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    りぐ

    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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    imo_blgr

    DONEビリーが依頼人と喋ってるだけのビリ→グレ
    (ビリグレワンライ【恋の悩み】)
    マジック・アワー「ロニー・ビードルよ」
     きれいに切り揃えられた桜貝のような爪が、音もなく一枚の写真を差し出した。ご挨拶だな、とビリーは思う。ゴーグルの中で目を細めながら肩を竦めてみせる。こちとらまだ店に着いて席に座ったばかりだというのに、間髪入れず仕事の話ときた。無駄がないのは嫌いじゃないが。
     胸元がざっくり空いた漆黒のワンピースを纏った彼女は、どうやらビリーと視線を合わせてくれるつもりは無いらしい。小さな顔がすべて隠れてしまいそうなほどのサングラス。ビリーが言えた義理ではないが素顔を露わにしたくないのだろう。緩くウェーブがかった明るい茶髪を耳に掛け、それきり彼女は俯いた。
     ビリーは彼女を一瞥してから店内に視線だけを滑らせる。夕暮れのアンクルジムズダイナーは取引の穴場だ。ディナータイム前で客が疎らな時間帯、一番奥のボックス席に呼び出されたビリーを待ち受けたのは一人の女性と、テーブルの上で冷や汗をかいているブラックのアイスコーヒーだった。ニューミリオン随一の情報屋という肩書きだけが先走ったらしく、店に着いたビリーが席に座るなりその若さに彼女が僅かに驚いたような素振りを見せたのがほんの十秒前のこと。アンクルジムズダイナーならばチェリーサイダーかジンジャーエールが良かった。そんなことを宣える空気では無く、ビリーは仕方なくアイスコーヒーのストローに口をつけた。なにせ目の前の女性の口元が、上がった肩が、話の真剣さを物語っていたからだ。
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