炬燵の猫 もう暦の上では春も近いというのに、外の寒さが身に染みる。炬燵に深く身体を潜りこませながら、耕助はうとうとと惰眠を貪っていた。近頃は陰惨な事件も起こらず、出番もないので、新聞を読んだり、ゴロゴロと座敷に寝転びながら過ごすのが常だ。
「耕ちゃん、久しぶりだな」
快活な掛け声と、襖が開かれた瞬間に、耕助はぶるりと身震いをした。冷たい風が、襖の向こうから入ってきたのだ。それを気にせず、掛け声の主は耕助の向かいに座った。
「風間、仕事終わったのかい」
「ああ、ひとまずな。直ぐに出るが、お前の顔が見たくなったから」
そう言って、俊六はまた明朗な表情で耕助を眺めた。耕助はその明るさに、どこか気が引けて、少し視線を反らせた。働き盛りの輝かしい様子が、眩しかったのだ。
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