真心のひかり「長谷部くん、トナカイ組もう準備できた?」
「まだ全員は揃っていないんだが。サンタ組は揃ったか」
クリスマスパーティーの配役はくじ引きで決まる。中でも審神者からのプレゼント運搬係は数名ずつサンタとトナカイに扮し、皆がまだ起きている最中に手分けして配ることになっていた。
夜中に忍び込んで敵襲と間違えられては厄介なので、この方法が一番平和的で良いのだ。今年の燭台切はサンタ側、長谷部はトナカイ側だった。
「よし、準備できたな」
大きな袋を抱え、プレゼント配りが始まる。広間の向こうにはサンタの格好をした一期一振がトナカイの薬研を引き連れて練り歩いていた。
「ありがとういち兄!」
乱が喜びの声を上げた瞬間、きらりと何かが光った。咄嗟に顔をそちらに向けると、乱の手のひらの上に片手大の星が乗っている。贈り物の中に星形の包装なんてあっただろうか。
「次は、五虎退。どうぞ」
「ありがとうございます、いち兄!」
見れば五虎退も星型の何かを手渡されている。既に受け取っている前田と平野も、トナカイの角をつけた江雪から受け取る小夜の手にも星。見渡せばみんな様々な大きさの星を手にしている。
なんだこれは。
長谷部は自ら持つ袋を覗き込んで目を疑った。中身が全部星なのだ。正確には星の形になっているのではなく、ひとつひとつが星型の輪郭に包まれて光っている。どういう仕組みだ。暗くなると光る蓄光塗料の類ではない。
「なあ、俺の分って長谷部が配ってくれるのか?」
「あ、ああ、不動のか。あるぞ」
名前が書かれた箱を取り出す。袋に詰めたときには確かにただの箱だったものが、星形にまばゆく光っている。掴むと指先までぼうっと明るく染まる。
「……主のお心遣いだ。ありがたく頂戴するんだぞ」
「ああ! ありがとな!」
皆見た目にものともせず、ためらいなく光る包装を解いていく。中から出てくる贈り物はそれぞれだが、包装紙を脱いでもなお未だ柔らかな光を放つ。近くの燭台切もまた、刀たちに星を配っていた。
「……なあ燭台切、このプレゼント……」
小声で手招きすると燭台切が首を傾げた。
「どうかした? 数が合わない?」
「いやだって、こんな見た目」
「おかしい? あっ、見つけた貞ちゃん! プレゼントあるよー!」
どうやら燭台切には、いや自分以外の刀には見えていないのかもしれない。この謎の光は何なのかさっぱりわからないまま、長谷部は一通りプレゼントを配り終えた。燭台切もこちらに戻ってくる。袋の中にはまだ何か残っているようだった。興味深そうに短刀たちが近寄ってくる。
「燭台切さん、それは?」
「これはね、今日頑張ってくれた長谷部トナカイくんに、サンタの僕から」
「わーっ、いいなぁ!」
「なになに?」
燭台切がにっこりと袋から取り出したのは抱えきれないほど大きなハートだった。実際の包みは両手に収まるのだが、この光の輪郭たるやあまりに大きい。先ほど配っていた星が霞むほどだ。
「はい長谷部くん」
「おい、それ、どうしたんだ……!」
「はは、そんなに驚かなくても。クリスマスプレゼントだよ。サンタ役とトナカイ役は自分たちで選んだ贈り物を交換する決まりだろう?」
「なんっ、え……そ、そうだ、交換だったな……」
まさか広間で交換することになろうとは思っていなかったが、こちらもここで出しておくべきだろう。きちんと買ってはあるのだ。洒落者の男に似合う襟巻き。控えめすぎず、下品にならない華やかな黒と赤の縞目。秋から下調べをして、買うまでにひと月悩んだ。自分が選んだ品を身につける相手の姿を夢想して、緩みそうな頬を叱咤した。片想いの甘い夢を何度も見た。皆の前で渡すのだから、さりげなく、何気なく、思い入れなどさほどない素振りで手渡すのが正解だろう。
長谷部はクリスマスツリーの近くに置いていた荷物の中から燭台切に宛てた包みを取りだす。そして、目を見開き硬直した。
ハートの形をしている。
これはもしかして、いやもしかしなくても『見えてはいけない何か』が目に見えている。星もきっとその一種だ。
燭台切の抱えているあのプレゼントはそういう意味で、自分のプレゼントも。
誰にも見えていないのは皆の様子でわかっているけれど、これを人前で出すのは憚られる。
「長谷部くん?」
「は……!」
すぐ後ろから呼びかけられて飛び上がる。思わずはち切れんばかりに膨れたハートを後ろ手に隠した。
「これはあの、そういう意味ではなく」
「どうしたの? 着ぐるみ暑い? 顔真っ赤だよ」
「違う、違うんだ……!」
何も知らないサンタは、困ったように笑う。
なあ、こんなもの、どんな顔して渡せばいい?
了