【タル蛍】腕が立つとはいえ、 目を開けるより先に鼻腔を掠めた香りは、どこか甘ったるい、少なくともタルタリヤが好む匂いでは無かった。それどころか最近嗅ぐのも辟易している類のもの。
ついにやってくれたかと目を開け、顔を上げる。軽く辺りを見渡せばそこは小さなテーブルと椅子が置いてあるだけの殺風景な部屋だった。当然見たこともない、知らぬ部屋にどうやら目の前の椅子と同じ椅子に座らされているらしい。ご丁寧に後ろ手に拘束をして。
気絶をしていたのはどれくらいか。酷く痛む後頭部の具合からしてそんなに経っていないのか。
ともかく背後から襲撃され、気を失っているうちに連行された先で拘束されている。犯人の目星はついていた。想像する通りなら少しすればその人物は現れるだろう。喚くでもなくじっとその時を待っていると、想像通りの人物が姿を現した。
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