「ごめん、待たせちゃった!」
立香が人込みをかき分けて駆け寄ると、斎藤は気にするなとへらへら笑う。
「大丈夫、僕もさっき来たばっかりだよ。遅れそうだって走ってきてくれたんだね、ありがと」
そう言って乱れた息が整うまで待ってくれるし、手に持っていたペットボトルの水をまだ飲んでないからと手渡してくれる。
それを受け取ってありがたく頂くのだけれど、立香の日頃の疑問がまた首をもたげてきた。
「一ちゃん、準備良すぎない?」
「そお?」
斎藤はそんなことはないというが、今回のペットボトルもそうだし、前回はハンカチを忘れたと思ったら隣ですぐ渡してくれたこともあった。その日の気分でデート先を決めたはずなのに、休憩には立香の好きそうな店をしっかり見つけていたりすることもある。
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