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    岩藤美流

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    岩藤美流

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    蒼の誓約 3

    ##パラレル

    魔法使いと青年は長い時間、砂浜で話しました。青年が陸のことを教えてくれると、魔法使いは代わりに海のことを教えました。
     火を使って料理をするということ。夜の海は暗いけれど、殆どの魚や人魚は目が利くこと。陸には馬という足の速い生き物がいて、人間はそれで移動するということ。海の生き物はみんな海流を知っていて、それでとても遠い場所にも行けるということ。弟がいること。双子の腹心がいるということ――。
     二人は様々なことを話しました。しばらくすると、青年には迎えが来るので、魔法使いは海に戻って隠れます。青年は魔法使いのことを秘密にしました。
     そうして、二人は夜な夜な会うようになりました。満月の日が近づくにつれ、月の光に照らされて、魔法使いの姿が青年に見えるようになってきましたが、青年は決して魔法使いを恐れはしませんでした。二人の距離は徐々に近づいて、いつしか浜辺に二人で座るようになりました。
     月を見ながら、星を見ながら、陸の、海の他愛のない話を、いつまでもいつまでも続けていました。魔法使いは青年と話すのを楽しみにしていました。知らない事が減っていくのは楽しいですし、彼と話していると知らない事がまた増えていくのです。知識欲を満たすのも、好奇心を刺激されるのも実に楽しいことでした。だから、彼と一緒に話していると、何故だか胸が温かくなるのです。
     許してもらえたので、彼の髪に触れたことも有りました。それはほのかに温かい火でした。本当は、火は触れただけで怪我をしてしまうほど熱いのだと、青年は言います。しかし、熱いとはどういう状態なのか、魔法使いにはまだわかりません。すると今後は、青年がランプを持ってきてくれました。それに触れることで、魔法使いは熱いという感覚を知るのでした。 
     とても満たされた時間でした。二人は仲の良い友人のように過ごしていたのです。ところがある日、青年の青い髪が、少しづつ伸びているような気がして、魔法使いはついに核心へと触れました。
     あなたの髪は、どうして燃えているんですか?
     その質問に、青年は悲しげに微笑んで、答えます。
     これは、罪の証だよ――。




    「罪の、証、ですか?」
     アズールの問いに、イデアは「うん」と頷いて、また少しの間黙った。アズールは思案して、「もしあなたが話したくなければ」と呟いたのだけれど、彼は「そういうわけじゃないんだけど」と首を振る。
    「どこから説明しようかなと、思って。……あのね、……きっと人魚って、君みたいに心が純粋できれいだから、きっとわからないと思うんだけど」
     とんでもないことだ。この人は僕のことを何もわかっていないのだな。アズールはそう思いながら、イデアの言葉を待った。
    「人間は感情ってものが強くてね。感情は執着とか、願望とかにも左右されたりして……それが良いほうに作用すればいいんだけど、当然悪いほうにも作用するの。それで……心が、黒いもので濁っていくんだ。僕たちはそれを、ブロットって呼んでいるんだけど。負の感情が蓄積すると、ブロットも蓄積する。それがある程度溜まるとね、さらに負の感情を加速させてしまうんだ。そうすると、人間は他の人を傷つけたり、憎んだり、自分のものにしようとしたり……とにかく、本当のその人なら決してしないようなことをし始めてしまうんだ。それが続くと更に状況は悪化して、オーバーブロットっていう状態になるんだけど……そこまでいくと、……人を、殺してしまうことさえあるんだよ」
    「それはそれは……病気、のようなものですか?」
    「そうだね、明確な治療法の確立されていない病気……とも言えるかな。対処法が無いわけじゃないんだけど……必ず治せるとも限らない。それでね、そういう……限界までブロットが溜まってしまった人を、野放しにはできないでしょ? だから……ここは、嘆きの島って呼ばれているんだよ。この世界の全ての負の感情が……集まって、消えていく場所だから」
     イデアの髪が、風にたなびいてゆらゆらと揺れる。消えてしまいそうなほど儚いのに、それはすぐに火の勢いを取り戻して、あるいは水のように揺れながら彼の髪で有り続けている。その様が、酷く美しいのに、どこか冷たいものを感じるから、アズールは彼を見つめているのが好きだった。
    「僕たちの一族には、彼らのブロットを取り除いたり、緩和させる技術が……魔法の一種なんだけどね。伝わっているんだ。僕たちの一族は、そのせいで髪が燃えてるんだよね。それで、最後の手段として、ブロットの溜まった人間はこの島に連れて来られる。僕たちはそれを癒すけど……確実ではないんだ。救えない人も当然いる……だからね。……だから、彼らを安らかにしてあげなきゃいけないんだ。もう、苦しまなくていいように……。それも、僕たちの役目、なんだ」
     イデアが何を言わんとしているのか、アズールは理解した。つまりは、彼らは癒し手であり、同時に処刑人でもあるのだろう。彼がいつも物憂げな表情をしている理由を、アズールは知った。
    「でもね、……どんな理由が有っても、命を奪うことは大罪でしょ? だから……この髪は、命を奪った分だけ伸びていくんだ。それで……いつか、この火が僕を焼き尽くす。人は骨と灰になって世界に残るけど、僕たちは大罪を犯してしまうから……何も残らない。青い火を子供に遺して、それで終わりなんだ」
     それは死ねば泡になる人魚と同じようではあった。しかし、人間の世界に在って終いの証を遺せないというのは、随分残酷な話のようにも感じる。アズールには人間の気持ちなどわからないけれど、同じ世界で異質であることの悲しみぐらいなら知っている。彼の長い髪が、風に揺らめいた。
    「……あなたの髪も、随分長く思います。もう、それほど時間は無いのですか?」
    「ううん、これぐらい、まだまだだよ。だから僕はこれからも『仕事』を果たすつもり。僕の代わりに、弟に長生きしてほしいしね。僕が頑張っている間は、弟は『仕事』をしなくていいから……」
     彼の抱く感情を、アズールは正確には理解できない。受け取れるのは言葉だけだ。アズールはそれを、不思議と歯痒く感じた。
     もっとこの人と話したい。もっとこの人の、本当の気持ちを知りたい。
     それはアズールが初めて抱くものだった。
    「でも、そうだな。僕がここに来てるのは、現実逃避かも。君と話すのはとても楽しくて、辛いことも悲しいことも忘れていられるんだ。いつも本当に感謝してる。……時々、逃げ出したくなるんだ。こんな仕事、できることならしたくないし、死にたくもない」
     できることなら、君の住んでいる海に行けたらいいのに。イデアが苦笑して呟くから、アズールはすぐに「行けますよ」と答えた。
    「え?」
    「水中で呼吸できる魔法も有ります。僕と契約さえしてくれれば、あなたは安全に海の世界へ来ることができますよ。それにいつだって陸に帰ることはできるんです。少しぐらい、気晴らしをすればいいじゃないですか。大丈夫、僕がついていますから」
     アズールは自分の口からスルスルとこぼれ出る言葉が、何故紡がれるのかもよく理解できないまま、イデアに提案をした。
    「僕と契約をしましょう、イデアさん。僕が、あなたをそのしがらみから解放します。その代わり、あなたは僕のそばを離れてはいけない。簡単な契約でしょう?」
     微笑んで、手を差し出す。イデアは少しの時間、目を泳がせていたけれど、やがてそろりと、アズールの手を握り返した。
     契約は、成された。
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    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
    「んんん? DJどうしたの?なんだかお疲れじゃない?」

    いつもの談話室でいつも以上に気怠そうにしている色男と出会う。その装いは私服で、この深夜帯……多分つい先ほどまで遊び歩いていたんだろう。その点を揶揄うように指摘すると、自分も同じようなもんでしょ、とため息をつかれて、さすがベスティ!とお決まりのような合言葉を返す。
    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767