ちをしながら腕を持ち上げて、そこにくっきりと刻まれた生々しい歯型にギョッとする。あいつ、やりやがった。初めて受けた仕打ちに益々舌打ちは深くなる。これじゃあ当分は腕まくりなど出来ない。暑がりの月島には致命的だった。

    「何回舌打ちするんですか」
     暗がりからぬうっと姿を現した尾形が、ペットボトルを片手にこちらへ歩いてくる。下着姿の男は気だるげな表情のまま蓋を開けて水を飲んだ。余裕なことだ、と心の中で悪態をつく。体中に刻まれた情事の痕を見せつけるように腕を振って訴える。
    「お前な、痕は残すなよ。なんでまた急に」
     尾形はその辺りは淡白だったはずだ。噛まれたことはあれど、キスマークなど付けられた記憶は一つもない。痕をつけるのだってよっぽどじゃないとバレないような位置で、それさえも「後々面倒ですし、好きじゃないんですよ」と言って滅多に行わなかった。
     それなのに、と月島はダウンライトの明かりの下の我が身を見下ろす。全身に散らばる鬱血痕と、歯型の痕。腰には強く掴まれたせいで指の後が薄らと残っているほどだった。今日のセックスは明らかに異常だった。
     尾形は月島の坊主頭を見下ろして、視線を彷徨わせる。言葉を選んでいるようだった。月島がじろりと鋭い視線で睨み上げてやれば、無表情のままぽつりと一言だけ言って見せた。
    「……鶴見には、痕を付けるのを赦したんですか」
     ——そう、そうだ、鶴見。この男がベッドの中で事あるごとに鶴見はどうだった、とか、鶴見にはこうされたのか、だなんて聞いてくるものだから、あんな夢を見たのだ。地獄を煮詰めたような鈍色の夢。
    「あの人は関係ないだろ」
    「魘されてましたよ。鶴見さん、ごめんなさいって」
     最悪だ。よりにもよってこの男に聞かれてしまうとは。すっかり気が抜けている自分に嫌気がさすが、そもそもそんな夢を見させたのはこの男なのである。

     尾形は何も言わない。何も言わないままそろそろと歩み寄ってきて、無言のまま月島にペットボトルの水を差し出した。それはさっきまでお前が飲んでいたやつだろう、と思ったが、そういうことはあまりに気にならない性質な上、喉が渇いて干乾びそうだったので素直に受け取った。

    「前にも言ったが、俺の番は鶴見さんじゃない。そもそも、フィーナさんにはお前も何度か会ってるだろう」
     αであるならば、あの二人に細胞レベルの結びつきがあることは本能的に察知できるはずだ。その番が誰のものか、本能で理解させられるのだ。これは運命の番を引き裂かせまいとする種の潜在的な意識なのだろう。当たり前だ、必ず強い子供が生まれると約束されている番を、わざわざ引き裂こうとする愚かな種は居ない。要するにシステムだ。人間が捨ててきたはずのより強い種を求める本能のシステム。
    「でも、鶴見次長に抱かれてたんでしょう」
    「……」
     沈黙。否定は出来ない。嘘が苦手な月島は、喋ってしまえばボロが出ると分かっているから口を噤んだ。
    「どうして? どうしてアイツはアンタに手を出したんですか。じゃあアンタの番は誰? どうして自分で項を削いだ。教えてくれよ、全部、俺に」
     黒瑪瑙のつるりとした瞳に困惑する月島が映される。どうして、なんで、教えて。そう強請る尾形は必死で答えを探す子供のようだった。下ろされた前髪のせいで幼く見えるのもあるのだろう。
    「なん、で、そんなこと。……知りたいんだ」
     乾いた唇で言えたのはそれだけだった。先ほど水を飲んだというのに、もう口内はカラカラだ。その先を聞くな。聞いたら多分、もう後戻りは出来ない。月島の中で喧しくサイレンが鳴り響く。尾形の声は、その警報を切り裂いて鼓膜を震わせた。
    「分からんのです。どうして知りたいのか、分からない。分からないから、知ったら、知りたい理由が分かるかも、と」
     ——一夜を過ごすのに、情報など要らなかった。身体と体温さえあれば他はどうだってよかった。相手にそれ以上のことを求めなかったし、相手にそれ以上のことを求められればうんざりしてさっさと関係を終わらせた。
     知りたいことなど何もなかった。自分の身一つで生きるのはとても楽で、それが一番効率的だと信じていた。誰かを知って依存した末の破滅を見てきたからだ。自分の事だけを信用しよう。そう自らに言い聞かせて、尾形は己の心の四方を壁で囲った。それで全てが上手くいっていたのだから、ほら見ろ、知る必要なんて無かったのだと笑っていた。
     だから、知りたいことなんて一つもなかったのに。その項を噛んだ番。肉を削いでまで無かったことにしたかった理由。腹に走る痛々しい傷跡。不定期に訪れるヒート。自らを獣と卑下した時の、痛々しいその笑顔。知りたいと思った。教えて、と思った。貴方をそうさせた全ての出来事を、貴方がそうする全ての理由を。

    「教えてください、月島さん。どうして俺はアンタを知りたいんでしょう」
    「そんなこと」
     俺に聞かんでくれ。そんな月島の言葉は喉の奥に押し戻される。長い前髪越しに月島を見下ろすその瞳は、途方に暮れた色を滲ませていた。本当に理解できていないのだ、この男は。自分の心が乱されるその理由を、月島のことが知りたいと思う理由を。
     それを愛と呼ばずして、何と呼ぶのだろう。月島はぼんやりとそう思った。
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