Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    岩藤美流

    @vialif13

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 100

    岩藤美流

    ☆quiet follow

    蒼の誓約 1
    特殊設定パラレルです。
    学園の概念は無くあずにゃんはただの深海の魔法使い。いでぴはわけありの非オタ。
    まだ書いてる途中なんであれですが、あずにゃんがヤンヤンになっていでぴを監禁したり命を奪おうとしたりします。かわいそうな話です。でもハッピーエンドです。たぶん。いでぴや人魚達は色んな理由で人の命を奪ったりもしています。

    ##パラレル

    昔々、深海の暗い洞窟の中に、一人の魔法使いが住んでおりました。
     陽が沈み夜の帳が降りた空のような濃い紫の肌に、8本もの自在にうねるタコの足を持った人魚でした。空の色の瞳は、しかし長い間、闇ばかりを映しています。彼は洞窟の奥に引きこもり、日々魔法の薬を作っておりました。
     彼は偉大な魔法使いでした。悩める人魚達は、こぞって彼の元に相談をしに来ました。彼は慈悲深い男でしたから、彼らから正当な対価を受け取って願いを叶えておりました。
     しかし魔法使いは強欲でもありました。対価としてこの海の全てを求めておりました。彼の両目は、腹心である二匹のウツボの人魚と繋がっていて、海の何処でも困っている人を見つけられました。彼らは言葉巧みに、悩める人魚達を魔法使いの元へと誘いました。
     魔法使いは彼らの悲痛な願いを聞き届ける代わりに、あらゆる対価を受け取りました。美しい容姿も、透き通る声も、身体を飾り付ける装飾品も、喉を潤す美酒も、舌を楽しませる食事も、何もかもをです。彼は海の全てを手に入れていました。そして彼は、それにある一定の満足をしていていました。
     ある日やって来た人魚の悩みを聞くまでは。
    『ああ、偉大な魔法使い様。私はとある人間と話していると、胸が熱くなって溶けてしまいそうになるのです。彼はこれを、恋の火と呼びます。火とはなんです? 陸にあるそれを、私は知りません。教えてください。火とは、恋とは一体何なのです?』




    「恋? 火? ばかばかしい」
     偉大な魔法使いと呼ばれる男、アズール・アーシェングロットはその夜、腹心たちを前に毒づいていた。
    「くだらない依頼を取って来るんじゃない。恋は気の迷い、火は地上にしかないもの。それで答えは十分だ。契約にもなりはしないだろう。まったく……」
     アズールはそう言いながら、洞窟の中でゆらりと杖を振った。魔法の釜は海中にあって不思議と液体に満ちており、そこからあらゆる魔法が放たれる。彼はここ数年その洞窟から出たことさえないけれど、薄暗く決して広いとは言い難いそこには、数々の金銀財宝や魔法に使うあらゆる素材、それに食糧、あとは哀れな契約違反者のなれの果てがゴロゴロと転がっている。
    「でもさぁ、アズール。もうこの海の中で、アズールでも手に入れられないようなもの、残ってなくね?」
     ウツボの片割れが肩を竦めると、もう片方もクスクスと笑った。
    「僕たちの目を使えば、アズールに知らないこともないでしょうしね。けれどあなたは、火や恋が何なのか、彼女に答えられなかった。あなたにもわからないことが残っているということですね、アズール」
    「違います。僕には必要が無いし、興味が無いというだけです」
     アズールはきっぱりと否定しながら、8本の足を器用に使って魔法の釜を混ぜていく。
    「恋だなんて、くだらない。それは感情の揺らぎです。一種の狂気にも似ているでしょうね、正常な判断力を失っていることのたとえですよ。そんな病気に僕は興味が無い。治せと言われれば治す薬は作れるでしょうがね。何かと聞かれても……無意味な質問だとしか。火に関しては、海には必要無いものですから。知ったところでどうなるやら」
    「よーするに、知らねえんじゃん、アズール」
    「おやおや、ダメですよフロイド。アズールが自分の無知を気にしてしまいます」
    「……」
     アズールは、しばらくむすりと眉を寄せていたけれど、やがてウツボたちを見ないまま、問うた。
    「それで。おまえたちは知っているんですか」
    「恋? しらねーよ?」
    「ですが、火は知っています。アズールと違って僕たちは、海上までいくこともありますから。地上で燃える火を目にすることはありますよ」
    「……では、今度僕にも見せなさい」
    「自分の目で見に行けばいーじゃん」
    「僕は見ての通り、おまえたちと違って忙しいんです」
     アズールはそれだけ言って釜を混ぜることに集中し始めた。ウツボたちは二人で顔を見合わせ、そしてクスクス笑うと、洞窟を泳いで外に飛び出した。


     魔法のかかった二人の金の瞳は、見たものをアズールにも共有することができる。それは視界だけでなく音や、また双子の感情に近いものも。双子が望んだ時も、アズールが望んだ時もできるけれど、いつも彼らが同じ感覚で生きているというわけでもない。
     昼も夜も、春も冬も関係無く、魔法の釜とばかり向き合っているアズールに代わり、双子は海の世界を、外の世界を見てきた。余計な情報はいらないとけむたがられることも多かったけれど、アズールはそれを罰したこともなかった。
     二人はゆらゆらと暗い海中を泳いで、夜の海面へと昇った。陸でも呼吸ができ、会話もできる彼らは、きょろきょろと明かりを探す。空にまたたく星でなければ、夜の陸に有る光はたいてい火と呼ばれるものだ。
     お喋り好きの鳥をひっ捕まえて聞いたところによると、海にポツンと建ったものは灯台と言って、船を導くものらしい。船は泳げない人間たちが乗るものだ。大きなものはどうしようもないが、小さなものならひっくり返して落ちた人間を沈めて遊ぶのも楽しい。泳げる人間と追いかけっこをするのはもっと楽しい。どちらもいずれ、動かなくなってしまうのだけれど。
     陸の上には無数の光が揺れている。人間達は夜の闇を嫌うらしい。彼らは寝る間も惜しんで活動する、そのために火をつけているのだと鳥は言っていた。陸地は人の住む家というものと、光に溢れていて、この狭い陸の上にどれだけの人間がひしめき合っているのかと思うと、双子は少し親近感を覚えるのだ。ウツボはいつも、狭い所に身を寄せて暮らすものだから。
     しかし、彼らは足を持っていない。陸に上がることは無理だし、危険が伴う。海中では人間など恐れるに足らないけれど、ひとたび陸に上げられた人魚は二度と帰っては来ないのが常だ。稀にもの好きな人魚と人間が一緒に過ごしたりはするらしいけれど、それは本当に稀なことで。
    「アズールに見せて面白そうなトコ、無いねジェイド」
    「そうですね。せっかくならアズールが驚いて、実物を見に来たがるような光景を見せてやりたいものですが」
     二人は海流に乗って泳ぎ、様々な陸地を見て周った。灯台は高くて登れそうもないし、小船は二人が掴むと簡単にひっくり返って、中身が海に落ちるのは面白いけれど、水に濡れると火は消えてしまうし、人間はすぐ動かなくなる。困ったねえ、と二人は次第に飽きてきて、ぼんやり海上を漂っていた。
     そんな時だ。彼らの視界に、青い炎が映ったのは。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍😍👍👍☺💖💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator