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DOODLE2024.12.1新刊の表紙と登場人物紹介――高校卒業式翌日、北さんは失踪した。
五年越しの再会を果たした侑がひたすら暴走して、治も暴走して、角名の倫理観がぶっ壊れてるシリアス風味のエロ本です。
最後は侑北で着地します。そして北さんの初恋は宮侑(重要)
東3ホール レ05b 「アイポ」で参加しています。
イラストはハコさんです! 3
warabi_hq
MAIKING途中書きのどんきつねさん的なきたさん。まだようやく両片想いになったくらいの段階。
治はこの頃お店の2階に住んでいます。
小さなキッチンに見合わない大きな冷蔵庫を置いていて、部屋は和室なのでテーブルじゃなくちゃぶ台で食事。
お店が軌道に乗ってきて、時間的にも金銭的にも余裕ができてきたらもうちょっと広い近所のマンションに引っ越します。
白狐宮治にとって『飯を食う』という行為は、人生の中で1番の幸福な時間であった。ところがこの数日、落ち着いてその至福の時間を過ごせていない。
おにぎり宮の営業を終え、一人暮らしにしては立派な冷蔵庫のある部屋に戻り、一日頑張った自分のために拵えた夕飯の並んだちゃぶ台の向こうに、ちょこんと正座する想い人、北信介の姿があった。いつもと変わらない服装のそのひとには、本来あるはずのない、狐のものと思われる真っ白いふわふわの尻尾と、頭の上にはツンと立ち上がった同じく白くふわふわの三角形の耳が存在していた。彼は治が食事を摂る間、きちんと正座をしたまま、じっとその様子を見守っている。
これが、治がここ最近落ち着いて至福の時を過ごせていない大きな理由だった。そもそも実家で農業を営んでいる彼が、こんな時間に街中の治の部屋にいるはずがないのである。
3286おにぎり宮の営業を終え、一人暮らしにしては立派な冷蔵庫のある部屋に戻り、一日頑張った自分のために拵えた夕飯の並んだちゃぶ台の向こうに、ちょこんと正座する想い人、北信介の姿があった。いつもと変わらない服装のそのひとには、本来あるはずのない、狐のものと思われる真っ白いふわふわの尻尾と、頭の上にはツンと立ち上がった同じく白くふわふわの三角形の耳が存在していた。彼は治が食事を摂る間、きちんと正座をしたまま、じっとその様子を見守っている。
これが、治がここ最近落ち着いて至福の時を過ごせていない大きな理由だった。そもそも実家で農業を営んでいる彼が、こんな時間に街中の治の部屋にいるはずがないのである。
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MOURNINGおにぎり屋さんでのないしょのひとコマあるよる「北さん、順番につくりますんで、もうちょっと待っとってくださいね。はいこれ、いちばん美味しいとこ」
おにぎり宮。
治はひっきりなしに入る注文を切り盛りしながら、焼きたてのだし巻き玉子や、炙ったたらこ、漬物などの端っこを綺麗に盛り合わせた小皿を信介に差し出した。
「ありがとう。よう繁盛しとるやんか」
「ありがたいことです」
「こんな忙しい時に寄ってもうて、すまんな」
「いえいえ、いつでも気にせんと、どんどん寄ってくださいよ」
「俺のことは気にせんでええよ。メシ食うたら帰るから」
半分ほどになっていた信介のグラスに冷たい麦茶を注いだところで、若いスタッフによってほくほくと湯気を立てるお櫃が運ばれてきた。
カタン
手早く、そして丁寧に。櫃にしゃもじがもどされる心地よい音に信介は聞き耳を立てた。
1394おにぎり宮。
治はひっきりなしに入る注文を切り盛りしながら、焼きたてのだし巻き玉子や、炙ったたらこ、漬物などの端っこを綺麗に盛り合わせた小皿を信介に差し出した。
「ありがとう。よう繁盛しとるやんか」
「ありがたいことです」
「こんな忙しい時に寄ってもうて、すまんな」
「いえいえ、いつでも気にせんと、どんどん寄ってくださいよ」
「俺のことは気にせんでええよ。メシ食うたら帰るから」
半分ほどになっていた信介のグラスに冷たい麦茶を注いだところで、若いスタッフによってほくほくと湯気を立てるお櫃が運ばれてきた。
カタン
手早く、そして丁寧に。櫃にしゃもじがもどされる心地よい音に信介は聞き耳を立てた。
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MOURNING天使とちみきたさんのハイブリッド書きたいところだけ
天使のたまご宮治は昨夜、『人を拾う』という、人生になかなかない経験をした。しかも背中に大きな翼のある人間だ。
最近彼は調理師学校に通う傍ら、修行のつもりで入った居酒屋のバイトで突如ホールに出されることになり、いっそ辞めようかと迷っていた。
バイトを始めて2年。決して仕事が出来ないわけではないと自負している。居酒屋にありがちな雑多なメニューは全てマスターしたし、どこかの高級料亭から流れてきたと噂の寡黙で頑固な板長に叩き込まれた包丁捌きは、宴会のお造りを任されるほどになっていた。
ただ、雇われ店長から接客の方が向いているなどと煽てられ、頼み込まれて断りきれなかったのだ。
最近、マナーの悪いサラリーマン客が増えてきて、女子学生は残らず辞めて行き、ホールスタッフが足りていないのは明らかだったし、ホールに学生バイトしかいないような居酒屋で、ひときわ体格の良い自分に楯突く客がいなかったのもある。
5042最近彼は調理師学校に通う傍ら、修行のつもりで入った居酒屋のバイトで突如ホールに出されることになり、いっそ辞めようかと迷っていた。
バイトを始めて2年。決して仕事が出来ないわけではないと自負している。居酒屋にありがちな雑多なメニューは全てマスターしたし、どこかの高級料亭から流れてきたと噂の寡黙で頑固な板長に叩き込まれた包丁捌きは、宴会のお造りを任されるほどになっていた。
ただ、雇われ店長から接客の方が向いているなどと煽てられ、頼み込まれて断りきれなかったのだ。
最近、マナーの悪いサラリーマン客が増えてきて、女子学生は残らず辞めて行き、ホールスタッフが足りていないのは明らかだったし、ホールに学生バイトしかいないような居酒屋で、ひときわ体格の良い自分に楯突く客がいなかったのもある。
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DOODLE付き合いはじめてすぐくらいのいちゃいちゃあめ沛然と軽トラックの天井を打つ雨の響き。
ガラスの向こうの景色はひっきりなしに打ちつける雨粒でぼんやりとした抽象画のようになっていた。
なんとなく流していたラジオの声もかき消され、この狭い空間に二人、取り残されてしまったようだ。
忙しなく動くワイパーの動きも追いつかず、仕方なく治は路肩に車を寄せ、ハザードのボタンを押した。
助手席で心配そうにフロントガラスいっぱいの抽象画を眺めていた北信介もその判断に賛成らしく、一旦シートベルトを外すと、ゴソゴソと作業着のポケットを探りはじめた。
「この様子ならすぐに止むやろ。飴ちゃん、食うか」
「いただきます」
出てきたのは熱中症対策であろう、真新しい塩飴。
(相変わらずちゃんとしてはんのやな)
953ガラスの向こうの景色はひっきりなしに打ちつける雨粒でぼんやりとした抽象画のようになっていた。
なんとなく流していたラジオの声もかき消され、この狭い空間に二人、取り残されてしまったようだ。
忙しなく動くワイパーの動きも追いつかず、仕方なく治は路肩に車を寄せ、ハザードのボタンを押した。
助手席で心配そうにフロントガラスいっぱいの抽象画を眺めていた北信介もその判断に賛成らしく、一旦シートベルトを外すと、ゴソゴソと作業着のポケットを探りはじめた。
「この様子ならすぐに止むやろ。飴ちゃん、食うか」
「いただきます」
出てきたのは熱中症対策であろう、真新しい塩飴。
(相変わらずちゃんとしてはんのやな)
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MOURNING双子が進路について喧嘩するタイミングが、北さん卒業後の三年の時だと勘違いしていて、
時系列が合わなくなってしまいました。。
北さん在校中は治の進路についてまだ決まってなかった場合のifの話として読んでいただけたらとおもいます。。
はー、やらかした。
天気雨稲荷崎高校バレー部三年生の引退の日、晴れ渡った青空に、キラキラと小雨がパラついた。
「はは、狐の嫁入りや。誰やろな」
体育館で三年生の最後の挨拶を終え、校門の前で卒業生、在校生、入り乱れて記念撮影をした後、北信介は後輩の宮治を学校の裏山にある小さな社に連れ出した。
山肌に沿って長く連なる赤い鳥居をくぐり、呑気に笑う信介のすぐ後ろを歩きながら、治はなぜ今自分がこんなところに呼び出されたのか、緊張を隠しきれずガチガチになっていた。
どれくらい登って来たのか、眼下には稲荷崎高校のある街の、さらにその先には、信介の実家のあるあたり、広大な緑の景色が広がっている。
「治、何も憶えてないんか?」
「何がですか?」
「ほうか。まぁええわ」
2822「はは、狐の嫁入りや。誰やろな」
体育館で三年生の最後の挨拶を終え、校門の前で卒業生、在校生、入り乱れて記念撮影をした後、北信介は後輩の宮治を学校の裏山にある小さな社に連れ出した。
山肌に沿って長く連なる赤い鳥居をくぐり、呑気に笑う信介のすぐ後ろを歩きながら、治はなぜ今自分がこんなところに呼び出されたのか、緊張を隠しきれずガチガチになっていた。
どれくらい登って来たのか、眼下には稲荷崎高校のある街の、さらにその先には、信介の実家のあるあたり、広大な緑の景色が広がっている。
「治、何も憶えてないんか?」
「何がですか?」
「ほうか。まぁええわ」
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TRAINING🍙の気持ちが、双子から離れて🌾さんに寄っていく過程はどんな感じだったんだろう?という妄想。二人もう付き合ってます。
大人になって二人とも実家を出た前提で、何かの用事で帰ってきてるときの二人の会話。
兄弟喧嘩「なぁ、ツム」
「なんや、サム」
「北さん、今頃何してはんのやろな」
「…………」
治の問いかけへの侑の返答はなく、雑誌をめくる音だけが静かに響いた。
高校を卒業し、双子が二人とも実家を出た今も、実家に顔を出せば部屋にはあの頃と同じ2段ベッドが待っていた。双子が成長したからと言って、家の間取りが変わるわけではない。
「なぁ、ツム」
「なにて」
「北さ「もうわかったわ!!!」」
声と同時に上段に横になっていた侑の腰のあたりの床板が、急に盛り上がり始めた。二枚に分かれた床板の継ぎ目の部分を下段の治が器用に両足を使って押し上げているのだ。
「こらこらこらこら!やめえや!!」
侑が地元を離れて数年。いつの間にか、北さんこと北信介と双子の片割れ治が良い仲になっていた。いつの間にか、と言っても全く心当たりがないわけではない。おにぎり宮を開業するにあたって、いろいろと相談を聞いてもらっている様子だったし、おにぎりに北さんの育てたお米を使わせてもらうことはもちろん、稲刈りの手伝いや、田植え、野菜の収穫、最近では北さんのおばあちゃんのゆみえさんに店を手伝ってもらっていることすらあった。
1835「なんや、サム」
「北さん、今頃何してはんのやろな」
「…………」
治の問いかけへの侑の返答はなく、雑誌をめくる音だけが静かに響いた。
高校を卒業し、双子が二人とも実家を出た今も、実家に顔を出せば部屋にはあの頃と同じ2段ベッドが待っていた。双子が成長したからと言って、家の間取りが変わるわけではない。
「なぁ、ツム」
「なにて」
「北さ「もうわかったわ!!!」」
声と同時に上段に横になっていた侑の腰のあたりの床板が、急に盛り上がり始めた。二枚に分かれた床板の継ぎ目の部分を下段の治が器用に両足を使って押し上げているのだ。
「こらこらこらこら!やめえや!!」
侑が地元を離れて数年。いつの間にか、北さんこと北信介と双子の片割れ治が良い仲になっていた。いつの間にか、と言っても全く心当たりがないわけではない。おにぎり宮を開業するにあたって、いろいろと相談を聞いてもらっている様子だったし、おにぎりに北さんの育てたお米を使わせてもらうことはもちろん、稲刈りの手伝いや、田植え、野菜の収穫、最近では北さんのおばあちゃんのゆみえさんに店を手伝ってもらっていることすらあった。
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TRAININGちょっとした喧嘩未遂からの仲直り嫉妬その日、北信介は、おにぎり宮の2階、宮治の居室の台所で絶望していた。
つい先日、祖母に分けてもらった上等のクリームクレンザーで、この部屋にあるいくつかの鍋の、ちょうど半分をピカピカに磨き上げた後のことだった。
「残りはまた今度」
そう言って帰宅し、そして今日がその「また今度」だった。
日々使い込まれ、焦げ付いて茶色くなった鍋を綺麗に磨き上げる作業は、この上なく心地よい時間だった。今日という日を楽しみにしていたと言っても過言ではない。
ところが。
「なあ、治。鍋、傷だらけやんか」
不器用にところどころまだらに残った汚れと擦り傷で、鍋は見るも無惨な姿になっていた。
「………はい。すんません」
背後から、この部屋の主のしょぼくれた声が響く。高身長なはずの彼にしてはかなり下の位置からだった。たぶん自主的に正座をしているのだろう。
1523つい先日、祖母に分けてもらった上等のクリームクレンザーで、この部屋にあるいくつかの鍋の、ちょうど半分をピカピカに磨き上げた後のことだった。
「残りはまた今度」
そう言って帰宅し、そして今日がその「また今度」だった。
日々使い込まれ、焦げ付いて茶色くなった鍋を綺麗に磨き上げる作業は、この上なく心地よい時間だった。今日という日を楽しみにしていたと言っても過言ではない。
ところが。
「なあ、治。鍋、傷だらけやんか」
不器用にところどころまだらに残った汚れと擦り傷で、鍋は見るも無惨な姿になっていた。
「………はい。すんません」
背後から、この部屋の主のしょぼくれた声が響く。高身長なはずの彼にしてはかなり下の位置からだった。たぶん自主的に正座をしているのだろう。
yummy_gamgam
DONE治北Webオンリー開催おめでとうございます!ほんとは新刊間に合わせたかったのですが色々無理だったので準備号として小話アップします😂新刊はぽん酢さんとの合同誌の予定です。完成したらどこかのイベントで頒布予定です! 5
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ArtSummary2022お試し開催したワンドロワンライにて「年末」をテーマに書いたお話を少し直しました。二人は「家族になる」ではなく「家族になっていた」というのが似合うなと思います。
今年も一年ありがとうございました!
好きなものを好きな時にしか書けない私ですが、読んでくださり、そしてブクマなどしてくださる皆さまのおかげで楽しく創作ができました!
来年も皆様が推しを満喫できますように✨
良いお年をお過ごしください!
家族【治北】「……え?」
視界が薄暗い。おかしいと思い寝ぼけた目を開くとやはりそこは物の輪郭がぼんやりとするほど暗く、北の記憶にあるさっきまでの自室の明るさがどこにもなかった。少し横になる、と布団に潜ってからだいぶ時間が経過したことが伺えた。
「あかん」
すっかり寝坊をしてしまった。
今のうちにと今日の今日まで農業機械の手入れや倉庫の整理、今後やってみたい農法や作ってみたい野菜のことを調べていると、大晦日とはいえいつもと変わらない忙しさで動いていた。そんな北を見た祖母や治から、夕食の支度はしておくから夜更かしに備えて少し休んだら、と提案を受け、台所に立ってもあまり役に立たない自覚があるため二人に甘えて二階の自室に下がった。ひんやりとした布団に体をもぐらせても大して眠気は来ないだろうと思っていたが、どうだろう、自分で思っているよりも疲労していたのかもしれない。
3435視界が薄暗い。おかしいと思い寝ぼけた目を開くとやはりそこは物の輪郭がぼんやりとするほど暗く、北の記憶にあるさっきまでの自室の明るさがどこにもなかった。少し横になる、と布団に潜ってからだいぶ時間が経過したことが伺えた。
「あかん」
すっかり寝坊をしてしまった。
今のうちにと今日の今日まで農業機械の手入れや倉庫の整理、今後やってみたい農法や作ってみたい野菜のことを調べていると、大晦日とはいえいつもと変わらない忙しさで動いていた。そんな北を見た祖母や治から、夕食の支度はしておくから夜更かしに備えて少し休んだら、と提案を受け、台所に立ってもあまり役に立たない自覚があるため二人に甘えて二階の自室に下がった。ひんやりとした布団に体をもぐらせても大して眠気は来ないだろうと思っていたが、どうだろう、自分で思っているよりも疲労していたのかもしれない。
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DONE心の実る処③こちらで最後です。
心の実る処③「おっ、信介」
「……アラン」
桜が散り始め少しずつ朝晩の気温も上がってきた頃、人間たちが種蒔きを始めた。土から芽がおよそ一斉に出るまであっという間で、昔よりかなり多くの芽が出るので、人間の技術の進化はすごいものだと思う。発芽や出芽が好調だとか思わしくないだとか、その年毎の異なる状況を報告していた頃が懐かしい。
ここまで順調であることを黒須に報告しようと社の奥へ向かうとこちらへ向かってくるアランと会った。
「久しぶりやん……何、元気ないやん」
「そうでもないで」
嘘はついてない。特に元気がないということはない。
「……そう? ならええけど」
「……あ、誕生日か。おめでとう」
社の奥への用事は祈祷か黒須への報告かのどちらかであることが多く、アランが奥から出てきたということはこの時期では報告だろうと思い至り、そして友の記念日を思い出した。
12877「……アラン」
桜が散り始め少しずつ朝晩の気温も上がってきた頃、人間たちが種蒔きを始めた。土から芽がおよそ一斉に出るまであっという間で、昔よりかなり多くの芽が出るので、人間の技術の進化はすごいものだと思う。発芽や出芽が好調だとか思わしくないだとか、その年毎の異なる状況を報告していた頃が懐かしい。
ここまで順調であることを黒須に報告しようと社の奥へ向かうとこちらへ向かってくるアランと会った。
「久しぶりやん……何、元気ないやん」
「そうでもないで」
嘘はついてない。特に元気がないということはない。
「……そう? ならええけど」
「……あ、誕生日か。おめでとう」
社の奥への用事は祈祷か黒須への報告かのどちらかであることが多く、アランが奥から出てきたということはこの時期では報告だろうと思い至り、そして友の記念日を思い出した。
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DONE心の実る処【治北】②です。続きはこちら③→
https://poipiku.com/1909016/7832042.html
心の実る処【治北】②「アラン、おはよう」
「路成やん。おはよう」
「なぁ、信介見んかった?」
「それ、俺も練に聞いたんやけど。見てへんなぁ」
ここ二週間ほど彼の姿を見なかった。いや、全く見なかった訳ではない。廊下の向こうを歩いている姿や鳥居を潜る姿は幾度か見たものの、挨拶ができるほど近いところにはいずれもいなかった。
「なんや最近忙しそうなやぁ」
「田んぼ手伝っとるらしいで。あ、今は畑やったかな。稲荷崎の」
「へ? ほんまかそれ」
アランは驚いた。
「おん。本人から聞いた」
「なんでやろ」
「ちゃんと知りたいんやって。学び直すんやって言うとった」
「いや、豊穣の神さんに仕える狐が、今更何言うてんの」
一番最近会った時、信介はいつもと変わらない様子だった。あの友のことだ。忙しくしても、仕事と同じように寝食は怠らず日々を過ごしているのだろう。元気ならそれでいい。それでいいのだが。
7764「路成やん。おはよう」
「なぁ、信介見んかった?」
「それ、俺も練に聞いたんやけど。見てへんなぁ」
ここ二週間ほど彼の姿を見なかった。いや、全く見なかった訳ではない。廊下の向こうを歩いている姿や鳥居を潜る姿は幾度か見たものの、挨拶ができるほど近いところにはいずれもいなかった。
「なんや最近忙しそうなやぁ」
「田んぼ手伝っとるらしいで。あ、今は畑やったかな。稲荷崎の」
「へ? ほんまかそれ」
アランは驚いた。
「おん。本人から聞いた」
「なんでやろ」
「ちゃんと知りたいんやって。学び直すんやって言うとった」
「いや、豊穣の神さんに仕える狐が、今更何言うてんの」
一番最近会った時、信介はいつもと変わらない様子だった。あの友のことだ。忙しくしても、仕事と同じように寝食は怠らず日々を過ごしているのだろう。元気ならそれでいい。それでいいのだが。
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DONE神さんにお仕えしてる狐北さんの片想いのお話です(治←狐北さん)北さんの切ない顔が見たくて書きました。治北の日に向けて書いたのですが、間に合わず…でも無事に11月中に完成しました!
長いためぽいぴくでは3つに投稿を分けています。
力尽きて推敲はざっくりなので少しずつ直していくかもです。
続きはこちら②→
https://poipiku.com/1909016/7832007.html
心の実る処【治北】① 散々ためらった末に信介は漸く戸のくぼみに指をかけた。途端、炊けた米と出汁の温かい香りが一気に胸を満たした。
「いらっしゃいませ!」
店内から威勢の良い太い声が響いた。
「お客さん、店内ですか、お持ち帰りですか?」
「えっと……」
カウンターの向こうから帽子を被った男が同じ声量で聞いてきた。まさか選択肢があるとは知らなかった。店内を見ると座敷の席に家族だろうか、一組座っていて、数席のみのカウンター席には一人掛けていた。
店員を見るとにこにこと笑ってこちらの返事を待っていた。
「そこの席、空いてますか?」
カウンターの角の席を指差すと、どうぞ、と男が着席を促した。座ってから改めて店内を見渡すと、カウンターもテーブルも深い飴色になった木材で床は石のような硬い材質でよく磨かれているのがわかった。
10744「いらっしゃいませ!」
店内から威勢の良い太い声が響いた。
「お客さん、店内ですか、お持ち帰りですか?」
「えっと……」
カウンターの向こうから帽子を被った男が同じ声量で聞いてきた。まさか選択肢があるとは知らなかった。店内を見ると座敷の席に家族だろうか、一組座っていて、数席のみのカウンター席には一人掛けていた。
店員を見るとにこにこと笑ってこちらの返事を待っていた。
「そこの席、空いてますか?」
カウンターの角の席を指差すと、どうぞ、と男が着席を促した。座ってから改めて店内を見渡すと、カウンターもテーブルも深い飴色になった木材で床は石のような硬い材質でよく磨かれているのがわかった。
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DONE2022年8月28日(日)GOOD COMIC CITY 28内RTS!! 36にて頒布しました無配SSです。良い歳になった二人の短いお話。
SSまとめ本「雨宿りに君を想う」内のお話のとある一文と僅かにリンクしています。(本当に極々微量)
お迎えくださった方は探してみてください😌
喧嘩をするほど【治北】(RTS36頒布 無配SS) 喧嘩をするほど仲が良い、は結局分からず仕舞だ。
俺が信介さんに怒られて喧嘩にすらならないだろうと思っていたのは若い頃のほんの短い間だけで、案外信介さんは頑固でムキになる。年々それは増してきたように思うけど、自分の意見が強引だと気づくとすぐに訂正して謝る柔軟さも年を重ねるごとに増していったと思う。だから結局、喧嘩になることは少ない。
これからたくさんある二人の時間をどうしようか、と話をして、やりたいことがいっぱいあったはずなのにどちらも思い出せず、なんだったっけと笑ってしまった。お互い仕事と日常が切り離せない仕事だったから、こういう日々を楽しみにしていたのに。
とは言え、一応二人ともまだ現役ではある。俺は店に立つ日数を減らして、信介さんも田んぼをやる時間を短くした。どちらも、もう自分でないと、という仕事の仕方ではなくなっただけだ。
2642俺が信介さんに怒られて喧嘩にすらならないだろうと思っていたのは若い頃のほんの短い間だけで、案外信介さんは頑固でムキになる。年々それは増してきたように思うけど、自分の意見が強引だと気づくとすぐに訂正して謝る柔軟さも年を重ねるごとに増していったと思う。だから結局、喧嘩になることは少ない。
これからたくさんある二人の時間をどうしようか、と話をして、やりたいことがいっぱいあったはずなのにどちらも思い出せず、なんだったっけと笑ってしまった。お互い仕事と日常が切り離せない仕事だったから、こういう日々を楽しみにしていたのに。
とは言え、一応二人ともまだ現役ではある。俺は店に立つ日数を減らして、信介さんも田んぼをやる時間を短くした。どちらも、もう自分でないと、という仕事の仕方ではなくなっただけだ。
ryohakushadono
DONEようこそ "Club Chanto"へ8/21はバニーデーとなっております。
バニーコスチュームを身にまとったキャストと最高の時間をお過ごしください。
キャストのアフターの様子も覗けるかも・・・。
※ねん写真です。
※治北がコスプレしています。
※侑も出てきます。
ひさしさんとバニー祭!!
Club Chantoのプレートはひさしさん作です。
楽しい時間をありがとうございます💓 12
takikomi_maze2
INFO2022年8月28日(日)GOOD COMIC CITY 28内RTS!! 36スペース番号:南4ホール ヤ24b
にて頒布予定です。
A6/P.224/R18 SS再録12編+書き下ろし2編
間に合えば、良い年になった二人のお話と、しおりの無配があるかもしれません…
※イベント後に行う予定の通販では価格が異なる可能性がございます。
【新刊サンプル RTS36】雨宿りに君を想う(治北)これまで書いたSSの中で特に気に入りの12編を加筆修正し、
書き下ろし2編(はじめてのチューのお話、片思いを自覚した北さんのお話)をまとめました。
全て独立したお話ですが、作品順はおおよそ片思い〜付き合っている二人の順番で並んでいます。
R18ですが、描写は少ないです。
※サンプル内に成人向け表現ありません。
-----
目次
CHEяRY(書き下ろし)
春、告げる
酸っぱくて辛くて、甘い
夏の確信
This is my first kiss.(書き下ろし)
ひらひら
風邪をひいた治くん
秘密
ちゃんと
騎乗
なんかダメな日
巡る
美しいもの
雨宿りに君を想う
-----
CHEяRY(書き下ろし)
「お疲れ様。明日、納品行くな」
今は営業時間だから返信は夜遅くに来るだろうと思って、メッセージを送った後北はスマホを自室の机に置いて風呂場に向かった。
3718書き下ろし2編(はじめてのチューのお話、片思いを自覚した北さんのお話)をまとめました。
全て独立したお話ですが、作品順はおおよそ片思い〜付き合っている二人の順番で並んでいます。
R18ですが、描写は少ないです。
※サンプル内に成人向け表現ありません。
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目次
CHEяRY(書き下ろし)
春、告げる
酸っぱくて辛くて、甘い
夏の確信
This is my first kiss.(書き下ろし)
ひらひら
風邪をひいた治くん
秘密
ちゃんと
騎乗
なんかダメな日
巡る
美しいもの
雨宿りに君を想う
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CHEяRY(書き下ろし)
「お疲れ様。明日、納品行くな」
今は営業時間だから返信は夜遅くに来るだろうと思って、メッセージを送った後北はスマホを自室の机に置いて風呂場に向かった。