うわっ!?と大二は振り返った。大二の驚き方に驚いたのか、相手は壁に鈍い音を立てて肘をぶつける。
「痛ッ」
「えっ、あっ大丈夫ですか!?ヒロミさん」
「っ……。ああ、大丈夫だ。おどろかせて、すまないな」
肘を抑えてかがんでいる様子があまり大丈夫では無さそうだ。上司にはこういうところがある。ほんとすみません、と言いながら大二は慌ただしく立ち上がり、ベンチを左端に詰める。
「座ってください」
もう一度すまないな、と言い、礼を重ねたヒロミが座る。肘に当てていた手をはずし、白いコートをさっと折り込んで綺麗に座る仕草。それを見て、大二はこのひとの復帰を改めて見た気がした。少し年齢を重ねた肌には淡いベージュの細かな跡が重なっていて、それは頬に傷が付くたび、一つ一つを治してきた証だった。
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