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    oaaaaae

    @oaaaaae

    D4、有馬くんに狂った女の末路。
    小説はpixivのが読みやすい。あとはTwitterに落としたメモを自分の備忘録として置いています。

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    彼らの日常。彼ららしいシゴトの描写がありますので注意。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22297796

    #毎月4日はD4の日

    雨と日常「あ、雨」

     手元で操作していたスマートフォンに雨粒がぽつりと落ちる。ちょうど指先が進む方向に降り注いだらしく、反応が間に合わず指先にまとわりつく水分のせいで画面が拡大される。天を仰ぐと太陽はまだ煌々と光り輝いており、気まぐれに現れた雨雲が些細な雨を降らせているだけのようであった。
     阿久根は濡れた液晶画面を雑に服の袖で拭うと、再度画面へ目を向ける。緩やかではあるが強くなりつつある雨脚に、早々に連絡を終えてしまいたかった。市場には出回っていない特殊回線を使用するアプリを立ち上げ、いくつか並ぶリストを指先でスクロールして目当てのものを探す。

    「う、ぐ…」
    「…あれ、まだ息があったんですか。しぶといですねぇ」

     雨粒が地面へ落ちる音へ混じって、同じく足元から呻き声が聞こえる。聞こえるも何も、壁にもたれ片足をその声の主へ置いているのだから、発させているのは阿久根本人と言っても過言ではなかった。無様に地面に這い蹲い、その設えから高級なスーツであった、…はずの衣服は、泥と血に塗れていた。歳は還暦を迎えた頃合いだが、男のわりによく手入れされていたであろう肌も痣や瘤で埋め尽くされている。
     踏み付けていた肩から足を下ろす動作の途中、躊躇いもなく頭部を蹴り上げ、揃えた両足でしゃがみ込み、見下す。まるで道端の蟻を観察するように、さして興味もなさそうに、瞳を細めて笑む。

    「本来僕はこういう要員ではないんですよ。今日に限って人員が足りなくて…、時空院さんなら上手くやってくれたんでしょうけど。痛くても恨まないでくださいね」

     ゴキ。鈍い音とともに、怯え切っていた男から生命の灯が消える。両手を頭部へ添えて一捻り、慣れた手付きで頸椎を折る。悲鳴を発する間もなくこと切れた命は、雨粒を享受するだけの存在となった。
     まるで花を手折っただけかのように、汚れた両手を払い、腹部へ抱えていた端末を取り出し、「complete」のボタンをタップする。雨脚はだいぶ強くなっている。濡れて重量を増した帽子を取り、水分を振り払う。太陽は未だ煌々と照り、雨雲もなんのそのと行く道を照らしている。その太陽から逃れるように、阿久根は路地の奥へと歩を進める。

    ////

    「おや、雨ですか」

     人ごみの中を歩いているさなか、手の甲が濡れた感覚に降雨を知る。おそらく今後浴びる赤を流すにはちょうどよく、己の悪運の強さに時空院は口元へ綺麗な弧を描いて笑む。本来暗躍するのは字の如く夜であるはずなのだが、たまに今日のように日中が実行日になることがある。とはいえ、そこに拘りはなく、自分なりの美学をもってシゴトに臨むことができればよかった。

     乾いていたアスファルトにぽつぽつと円が染みを作っていく。急な通り雨だったのか、周囲の人間は傘をさす者、軒下に駆け込む者、この程度ならと足早に歩く者、さまざまであった。背も高くその風貌から目立ちやすいはずの時空院は、極端に足音を消すわけでなく、あくまで人ごみに紛れる音、速度、歩き方で、その場に馴染んで静かにターゲットへ近づく。目的の男は用意周到に折り畳み傘を用意していたのか、雨から逃れて悠々と歩いている。これもまた運がいい。片手がふさがり、視界も狭まる。信号待ちで横断歩道前に滞留する人影を縫うようにして近づき、手にしていたナイフを翳して首へ一閃滑らせる。切れ味の鋭い刃は痛みを伴うこともなく、散る鮮血も傘の影へと隠れる。

    「なんとも容易い…。伊吹なら片手で済んでいたでしょうね」

     歩みを止めないまま、挨拶替わりに息の根を止めてその横を通りすぎる。背後ではドサリと何かが倒れる音、それに気付いて悲鳴を上げる者、阿鼻叫喚の絵図が広がっているようだが、言うまでもなくそれを引き起こした男は一切の興味を失い、ナイフからスマートフォンへ持ち替えた手を眼前へ持ち上げ、アプリを立ち上げて「complete」をタップし、やがて光の届かない路地裏へと消えていった。

    ////

    「…雨」

     窓ガラスに走る水滴の筋に小さく呟く。 高層ビルの一室は太陽が近いせいか、窓ガラス越しでも空を仰ぐとその眩しさに眉間に皺が寄る。太陽が煌々と照り、いまいち雨が降っていることを信じ切れなかったが、窓ガラスに走る筋は増えていくばかりで、どうやら雨が降っているのは間違いないようであった。
     高層階であるにも関わらず、窓は屋内部分も屋外部分も、綺麗に磨かれていた。ひとつのほこりも傷も許さないとばかりに、完璧にそこに存在している。調度品も見るからに高級そうで、椅子ひとつとっても云百万はくだらないのだろう。普段自分たちが拠点にしている廃屋とは正反対だな、とぼんやり考えるが、谷ケ崎はその高級な椅子ではなく、人であったものの山の上に座っていた。座り心地が良いわけではないが、室内の調度品にはあまり触れるなと阿久根に言われていたからだ。

    「てめぇ、なんだ…!?」
    「…やっと来たか。待ちくたびれた」

     背後でガチャリと扉が開く音、そして一瞬訪れる静寂。しかし来客はすぐにその有様を理解すると、怒号とともに懐から武器を取り出し標準を定めようとした、が、それもあえなく失敗に終わった。撃鉄を起こし、的を定める間に標的が消えていたのだ。いくら広いとはいえ屋内で、出入り口は背後にある扉ひとつ。無様にきょろきょろと屋内を見回すと、背後から聞こえた音。それが言葉だと理解する前に、意識は途切れた。

    「…何もかも遅いな、有馬なら躊躇いなく弾くぞ」 

     懐へ手を入れ視界から外れるタイミングで人間の山から跳ね上がり、天井にぶつかることもなくターゲットの後ろへ着地していた谷ケ崎は、存在しない標的へ向けられた銃口に呆れた様子で呟く。その声に気付き振り返るよりも早く、上半身を倒し持ち上げた足で首を蹴り上げる。打撲音、ではなく、明らかに骨が折れた鈍い音。その拍子で来客は床へ倒れこむ。首を折られては痛みに喘ぐ声も出せず、情けない喘鳴だけがこだまし、体躯は痙攣しながら蠢く。それを一瞥することもなく、阿久根から教えられた操作方法を何とか思い出しつつ、「complete」のボタンをタップし、部屋を後にする。

    ////

    「…チッ、雨か」

     条例違反もなんのその、気怠く歩きながら煙草を咥え紫煙をくゆらせて歩いていると、鼻筋へ濡れた感触を得る。手の甲で乱雑に拭い、その腕を日差しを遮るようにして翳し空を見上げる。その腕も雨で濡らされていくが、太陽は忌々しいほど照り続けているままだった。鞄すら持ち歩かない男が傘を準備しているわけもなく、盛大な舌打ちを落としてからすっかりと湿気た煙草を地面に放り捨て、スニーカーの底で火を擦り消す。

     雨に濡れるのも構わず緩慢と歩を進め、たどり着いた先は随分と年季の入った喫茶店だった。カフェと呼ぶにはあまりも古めかしく、開けた扉の頭上からは簡易的につけられた鈴が鳴り来客を知らせるという、なんとも古風なシステムだ。

    「いらっしゃいませ。おや、外は雨ですか。気温が上がってきたとはいえ雨に濡れて寒かったでしょう、最初の一杯はごちそうしますよ。どうぞ、カウンターへ」
    「……」

     やたらと人当たりのいい店主は、見るからに老紳士といった風貌だった。白髪は整えられ、フレームの細い眼鏡に、皺のないシャツ、それからベストとタブリエエプロン。物語から飛び出してきたかのような、「喫茶店のマスター」といった外見。
     有馬は促されるがままカウンターへ腰掛ける。ざっと見回した店内に客はなく、スピーカーから雑音の混じるジャズが流れている。どうやら無言は肯定と受け取られたらしく、ジャズにコーヒー豆をミルで挽く音、お湯が沸く音が混じった。

     やがて出来上がったコーヒーが目の前のテーブルへ置かれる。それと、これまた年季の入った灰皿と、今日日なかなか見かけることのない店名が刻印されたマッチも隣へ置かれた。湯気が立つコーヒーを一瞥した後、ポケットから煙草を取り出して口へ咥える。一緒に入っていたライターへ指をかけたが、逡巡したのちテーブルへ置く代わりに、マッチを手に取り火をつける。ゆっくりと息を吸い込むと肺が煙で満たされ、再びゆっくりと煙を吐き出す。コーヒーの香りも混じり、悪くない気分だった。

    「なぁ、マスター。最近ヤクザってもんはどうも一般人に混じって普通に生活しているらしい。知ってたか?人の金も、命さえもどうだっていい、何なら子分でさえ駒としか見てなかった組長サンたちも、今や住む場所を見つけることさえ難しいんだと。俺たちみたいな一般人からしたら、見た目じゃあわからねぇのに」
    「…それはまた、物騒な話ですね」

     灰皿の縁へ煙草を軽く叩きつけて灰を落とす。他愛無い世間話として時折肩を竦める仕草を交え、小首を傾げながら元来の鋭い眼光をひた隠し、努めて人懐こい笑顔を浮かべる。話を振られた店主も、当たり障りのない返答を返す。

     続きを口にしようとした瞬間、来客を知らせる鈴の音が鳴る。大きな音ではないが、妙な緊張感が走る店内にはよく響き渡った。営業時間中に来客が来るのは当たり前だが、店主ははっとした様子で扉へ視線を向ける。しかし、有馬はそちらを見向きもしなかった。なぜなら。

    「もう、有馬さん!まだ終わってないんですか」
    「有馬くん、コーヒーに糖分はいかがかな?今日のために三日三晩熟成させた練乳と蜂蜜のブレンド糖分です!」
    「オイ丞武邪魔だ、早く中に入れよ。濡れるだろうが」

     来客する人物を予め知っていたからだ。

    ////

     純喫茶に似つかわしくない男どもが4人。後から来店した3人は、先に座っていた有馬の背後へ歩み寄る。阿久根は有馬の隣へ腰掛け、テーブルへ両肘をついて掌で頬を支えてこれまたうさんくさいほどの笑みを浮かべて店主と向き合う。時空院はその反対側にしゃがみ、テーブルと目線の高さを揃えてから自称糖分が入っているという瓶をいくつか並べていく。谷ケ崎は有馬の背後から動かず、その代わりに片腕を無遠慮に有馬の肩へ置いてもたれるようにして体重を乗せて、店主へ視線を向ける。

    「…いらっしゃいませ、ご注文は?」
    「なに、簡単なもんだ。コーヒーよりな」

     有馬の顔面からは先ほどの懐こい笑顔は消え失せ、標的を狙うが如く窄められた瞳で眼前の人物を見据える。視線は外さないまま、テーブルの下でカチリと無機質な音を響かせる。唇へ煙草を咥えたまま、器用に紫煙を吐き出す。その緩慢とした時間の中、持ち上げられた手の中には拳銃が握られており、銃口は迷うことなく店主の額へと向けられた。

    「…ッてめぇら、なにもんだ!」

     先ほどまで完璧なマスターといった装いはいずこか、正体を隠すことも諦めたのか震える手で握りしめた包丁を突き付ける。額には脂汗が浮かび、呼吸が荒くなっている。図星を突かれた店主は、今にも襲い掛かろうと包丁を振り上げる。しかし4人の男どもは焦ることも、手を出すこともなく、冷めた目線でその動きを見ていた。

    「注文は、テメェの命。コーヒーなんかよりずっと安いだろ?」

     そうしていとも簡単に引き金は引かれた。

     不自然なほどに自然であったのを有馬は見逃さなかった。勿論事前にクライアントからターゲットの写真は見せられていたが、変装か整形か、その面影はなかった。それでも数多のターゲットを弾いてきた有馬に迷いも疑念もあるわけがない。

    ////

    「わ、このコーヒー美味しい。豆もらっていきますか」
    「ン、いいな。お前毎朝淹れろよ」
    「雨止んでるぞ、今のうちに帰ろうぜ」
    「帰りに糖分を仕入れていきましょう、そろそろ新しいものを作らねば!」

     いささか冷めたコーヒーは、本来差し出された有馬ではなく阿久根が口にしていた。どうやら、ターゲットは正体を隠すために潜入した喫茶店で思わぬ才能を開花させたようだ。その店主の姿はカウンターの影に隠れ見えないが、床に血だまりを作って息絶えているのだろう。そんな異様な光景も気にせず、4人は談笑している。おそらく外から見ただけでは、店内の異様な状況にも気付かず、仲のいい男4人が会話に花を咲かせているようにしか見えないはずだ。

     通り雨もあがり、30分にも満たない降雨は、太陽の日差しに勝てず乾いていく。雨が降ったことなどなかったかのように。証拠たる血は、雨に洗い流されるか、それとも太陽がアスファルトへ刻み付けるか。証拠隠滅などまだるっこしいことを考えるわけもないのだが、なぜか彼らの犯罪は見つかったとて、捕まることはない。逃げ続けているのも無論だが、その頓着のなさが功を奏しているのかもしれない。いちいちひとつの犯罪を気にしていられない。こうしてコーヒーを飲み談笑するのも、雨に一喜一憂するのも、ターゲットを始末するのも、彼らにとっては等しく日常に違いない。

     犯罪集団の日常は、明日も続く。 
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