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    oaaaaae

    @oaaaaae

    D4、有馬くんに狂った女の末路。
    小説はpixivのが読みやすい。あとはTwitterに落としたメモを自分の備忘録として置いています。

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    楓花様 https://x.com/fu_ka_0708/status/1781619948504387731 のファンアートならぬファン小説です

    #D4

    不運の日 下弦の月がかろうじて道路の輪郭を照らす。時刻は深夜2時過ぎ。狭い路地裏を男たちが駆け抜ける。闇に紛れているものの、その手には血に塗れたナイフ、同じく血に塗れた拳、そして返り血を浴びて彩られた服など、物騒極まりない姿であった。
     路地裏は並んで走るには狭く、一列に連なって走り抜ける。先頭には逃げ道を完璧に熟知している阿久根、次いで夜目に優れ体躯も大きく目印になりやすい時空院、追手も何もかも捻りつぶす谷ケ崎。そして遠距離で躊躇いなく敵を弾く有馬。…であるはずだった。

    「有馬がいねぇ」
    「は?…え!?ちょ、どこ行ったんですか!?」

     全速力に近い速度で狭い路地裏を駆け抜ける中、先頭を走る阿久根に届いた谷ケ崎の声。それは日常の雑談のようにあまりに落ち着いた声色で発せられた。

    「有馬くんなら逃走経路の途中で敵に捕まってましたよ~」
    「はあ!?え、いや…言ってくださいよ!?」
    「油断してる有馬が悪い。というか…」
    「えぇ、今日の有馬くんは機嫌が悪くて、近寄りがたかったです」
    「そういう問題…?」

     井戸端会議のような会話は走る中で行われ、阿久根の頭に疑問符が浮かぶ頃には、アジトまでの逃走手段として用意していた車が置かれた広場まで辿り着いていた。颯爽と乗り込もうとしたのもつかの間。

    「……鍵、有馬さんが持ってる…!」

    ****

    「オイ、何睨んでんだよ兄ちゃん。おー、こわいこわい。慰謝料もらわねぇとなぁ?」
    「…あ?ンだテメェ」

     今日の有馬はツいていなかった。任務は夜だけで、日中は予定もなく悠々と過ごすはずであったのに、道中チンピラから絡まれて気力を使った。邪魔なものはすべて踏み潰すとは言え、無駄な殺生を重ねて目立つわけにはいかない。中途半端に加減して、半殺しにすると最終的に逃げることとなった。

    「煙草…、…クソ、さっき買いに行く途中だった。アー、やってらんねぇ。なんなんだマジで」

     燻ぶった興奮を落ち着けようと懐にしまった煙草を取り出すも、中にはライターだけが我が物顔で鎮座していた。ちょうど最後の一本を吸っているときにチンピラに遭遇し、買う機会を逸していたのを思い出す。盛大な溜息をつきながら買いに行こうと踵を返すと、ポケットの中でスマホが振動してメッセージの受信を知らせる。このスマホの連絡先を知っているのは3人だけで、内容を見ずとも招集の連絡だと察するには容易い。

     そうして、中途半端な喧嘩の熱を冷ますことも出来ず、煙草を買い足すことも出来ず、襲撃の任務へと合流することとなったのだ。

    ****

     襲撃の任務は思った以上の敵の数に圧倒されたものの、いつも通り難なく終えることができた。あとは念入りに確認した逃走経路を駆け抜けるだけ…だった。

    「ッてぇな、クソ!」

     一番後ろを走っていたせいか、それとも最初から有馬を狙っていたのか。そのどちらでも有馬には関係はなかった。突如横から伸びてきた腕から首根っこを捕まれ、引き倒される。咄嗟に受け身を取り頭部へのダメージは軽減できたものの、背中を強打し息を詰まらせる。反射的に瞑っていた瞼を上げるよりも早く、鼻っ柱に更なる衝撃が走る。眼前がチカチカと明滅し、殴られたと認識するのは視界へ拳を映してからだった。

    「は、良い度胸してやがる。この俺を殴ったってことは覚悟決まってんだよな?」

     鼻の奥がじんわりと熱くなり、次いで濡れた感触。筋の通った綺麗な鼻からは赤い鮮血が流れ出る。『笑えるくらいツいてねぇ』そう言わんばかりに口端を上げて笑む口元を掌で覆い、人差し指で血を拭う。
     襲い掛かったのはどちらかわからないほど、敵は不敵に笑む有馬の様子を見てすっかりと怯え、命乞いするように土下座をして頭部を守っている。有馬は震える肩へ容赦なくスニーカーの底を押し付け、懐から拳銃を取り出す。

    「お、弾は切れてねぇわ。良かったな、クソ野郎。苦しまずに逝けるぜ?」

     カチリと撃鉄へ指をかけ、頭部へ照準を定める。

    「…死ねよ」
     
    ****

    「おや、ようやくお出ましですよ」
    「ん。遅かったな」
    「有馬さんおそーい。車の鍵…って、随分男前になってますね?」

     車が置かれた広場で思い思いに過ごしていた3人のもとへようやく現れた人影。時間にしては10分もないだろうが、誰一人として探しに行くこともなく、待ち合わせ場所へ合流する友人にかけるように気安く声をかける。

    「…うるせぇ、早く帰んぞ」

     車の鍵を取り出し、ドアのロックを解除して各々乗り込む。見るからに一番手酷いケガを負っている有馬が当たり前に運転席へ乗り込み、エンジンをかける。ハンドルへ手をかけようとした瞬間、手元へ見慣れた箱が放られる。それは普段愛煙している煙草の箱だった。

    「有馬さんが遅いから買っておいてあげました」
    「…へェ。今初めてお前のこと信用しそうになったわ」
    「今、初めて!?」

     数時間ぶりにようやく味わえた煙草は、少し鉄の味がした。
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