最後の逢瀬 最後の思い出、だとかなんだとか、名残惜しさや押し付けがましさやノスタルジックを感じたかったわけではない。
もうきっと、こういう風にして、二人きりで秘密の触れ合いをすることは、一生訪れないかもしれない、と思ったら、無性に触れたくなった。だから最後にしようと言った。面堂から言った。
あたるは、そうか、とたった一言呟いて、やけに大人びた顔で笑った。
「――じゃあ、これきり、最後にしよう」
瞬間、決心のつかない頼りない心は我儘にも後悔をした。胸を打つ寂しさや焦燥に、なんとか頭を振って返事の代わりに頷いた。
思えば肝心なことはなにひとつ言わない関係だった。裏を返せば、だからここまで一緒に居られた。
覚悟を決めたようなあたるの笑顔があまりにも眩しくて、思いのほか胸が詰まった。面堂はこのとき、なんと返事をしたのか覚えていない。
1936