長く一緒にいた影響　コトブキムラの牧場にいるポケモンは、すべてあの子が捕まえて来たポケモンらしい。
　ポケモンの数は日に日に増えていく。中には妖しく目を光らせた大きなポケモンーー人間の話だと、オヤブンと呼ばれるらしいーーもいる。

　コトブキムラは静かでとてものどかだ。私もここで暮らせないかな？

「ユラちゃーーん！！」

　息を切らしたあの子が今日も駆けて来る。名前を呼ばれた私は、笑顔で手を振って応じた。

　今日もあの子の土産話が楽しみだ。

(了)

花より団子というけれど。甘味に気を取られたのは仕方のないことだと言えば、言い訳になるだろうか。
焼き菓子とは違うやわらかな感触に我に返れば、目の前には驚愕を刷いた海色の瞳。
ごめんと詫びると同時に散る朱に釣られて、こちらも頬が熱くなる。ああ、でも。
触れたくちびるは、菓子と同じくらい、あまかったんだよなあ

不器用な世界　僕より先にパルデア地方のチャンピオンランクに君臨していた彼女だ。彼女を守れるように、なんていうのはおこがましい話だ。出来るなら、彼女に頼ってもらえるくらいには、強くなりたい。

ーーそうじゃないと。

「チャンピオンのネモには勝てなくて当然」、「ネモには負けて当たり前」。
　私がチャンピオンランクになってから、学園内にそういった風潮が出来た。
　ハルトと戦うのは、楽しい。
　ハルトは会う度、一戦一戦、着実に強くなる。初めてバトルしたあの日のように、ポケモンバトルそのものが楽しいって表情をして、ジムリーダー達と戦う。
　いいな。
　あの目を私のものにしたいな。
あの子の目に映るチャンピオンとしての私を、もっと魅力的にしたい。

怒るけど、嫌わないから大丈夫　ゲンガーのフードポンチョを身に纏い、右腕に小型バスケットを提げた子供が、パシオのポケモンセンターサロンにて、一節踊るように、踵でくるりとサカキの前で踊ってみせた。

「トリックオアトリート」

　サカキの目の前で踊りを舞うような子供の心当たりなど、息子であるシルバーや、このパシオで顔馴染みになったケイ、百歩譲ってリーフくらいの者だったが、意外なことにそれはレッドだった。サカキはその事に驚いて瞬きをしたものの、ああ、この子供も年相応にハロウィンという祭りに興じたりするのかと、どこか内心で安心をする自分もいる。

「存在事態がトリックでトリートな奴が言うのか？」

　が、それを悟られぬように、サカキは一つため息をついた。