もけけ
PAST厄災戦後。帰れなかった晶ちゃんが喫茶店を開いて、そこに入りびたる番猫の話。導入からん、と涼し気な音がなる。それを聞いたカウンターの内側の女性がにこりと微笑みを作った。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
中央の国の城下とは言えない外れのほう。郊外とまではいかないが人通りはいくらか落ち着いた通りにその店はある。通りに平行に設えられた階段を少し下ったところに入り口の扉があり、1階の窓が上の3分の1だけ地上に出ているような不思議な建物の1階がそれだ。
どうやら他に従業員もいないため店主であろう可愛らしい女性にお好きな席をどうぞ、と言われ、窓際の席へ。目の前に先ほど下った階段と、少し視線をあげれば通りを行きかう人の足だけが見える。
店内には他に数人客がおり、穴場の店なのかもしれないと思い至った。紅茶を注文しがてらそっと店内を見回した。テーブル席に若い女性が二人、カウンター席に高齢の品の良さそうな男性が一人。そして。
1351「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
中央の国の城下とは言えない外れのほう。郊外とまではいかないが人通りはいくらか落ち着いた通りにその店はある。通りに平行に設えられた階段を少し下ったところに入り口の扉があり、1階の窓が上の3分の1だけ地上に出ているような不思議な建物の1階がそれだ。
どうやら他に従業員もいないため店主であろう可愛らしい女性にお好きな席をどうぞ、と言われ、窓際の席へ。目の前に先ほど下った階段と、少し視線をあげれば通りを行きかう人の足だけが見える。
店内には他に数人客がおり、穴場の店なのかもしれないと思い至った。紅茶を注文しがてらそっと店内を見回した。テーブル席に若い女性が二人、カウンター席に高齢の品の良さそうな男性が一人。そして。
もけけ
PASTアンケートで書いた「壁に追い込む」 夜。自室のドアを開いた晶はハッとするように口元を手で抑えて固まった。少し迷うように視線をうろうろさせてぎゅ、と目を瞑り、よし、と小さく声を出して訪問者、ミスラを鋭く見据えた。鋭く、といっても晶の中で比較的、のレベルであり、ミスラにとっては誤差だった。
「なんです? 賢者様」
ほら全く響いていない。晶はめげそうになる心を叱咤して、ミスラを部屋に入れた。扉が閉まる。晶は失礼します、と丁寧に断りをいれてから、上の方にあるミスラの両肩を掴んだ。ぐ、と押す。
悲しくなるほど動かなかった。
「? どうしたんですか、さっきから。それより眠いんですけど」
「わ、わかってます!あの、ミスラ、1歩下がってもらえますか……」
1367「なんです? 賢者様」
ほら全く響いていない。晶はめげそうになる心を叱咤して、ミスラを部屋に入れた。扉が閉まる。晶は失礼します、と丁寧に断りをいれてから、上の方にあるミスラの両肩を掴んだ。ぐ、と押す。
悲しくなるほど動かなかった。
「? どうしたんですか、さっきから。それより眠いんですけど」
「わ、わかってます!あの、ミスラ、1歩下がってもらえますか……」
もけけ
PAST冬のミスあき。寒い日にかいた。早く寝かしつけてください、そういって私の手を取ったミスラはその瞬間弾かれたように手を離した。特に私には何も感じなかったがもしかして。
「? 静電気ですか?」
「ッ……そんなことよりあなた、……死んでるんですか?」
なかなか見ない焦った顔をしている。まるで、死んでほしくないみたいな、そういうふうに思ってしまう。
そう思っているうちにがし、と両肩を掴まれて胸にミスラの耳が当てられる。赤い髪が首に触れてくすぐったいし、胸がふにゅりと潰れる感触がしたが、本人はそれどころではなさそうだ。
「……うごいてますね……」
「生きてますよ。話してるし、動いてるじゃないですか」
「じゃあ手だけ死んでますよ」
すい、とミスラが私の手を掬い上げる。暖かい手だ。じんわりと温度が染み入る。ああなるほど。
495「? 静電気ですか?」
「ッ……そんなことよりあなた、……死んでるんですか?」
なかなか見ない焦った顔をしている。まるで、死んでほしくないみたいな、そういうふうに思ってしまう。
そう思っているうちにがし、と両肩を掴まれて胸にミスラの耳が当てられる。赤い髪が首に触れてくすぐったいし、胸がふにゅりと潰れる感触がしたが、本人はそれどころではなさそうだ。
「……うごいてますね……」
「生きてますよ。話してるし、動いてるじゃないですか」
「じゃあ手だけ死んでますよ」
すい、とミスラが私の手を掬い上げる。暖かい手だ。じんわりと温度が染み入る。ああなるほど。
もけけ
PAST元旦の書き初め(※現パロ)「遅いな、ミスラ……」
比較的アクセスの良い神社の初詣。人はこう、ものすごくいる。晶は石階段の下でぼんやりと空を見上げた。
赤い生地に蝶々の柄が刺繍してある綺麗な着物。親戚から譲ってもらったばかりのそれを着付けてもらうよう手配するのは手間で、細かい道具とかもわざわざ揃えて、それでもこの日を楽しみにしていた。あの人に綺麗だと思ってもらえるなら。
たくさんの人が晶の横を通り過ぎて階段を上がっていく。何人かは晶を示して何事か話しているようだ。スマホを見ても晶が少し前に送ったメッセージ以降、連絡はない。もう二十分はすぎている。
ため息を軽くついた時目の前に見覚えのない男がたった。
「ねえオネーサン、着物綺麗だね。誰か待ってるの? 来るまで俺と遊ばない?」
1956比較的アクセスの良い神社の初詣。人はこう、ものすごくいる。晶は石階段の下でぼんやりと空を見上げた。
赤い生地に蝶々の柄が刺繍してある綺麗な着物。親戚から譲ってもらったばかりのそれを着付けてもらうよう手配するのは手間で、細かい道具とかもわざわざ揃えて、それでもこの日を楽しみにしていた。あの人に綺麗だと思ってもらえるなら。
たくさんの人が晶の横を通り過ぎて階段を上がっていく。何人かは晶を示して何事か話しているようだ。スマホを見ても晶が少し前に送ったメッセージ以降、連絡はない。もう二十分はすぎている。
ため息を軽くついた時目の前に見覚えのない男がたった。
「ねえオネーサン、着物綺麗だね。誰か待ってるの? 来るまで俺と遊ばない?」
mh_nurumayu_yk
DONEこちらのオー晶♀小説→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18189559の晶ちゃん目線のおまけ小説。拝啓、冬のような貴方へ「……あ……」
目が覚めて視界に飛び込んだのは、白い天井だった。寝惚けた頭でそれが自分の部屋のものだと気付いたとき、ピピ、とスマートフォンのアラームがけたたましく鳴り響いた。
指先でうるさい音を消して、目を擦る。目元は涙でしとどに濡れていた。
夢を見ていた。
もう二度とは会えないヒトと会う夢だった。
不思議な感覚だった。夢の中で私は、自分が夢を見ているのを分かっていた。
分かっていたから、ずっと言えなかった想いを告げた。夢だから良いだろうと、そして夢の中でも彼はどんな反応をするのだろうと、そんな考えがあったから、告白の言葉が口をついて出た。
だってあれはまるで、夢でありながら夢ではないように、リアルだったから。
3782目が覚めて視界に飛び込んだのは、白い天井だった。寝惚けた頭でそれが自分の部屋のものだと気付いたとき、ピピ、とスマートフォンのアラームがけたたましく鳴り響いた。
指先でうるさい音を消して、目を擦る。目元は涙でしとどに濡れていた。
夢を見ていた。
もう二度とは会えないヒトと会う夢だった。
不思議な感覚だった。夢の中で私は、自分が夢を見ているのを分かっていた。
分かっていたから、ずっと言えなかった想いを告げた。夢だから良いだろうと、そして夢の中でも彼はどんな反応をするのだろうと、そんな考えがあったから、告白の言葉が口をついて出た。
だってあれはまるで、夢でありながら夢ではないように、リアルだったから。
やなぎ
CAN’T MAKE夜凪のネロ晶へのお題【被支配欲/気付くのが遅すぎた/あの子を手に入れろ!】#shindanmaker
https://shindanmaker.com/287899
「被支配欲」が9割 2
やなぎ
CAN’T MAKE夜凪のネロ晶へのお題【「はじめまして」をもう一度。/本当は、そんなこと微塵も思っちゃいないんだろう。/君を愛するのに、根拠なんて無い】#shindanmaker
https://shindanmaker.com/287899
何も練り込まずに書き始めたので、なんだこれは、的な出来上がり。 4
Tokuohayo
DONEネロ晶ちゃんの子ども妄想こんな未来があるといいな〜〜〜(頭抱えながら)
もしもふたりの間に子どもが生まれたなら、晶ちゃん似の女の子であれ。
〜以下イラストとは関係のないぼやき〜
ふと、晶ちゃんが元の世界に帰る予感がして動揺した時、心配そうに自分の顔を覗き込む娘を、母親と同じ仕草をする娘を見て大事な存在だと再認識してふたりを強く抱きしめて
近衛 無花果
DONEMerry Christmasなミス晶♀(非恋愛)窓からやってくるミスラサンタさんに触発されました
いつも通りの聖なる夜に がたり。窓が無遠慮に開き、肌を刺す冷たい風が部屋の中に雪崩れ込んだ。窓からの侵入者が顔を覗かせると部屋の中に積まれていたプレゼントの山も雪崩を起こして崩れていく。
「メリー……メリー、なんでしたっけ」
「メリークリスマスですよ。こんばんは、ミスラ」
「メリー、くりすます。賢者様」
真っ赤な衣服に身を包み、サンタになり切った--と本人が思っているだけの--ミスラは投げやりで舌足らずな挨拶を交わし、土足で晶の部屋に踏み入った。
嗚呼、と晶が嘆く。じとりと睨んで不満を露わにした。
ミスラは晶を見て、それから自分の足元を見て、それを何回か繰り返したのち、足に手を伸ばして靴を脱ぎ捨てた。それならばよしと晶は表情を緩めて、聖なる施しの魔法使いを歓迎した。
2098「メリー……メリー、なんでしたっけ」
「メリークリスマスですよ。こんばんは、ミスラ」
「メリー、くりすます。賢者様」
真っ赤な衣服に身を包み、サンタになり切った--と本人が思っているだけの--ミスラは投げやりで舌足らずな挨拶を交わし、土足で晶の部屋に踏み入った。
嗚呼、と晶が嘆く。じとりと睨んで不満を露わにした。
ミスラは晶を見て、それから自分の足元を見て、それを何回か繰り返したのち、足に手を伸ばして靴を脱ぎ捨てた。それならばよしと晶は表情を緩めて、聖なる施しの魔法使いを歓迎した。
m_seriina
DONE新作に続く、逆トリップオー晶シリーズever afterの4作目です。逆トリオンリー月エトで先行で公開しました。微修正してpixivに上げています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16434534
スタンプとても嬉しいので残します。ありがとうございます…!!
from Day 4 onwards, 平日は飛ぶように時間が過ぎた。正しく、約一年前の生活をやり直しているようだった。
前の事なんて覚えてるかな、と思っていたが杞憂で、完全に覚えている訳ではないが、仕事は一度やった事をやり直すためそこそこに捗った。同僚とのランチで聞いた愚痴やちょっとした浮いた話には、前よりいい返しをしてあげられた気がする。
ただし記憶通り繁忙期だったため、定時に帰ることはなかなか叶わず、仕事の合間や夕方にはオーエンを思い出してそわそわとした。
数日するとオーエンも生活リズムがわかったようだった。スペアキーと少しのお小遣いを渡して、最低限の生活の常識を伝えた上で、自由に過ごしてもらうようにした。魔法が使えないので、そうそう間違いも起こらないと思いたい。
5918前の事なんて覚えてるかな、と思っていたが杞憂で、完全に覚えている訳ではないが、仕事は一度やった事をやり直すためそこそこに捗った。同僚とのランチで聞いた愚痴やちょっとした浮いた話には、前よりいい返しをしてあげられた気がする。
ただし記憶通り繁忙期だったため、定時に帰ることはなかなか叶わず、仕事の合間や夕方にはオーエンを思い出してそわそわとした。
数日するとオーエンも生活リズムがわかったようだった。スペアキーと少しのお小遣いを渡して、最低限の生活の常識を伝えた上で、自由に過ごしてもらうようにした。魔法が使えないので、そうそう間違いも起こらないと思いたい。
nayutanl
REHABILI大分前に書きかけにしてたファウ晶♀をリハビリがてらサルベージした。まだ微妙な距離の遠さ。心は開きかけ。カプ表現ほとんどなし。
最後の方のファウストの台詞は、ある劇作家の言葉です。これを言って欲しいがために書いた話
境界はグレー何だか分からないけどすごく眠いときと同じように、何だか分からないけど全然眠れなくなることがある。たぶん、理由はちょっとしたことなんだろうけど、同じようなことをして過ごしてもまちまちだから、特定ができない。
だから、眠れないときはいつも理由探しをする。探して、見つからなくて寝ようと目を閉じて、全然眠れる気配がしなくてまた目を開ける。そうしている内に眠れたり眠れなかったりするけれど今夜は眠れない日だったみたいで、私は何度目かの失敗を認めた後起き上がってベッドから降りた。そうして手近な羽織ものを掴んで肩に引っかけて部屋を出る。そっと、できるだけ音を立てないように気を付けたつもりだったけど、やっぱり無音でというわけにはいかなくて、静かな廊下にドアノブを動かす音が大きく聞こえたような気がしたけど、それを聞かなかったことにして私はさっさと歩き始めた。
2307だから、眠れないときはいつも理由探しをする。探して、見つからなくて寝ようと目を閉じて、全然眠れる気配がしなくてまた目を開ける。そうしている内に眠れたり眠れなかったりするけれど今夜は眠れない日だったみたいで、私は何度目かの失敗を認めた後起き上がってベッドから降りた。そうして手近な羽織ものを掴んで肩に引っかけて部屋を出る。そっと、できるだけ音を立てないように気を付けたつもりだったけど、やっぱり無音でというわけにはいかなくて、静かな廊下にドアノブを動かす音が大きく聞こえたような気がしたけど、それを聞かなかったことにして私はさっさと歩き始めた。
nayutanl
REHABILIまほ晶♀リハビリに書いたルチ晶♀タイトルはマーシュマロウのマーシュ、花言葉は『恵み』『優しさ』
ルチルにはそっとしておく優しさも、思いきって声をかける根性もあるんじゃないかって。そして彼自身彼の世界を持っていて…じゃないとあのような絵は描けないと思う
マーシュ広い魔法舎でも、そこに暮らす魔法使いは二十一人もいて、少し歩き回れば誰かに会うのは簡単だ。ひとつ屋根のしたにいて、共同生活を送っているのだから当たり前のことかもしれないけど、その中で自分は少しひとの様子に気を配ることが美徳と思い込みすぎていたのかもしれない。
私は、自室のベッドの上で無為に時間を過ごしていた。
自分自身に対する慢心のツケがきていることにうっかり気づいたときの気持ちというのは、知らない間に作った小さな傷に気づいてようやく痛みだすそれに似ている気がする。
ひとの世話ばかりしようとして、自分の世話がまったくできていない。誰かにしてもらうのとは違う、自分の手でするべきことを疎かにしていた―とひとりになってみて少なからず軽くなった心に思う。
3143私は、自室のベッドの上で無為に時間を過ごしていた。
自分自身に対する慢心のツケがきていることにうっかり気づいたときの気持ちというのは、知らない間に作った小さな傷に気づいてようやく痛みだすそれに似ている気がする。
ひとの世話ばかりしようとして、自分の世話がまったくできていない。誰かにしてもらうのとは違う、自分の手でするべきことを疎かにしていた―とひとりになってみて少なからず軽くなった心に思う。