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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

    DONE蒼の誓約 8

    最終話です! ここまでお付き合いありがとうございました!
    魔法使いにいつもの日々が戻ってきました。不安げな顔をした双子のウツボが顔を出したので、彼は小言を少し漏らしましたが、彼らを罰することはありませんでした。契約で縛らなくても、彼らが自分を裏切ったり、ましてやかじったりしないことはとうにわかっていたのです。わかっていて、魔法使いはそれでも彼らを信じきることができていませんでした。けれど、こうして顔を出すことが、答えのようなものではありませんか。魔法使いは何故だか晴れた気分がしていました。まるで、解放されたのは魔法使いのほうだったような心地でした。
     魔法使いは、罪人が自分にかけ、自分が罪人にかけた心の癒しを、深く理解するところから始めました。その為に双子の心を覗きました。それで許されるならとしおらしい彼らの心は、自分や罪人に比べればとても明るく絡み合うものも少なくて、中で彼らは片割れと共に魔法使いを大切に抱いているのです。ああ、これが本来の人魚なのだと魔法使いは思いました。感情も執着も無い泡が肉を得たモノ、それが人魚なのですから。
     その魔法を手掛かりに、魔法使いは研究を続けました。ある程度の考えがまとまってきた頃、魔法使いは双子に言います 3876

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    MAIKING蒼の誓約 7魔法使いは長い時間、罪人の胸に縋りついて泣きました。溢れ出た涙は海へと還り、泣き声は洞窟に反響して、自分の中に還って来るようです。まるで子供の泣き声だと魔法使いは思いました。
     子供の頃、魔法使いは珍しいタコの人魚であることを、それはそれはからかわれ、いじめられたのでした。人魚は純粋だと罪人は言いました。まったくその通り、純粋であるがために残酷でした。言葉でなじられるならまだよいほうで、追いかけ回されたり、閉じ込められたり、時には傷付けられました。タコは再生能力が高いから、と、足をちぎられそうになったことも有りますし、一口ぐらいとウツボの人魚にかじられかけたことも。無力で小さな稚魚にとって、どれほど恐ろしい経験だった事でしょう。深海に見つけた、誰かの住んでいただろう洞窟に閉じこもってやっと、魔法使いは安心して暮らせるようになったのでした。
     強くなれば、いじめられることもないのだ。最初は、身を守るためでした。それは次第に、彼らを見返し、同じ目に合わせてやるために変化しました。やがて全てを手に入れるほどに強くなると、今度はそれを守ることに執着しました。この海の全てが、自分の掌の中に納まっ 3050

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    MAIKING蒼の誓約 6魔法使いは一心不乱に研究を重ねました。三日三晩、眠りもせずにうちこみました。双子たちが心配する声も、魔法使いには届きません。人魚を痛めつけるように言われた彼らは、逆らったりはしませんでした。魔法使いは、恐怖に震える人魚達に魔法をかけ、実験を繰り返しました。
     ところがなかなかうまくいきません。僅かに宿った感情が消えてしまったり、不安定になったりするばかりです。そもそも、感情とは何なのでしょう。人魚である魔法使いには、わからないのです。この背中から湧き上がってくるような落ち着かない感覚や、罪人のことを考えると痛む胸のことが。
     洞窟はしんと静まり返っているはずなのに、いつもザワザワと頭の中で何かが鳴っているような気がします。ひどく不愉快な感じがして、魔法使いは研究に集中しようと思うのに、それもうまくいきません。
     罪人が、食事を口にしない。だから弱ってきている。
     双子たちがそう言ってきた時、魔法使いは腹の奥から熱がこみあげてくるのを感じました。それは人間の世界で言うところの、怒りでした。ぶわぶわと8本の足が揺れ、髪まで逆立ちそうなほどです。魔法使いは双子たちには目もくれず、罪人を閉じ込 3625

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 5罪人は助けを求めました。どんなに声を上げても、喉からは音が出ません。檻を叩いても、深くて暗い洞窟に音が反響するだけで、もう魔法使いに届いているかさえもわかりませんでした。
     一方の魔法使いは、無心で釜を混ぜておりました。罪人の言っていた、感情の濁り、ブロットを取り除いたり予防したりする薬や魔法ができれば、彼を死なせずに済むのです。魔法使いは海のあらゆる知識をもって、その研究を重ねることとしました。
     しかし、感情とはなんなのか。元々呑気で純粋な人魚達には、あまり感情というものがありません。海に漂う海藻やクラゲのように、日々の流れを感じながら過ごすばかりの生き物ですから、オーバーブロットした人魚など、聞いたことも有りませんでした。
     けれど魔法使いは被験者を集めることにそう苦労はしませんでした。いかに感情の薄い人魚と言えども、痛めつけ苦しめれば辛いとぐらいは思います。そうして溢れ出る恐怖心や、悲しみを消す魔法を作ればいいのです。魔法使いは双子のウツボに命じました。人魚のうち、この海から消えても構わない者を捕まえ、痛めつけるのだと。
     ブロットを防ぐ魔法を手に入れれば、罪人は罪を重ねなくて 2558

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    MAIKING蒼の誓約 4
    恐らく全8話です
    魔法使いは罪人に、魔法をかけてあげました。水中でも呼吸ができる魔法です。二人は手を繋いで、ゆっくりと夜の海に入っていきました。
     罪人の炎の髪は、水に濡れてもその姿を不思議と保っていました。何処へ行っても罪は消せない、と罪人は呟きましたが、魔法使いは、自分が必ず何とかします、と微笑みました。
     二人は夜の海へと沈んでいきました。罪人にかけた魔法は人魚のように夜目が利くようにもしてくれたので、暗闇にあってきらきらと海中がまたたいて見えるのは、まるで夜空のようでした。
     罪人は泳ぐのも初めてだと、最初はたどたどしい動きをしていました。それを笑うでもなく、魔法使いは手を繋いで、優しく泳ぎ方を教えてあげました。しばらくすると、罪人も二枚貝程度には泳げるようになって、それから少しずつ慣れていきました。
     ゆっくりと泳ぐ二人の上を、大きな大きな影が通り過ぎます。あれはなに? と尋ねる罪人に、魔法使いは答えます。
     あれはサメというのです。襲われたりしない? この海で僕を襲えるようなものはいませんよ。
     無数の小さな魚が玉のように蠢く姿を、島のように大きなクジラを、宝石のように輝く深海の生物を、二人 2694

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    MAIKING蒼の誓約 3魔法使いと青年は長い時間、砂浜で話しました。青年が陸のことを教えてくれると、魔法使いは代わりに海のことを教えました。
     火を使って料理をするということ。夜の海は暗いけれど、殆どの魚や人魚は目が利くこと。陸には馬という足の速い生き物がいて、人間はそれで移動するということ。海の生き物はみんな海流を知っていて、それでとても遠い場所にも行けるということ。弟がいること。双子の腹心がいるということ――。
     二人は様々なことを話しました。しばらくすると、青年には迎えが来るので、魔法使いは海に戻って隠れます。青年は魔法使いのことを秘密にしました。
     そうして、二人は夜な夜な会うようになりました。満月の日が近づくにつれ、月の光に照らされて、魔法使いの姿が青年に見えるようになってきましたが、青年は決して魔法使いを恐れはしませんでした。二人の距離は徐々に近づいて、いつしか浜辺に二人で座るようになりました。
     月を見ながら、星を見ながら、陸の、海の他愛のない話を、いつまでもいつまでも続けていました。魔法使いは青年と話すのを楽しみにしていました。知らない事が減っていくのは楽しいですし、彼と話していると知らない事 3089

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 2ウツボたちの見せたものに、魔法使いは驚きました。
     夜空は深く遠く、洞窟の闇とは違い、星々に満たされ輝いています。冷たい空気が頬に触れ、波も無いのに彼らの髪を揺らしました。陸地には数えきれないほどの灯りが並び、またたいていました。
     そんな中で、彼はウツボ達の目にしているものを、言葉も無く見つめます。
     それは、青い火でした。熱帯魚を思わせる深い青が、火となって揺れています。長く長く伸びたそれは、波に揺れる海藻のような、いえ、海中の中にあっては見た事のない動きをして、揺らいでいます。なによりそれはただの火では有りませんでした。人間の、髪なのです。
     そんな人間、ウツボも魔法使いも見たことが有りません。人間の髪が燃えているなんて、そんなことは聞いたこともないのです。それは細い身体をした、随分と頼りなげなか弱い生き物でした。その白い肌は月の色に似ていました。その金の瞳は闇の中でも煌めいて見えました。
     とある島の浜辺に、その人間はじっと座っているのです。それが雄なのか雌なのか、子どもなのか大人なのか、彼らにはわかりません。ただその青い火と金の瞳が、夜の砂浜で浮き上がるように見えて、目が離せ 2715

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 1
    特殊設定パラレルです。
    学園の概念は無くあずにゃんはただの深海の魔法使い。いでぴはわけありの非オタ。
    まだ書いてる途中なんであれですが、あずにゃんがヤンヤンになっていでぴを監禁したり命を奪おうとしたりします。かわいそうな話です。でもハッピーエンドです。たぶん。いでぴや人魚達は色んな理由で人の命を奪ったりもしています。
    昔々、深海の暗い洞窟の中に、一人の魔法使いが住んでおりました。
     陽が沈み夜の帳が降りた空のような濃い紫の肌に、8本もの自在にうねるタコの足を持った人魚でした。空の色の瞳は、しかし長い間、闇ばかりを映しています。彼は洞窟の奥に引きこもり、日々魔法の薬を作っておりました。
     彼は偉大な魔法使いでした。悩める人魚達は、こぞって彼の元に相談をしに来ました。彼は慈悲深い男でしたから、彼らから正当な対価を受け取って願いを叶えておりました。
     しかし魔法使いは強欲でもありました。対価としてこの海の全てを求めておりました。彼の両目は、腹心である二匹のウツボの人魚と繋がっていて、海の何処でも困っている人を見つけられました。彼らは言葉巧みに、悩める人魚達を魔法使いの元へと誘いました。
     魔法使いは彼らの悲痛な願いを聞き届ける代わりに、あらゆる対価を受け取りました。美しい容姿も、透き通る声も、身体を飾り付ける装飾品も、喉を潤す美酒も、舌を楽しませる食事も、何もかもをです。彼は海の全てを手に入れていました。そして彼は、それにある一定の満足をしていていました。
     ある日やって来た人魚の悩みを聞くまでは。
    『あ 2692