愛のはじまりも、おわりも、食卓から愛のはじまりも、おわりも、食卓から。
女が台所で鍋をかき回している。あんなに愛しかった背中も、今はくすんで見える。違う、お前はいつまでも美しいままだ、それは変わりない。変わってしまったのは、僕だ。セルは、何度か瞬きをした。
「はい、セル様。できましたよ」
ことり、とセルの前に温かなシチューが盛られたお皿が置かれる。柔らかな湯気が鼻をくすぐる。言わなくてはいけない、「別れよう」と。お前を幸せにしてやれるのは僕ではなかった、と。お前はなにも悪くない、ごめん、幸せになってくれ、と。みっともなく言い訳と頭を垂れないといけないのだ。そう何日も、何週間も、何か月も思っているのに、セルは女を傷つけるのが怖くて、違う、自分が傷つくのが怖くて、それと言えないままここまできてしまった。
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