ココイヌ/東リベ「なあ、オマエ」
九井の声に、しばらく反応はなかった。部下の男は、灰皿の中身をゴミ箱に捨てると、ようやく九井に向き直った。
「え、オレっすか?」
「オマエ以外誰がいるんだよ」
奥に設置されたデスクに座る九井は呆れた声を出し、背もたれに体重を預けた。ぎしり、とバネが軋む。九井が係るこのフロント企業の一室は、彼の許可なく入ってくる者はいない。今は部屋の掃除をする部下の男だけだ。まるでITに縁がなさそうな、一目でその筋のものだとわかるような人相の悪さをしていた。
「は、はい。で、なんすか」
「オマエ、女に物やるときって何にする?」
「へっ?」
思いがけない質問に、男は間抜けな顔を見せた。ちらり、とカレンダーに目をやる。
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