「琥珀色のアペタイザー」 こいつを美味そうだと思ったのはいつからだったろうか。
「チル」
陽の落ちた窓の外、部屋に籠る熱気、自分の名前を呼ぶ掠れた声。
「……チルチャック」
ライオスは懸命に呼吸をして、何度も俺の名前を呼ぶ。まるで知っている言葉がそれしかないとでもいうように。真っ白い肌が電球の灯りを吸い込んでいる。首や胸、脇腹に付いた赤色が馬鹿みたいに映えており、年甲斐もない自分の行動が少しだけ後ろめたくなる。
「……悪かったな」
腹の跡を撫でてやると、大きな身体が俺の指先からやや離れて捩れる。
「チル、くすぐったいよ」
平常と異なる浮ついた甘い声が下半身に重く響いた。可愛い、愛おしい、怖がらせたくはないが困らせたい、この指先で泣かせてみたい。次々と巡る思考に脳内が焼き切れそうになる。両手両足で数えきれないほど身体を重ねているというのに、だ。自分に加虐趣味はないはずだった。苦しい思いをさせたいと思ったことはない。しかし、この男を目の前にすると自分の中の見てはいけない感情を暴かれているような気持ちになる。
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