Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    oaaaaae

    @oaaaaae

    D4、有馬くんに狂った女の末路。
    小説はpixivのが読みやすい。あとはTwitterに落としたメモを自分の備忘録として置いています。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    oaaaaae

    ☆quiet follow

    2024.4.4
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21912978

    #毎月4日はD4の日

    桜と平和 赤くなった蕾を見て春を予感する。このクソッタレな世界に四季があるのも勿論知っている。驚いているのは、花の蕾を見て、自分が春の訪れを認識したこと。

    「…は、平和ボケかよ。」

     朝日がようやく昇り始めた時間帯に、表通りから外れた川沿いの裏道を煙草の煙をくゆらせて歩く男がいた。一人で歩く男が思わず言葉を発したのは、川沿いに植えられた桜並木の蕾が赤くなっていたから。よくよく見れば日の当たる先端はすでに花が綻んでいる。未だ冬の寒さが混じる風が頬を撫でたことで、無意識のうちに立ち止まって桜を眺めていたことを理解した。同時に、己の考えが数年前とは変わり果てていることを自覚し、吐き捨てるような言葉が口から零れたのだ。


     あれはもう何年前だったか。計略、搾取、略奪、暴動、喧嘩。拳銃を手にしてから数え切れないほどの罪を犯した。それを後悔することも、恥じることもない。ただの過去、そして現在でもある。思い出せる限りの過去に混じるのは硝煙の香り、血だまりの赤、既得権益に群がる豚ども。悪人だろうが偽善者だろうが、弾くのを躊躇ったことなどない。
     そうして犯罪に手を染めているうち、ついに刑務所送りになった。数年大人しくしていれば出られる程度の罪で、余暇を過ごす程度に考えていた。

     ―――あの日、あいつから誘われるまでは。

    『ねぇ、貴方も今の政府に不満があるでしょう?…いいえ、違いますね。この世の中全部クソ食らえって顔をしてる。どうですか?ぼくについてくればこの世の中を覆せますよ!そのカワイイ顔で何ができる?だなんて言わないでくださいね。ぼくは考える、交渉する、計略を張り巡らせる。それがぼくの役目。そして、有馬さん。貴方がその道を切り拓くんです。邪魔な奴は弾いて、自分が正しいとふんぞり返っている奴らの鼻を明かしてやりましょう。――さぁ、ぼくの手を取って!』

     そこから脱獄までは早かった。その後の、成し遂げられなかったあいつの復讐劇も。復讐するはずの相手を庇って、再び四人まとめて刑務所送りになった。ただ、それも悪くないと思ってしまう自分がいたのは否定できない。自分が生きてきた人生から見れば、たった数か月行動を共にしていた奴らなのに、今後の人生も共に歩んでいくんだろうと予感した。


    「おい、有馬。そんなところで何してる。」

    「…谷ケ崎。」

     どれくらい時間が経っただろうか。指に持つ煙草もだいぶ短くはなっていたが、太陽の位置から見てそこまで時間は経っていない。どちらかというと、背後から声を掛けられるまでその気配に気付かない程思考に耽っていたことに驚いた。
     現れた男はよく見知った男で、その風貌には不釣り合いなビニール袋を手に提げている。おそらく燐童にお使いを頼まれたのだろう。同じ拠点に向かうのだから、通る道が同じなのも当たり前だった。
     短くなった煙草を足元へ放り、スニーカーの底で踏み潰す。一見行儀も悪ければ褒められた行動でもないが、咎められることはない。互いに数多の犯罪に手を染めたならず者が、今更その程度で咎められるわけもなかった。

    「別に。お前は?燐童からお使いでも頼まれたのか。」

    「あぁ。…桜、咲きそうだな。見てたのか?」

     目敏い奴だ。普段は四人の中でも一番鈍感なくせして、こういう時に限って人の視線の先に気付く。いや、むしろ、言葉が少ない男だからこそ、視線や表情などに敏感なのかもしれない。それをわざわざ口にして指摘するあたり、この男――谷ケ崎伊吹らしいと、どこか納得してしまった。

    「……チッ、うるせぇな。帰んぞ。」

     知り合いに出会って、同じ行き先だとしても。捨て置いて先に行けばいいものの、どうやらこちらが歩き出すまで動く気はないようだ。仕方なく進む先を顎でしゃくり帰りを促す。ひとりは歩道、ひとりは車道と、隣に並んで歩くというには遠い距離ではあるが、ふたりで歩幅を揃えて共に帰路につく。
     隣に人が並んで歩く違和感も、今はもはや感じなかった。明らかに自分の中の考え方が変わってきている。花の色づきに気付くこと、春を感じること、背後をとられること、歩幅を揃えて同じ拠点へ帰ること。数年前だったら反吐が出ると一蹴していたそれらが、当たり前に変わろうとしている。

    「丞武が桜咲いたら花見をしましょうって騒いでたぞ。そろそろ咲くって伝えねぇとな。」

    「花見ィ…?どうせ団子とか、縁日の甘いもん目当てだろ。」

    「花より団子だな。でもゆっくり桜を見ることなんざ今までなかったから、少しだけ楽しみだ。」

    「……そうかよ。」

     取り留めのない会話。しかも、数多の犯罪を重ね指名手配されている脱獄囚が、花見を楽しみにしている。とんでもない笑い草だ。事実笑いがこみあげてくるが、それを勘づかれないように顔を背け、そのついでにポケットから取り出した煙草へ火をつけて咥える。大きく吸い込み、わずかに天を向いて煙を吐き出す。
     その視線の先にある太陽も、輪郭を照らすほどだったものが全容を見せている。朝がやってきた。
     ずっと暗闇の中で生きると信じていた。それでいいと思っていたし、それが一番息がしやすいと思っていた。それが今や、死地に赴くでもなく、おそらく暖かく、なんなら朝食の匂いすらしそうな拠点へ仲間と並んで歩いているのだ。勿論一般人と同様に日常生活を送るわけではなく、次の犯罪計画を練り、実行する日々ではある。それでも、ふとした瞬間に訪れる、一般人のような安寧の時間。
     
    「平和ボケ、したな。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works