貴方がどうしたって隣に居てよ「勝っ…………た……?」
ロドスアイランド製薬、その本艦で定期的に開催されるスツール滑走大会にて。
優勝常連者であり、私物のスツールを持ち出して参加したlogosを僅差で抜いて、今大会で優勝をおさめたのは──未だに信じられないと大会で吹き飛んでいったサングラスはそのままに、珍しくも目元を露わにしてスカーフの中で息を切らしているScoutであった。
わああ! と観戦者、それから感染者が一気に湧き立って、男も女も関係なくとんでもない盛り上がりを見せている。カジミエーシュの騎士競技でも見ていたかのような盛況さだった。
今回もlogosが優勝するに違いないと賭けて大損をした者は龍門幣を床へと叩きつけ、勝利した者は「Scout! 愛してるぞ!!」とその叩きつけられた紙幣を天井へぶち上げてひらひらと空気中に舞わせている。こんな有様をケルシーが目撃したのなら、全員が説教と粛清を喰らうだろうが、生憎と我らが優秀なる医師殿はCEOの手によって強制的に仮眠を取らされている最中だ。そして可愛らしいCEOは優勝したScoutに向かって満面の笑みで惜しみない拍手を贈っている。最後の頼みの綱であるクロージャは、残念ながら賭けの胴元なので、誰もこのトンチキ祭りを止める者は居ない。そう、ロドスの作戦部門、その長であるドクターもこの騒ぎを止めるなんて野暮な真似をしなかった。だって、この大会の勝利はScoutの悲願でもあった──らしいので。去年の彼は大層悔しそうな様子でした、と記憶を失ったドクターに教えてくれたのは、目覚めた時に女の子らしい小さな手を差し伸べてくれたアーミヤだった。
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