汝は晩餐足り得るか?《はい、あーん》
目の前に居る人物の腕が自分の方へと伸ばされて、その手に握られたフォークが口元に近付いて来る。
フォークの先端がしっかりと埋め込まれたまま持ち上げられている物体は、肉汁が滴り最適な焼き加減になっているステーキだった。
グレゴールは寄せられた肉を咥内に招き入れて、厚みのあるソレをゆっくりと力を込めながら噛み締める。先端から肉の欠片が消えたフォークは、持っている人間の手の動きに合わせ上機嫌に空間を泳ぎ己の向かいに座っている男──ダンテの元へと戻っていった。
その動きを黙って見守り、ぶつ、と口の中の塊に歯を立てて噛みちぎり咀嚼してから、溢れ出る脂と細かくなった残骸を、ごくりと喉奥に押し込むように一緒に飲み下して。グレゴールは腹を摩りつつ、困りきった表情で少しの脂に濡れた唇をそっと開いた。
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