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    uncimorimori12

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    uncimorimori12

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    虎伏前提伏五
    前書いたの。溜まったらまとめてpixivに投稿するつもりだったけど一向にたまんないから供養。

    #伏五
    volt5

    銀貨三十枚「ねえ、三十枚の銀貨って現在の価値だとだいたい百万円くらいらしいよ」
     すっかり住み慣れた寮の自室に伏黒が帰宅すると、そこには散々見飽きはしたが風景には馴染まない男が伏黒のベットの上で太々しく胡座をかいていた。伏黒がベットが汚れるのを嫌い入浴前に布団に入ることを避けるタイプであることを知っているくせして、男は遠慮なく持参したのであろうビスケットを貪っている。伏黒は痛む頭を抱えながら、ひとまず脇に抱えていた花束を備え付けの勉強机へと置いた。
    「五条さん、どいてください。誰が掃除すると思ってるんですか」
    「恵でしょ。んー、どこうにも僕ほかに座るところないし」
    「座布団あるでしょ。緑が客人用なのでそれ使ってください」
    「違うでしょ、それは悠仁専用のやつ。黄色は恵のでしょ」
     食べにくいであろうビスケットをなんとも器用にカケラをこぼすことなく口に放り込みながら、五条がピシャリと反論を返す。伏黒は背筋を一度ピンと張ると、諦めて黄色の座布団に腰を下ろした。出会ってからこのかた、伏黒は五条に口論で勝った試しがない。チャランポランに見える五条だが、内面はどこまでも冷静で合理的な男であるからだ。当時八歳の伏黒を理詰で追いつめ泣かせ、津美紀に叱られていた光景はいまだに伏黒の中に鮮明に残っている。
    「わざわざそんなことを言いにここまで来たんですか?」
     お優しいんですね。皮肉をこぼせば、何が楽しいのか伏黒の枕に顔を埋め子供のように笑いだす。昔っからそうだ。こちらのことなんてお見通しとでも言いたげな顔をして伏黒を嘲笑い、伏黒の理解できない文脈で破顔する。「恵じゃ僕を理解できないよ」と言われているようで、五条のこの笑顔は伏黒の神経をよく逆撫させた。五条は一通り笑って満足したのか顔を上げると、一瞬で緑色の座布団の上に着地し伏黒の隣に坐す。術式を無駄遣いするなよ、とは思ったが、今度は言葉を呑み込んだ。
    「ユダは百万円でイエスを売ったんだ。でもさ、安すぎると思わない? ユダの行為ってそれこそ一生遊んで暮らせるだけの報酬をもらっても安いくらいのものだったと思うんだよ。それがたったの百万円。彼は歴史を変えたっていうのにさ! あ、でもこの話の続きを知ってる? ユダはその後イエスを犠牲にして手に入れたたった三十枚ぽっちの銀貨を、自責の念にかられ返却してその後首を吊ったんだ。フフッ、だったら最初からそんなことしなきゃいいのに。ねえ恵、面白いでしょ?」
    「俺が首を吊ると?」
     伏黒の隣で体育座りをしながら瞳孔がキュウッと収縮する。蛇に睨まれた蛙に思いを馳せる伏黒の内心など素知らぬふりで、五条は言葉を続けた。
    「悠仁とはもうヤった?」
    「何言ってるんですか」
    「アハハ、ヤってないか。まあそうだよね、だってさっき告白されたんだし。でも今時プロポーズに花束ってベタすぎない? 悠仁ってそういうところ本当に可愛いよね。ね、恵もそう思うでしょ?」
     五条の長く筋張った掌が伏黒の頭を滑っていく。精一杯優しさを取り繕っている居住まいが、かえってホラーを煽っているのは五条の才能である。伏黒は渇いた喉を唾を飲み込んで潤すと、鼓動を早める心臓を落ち着かせるため深く息を吸い込んだ。
    「先に俺を裏切ったのは五条さんの方でしょ? アンタは銀貨三十枚どころか、最初から俺なんか眼中に入ってなかった」
     昨年の年の暮れ、珍しく五条がクリスマスに伏黒の家を訪ねた。例年であればクリスマスを祝うことはあっても、たいてい一日や二日すぎていたり早かったりと適当なスケジュールで連絡もなしに訪れていたので、珍しいこともあるもんだと感心している伏黒に、五条は上機嫌に笑った。
    「ぼく昨日彼氏殺しちゃってさあ、独り身ってわけよ。去年まではさすがに彼氏以外のセックスしている男とクリスマス過ごすのはヤバイかなって思って避けてたんだけど、今年はまあいいかなって。それに恵いま一人暮らしだから寂しいかなとも思って、優しい五条さんがクリスマスケーキを持ってきてあげました〜!」
     その瞬間、伏黒は五条を理解することを放棄した。別にスケジュール狂ってたわけじゃないんですねとか、もしかしたら来るはずもない彼氏を待ちながらクリスマスを一人で過ごしてましたかとか、アンタと俺って一応付き合ってたんじゃないんですかとか。言いたいことは山のようにあれど、ぶつけたところで暖簾に腕押しでしかない。同じ人間同士であれ思想の違いから戦争を起こすのだ、人外との共存など無理に決まっている。
    「言うようになったね、恵」
     五条は首元でわだかまっていた布を再び上げると、すっぽりと目を覆う。言葉とは裏腹に、伏黒の肌をさしていたプレッシャーは消滅していた。
    「うん、でもそうだね。きっとあの花束は恵にとっては三十枚の銀貨なんかよりもよっぽど価値のあるものなんだろうね。あぁ、そっか。僕は恵に銀貨三十枚ぽっきりの価値もつけてあげられなかったのか」
     納得したように頷くと、五条は立ち上がる。

     その自信ありげに堂々と胸を張る立ち姿が好きだった。
     スイーツを口に運ぶときの満足げな笑みが好きだった。
     刈り上げた頸から覗く、真白の耳の裏が好きだった。

    「邪魔したね、恵。おやすみ」

     パチン

     破裂音につられ顔をあげれば、既にそこに五条の姿はない。伏黒の頭上にあるのは、シーリングライトの無機質な青白い光のみであった。
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    Replies from the creator

    uncimorimori12

    PASTみずいこ
    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)
    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
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    uncimorimori12

    DONEみずいこ
    書きながら敏志の理不尽さに自分でも爆笑してたんで敏志の理不尽さに耐えられる方向けです。
    犬も食わない「イコさん」
     自分を呼び止める声に振り返る。そこには案の定、いや声の主から考えても他の人間がいたら困るのだが、やっぱり街頭に照らされた水上ひとりが憮然とした顔でこちらに向かって左手を差し出していた。はて、たった今「また明日な」と生駒のアパートの目の前で挨拶を交わしたばかりだと言うのにまだ何か用があるのだろうか。生駒は自身のアパートに向かいかけていた足を止めると名前の後に続くはずの水上の言葉を待つ。すっかり冷え込んだ夜道にはどこからか食欲をそそられる香りが漂ってきて、生駒の腹がクルクルと鳴った。今晩は丁度冷蔵庫に人参や玉ねぎが余っていたのでポークシチューにする予定だ。一通り具材を切ってお鍋にぶち込み、煮えるのを待ちながらお風呂に入るという完璧な計画まで企てている。せっかくだしこのまま水上を夕飯にお誘いするのも手かもしれない。うん、ひとまず水上の話を聞いたら誘ってみようかな。そこまで考えて辛抱強く水上の言葉を待ち構えていたのだが、待てども暮らせども水上は口を開くどころか微動だにすらしない。生駒は訳が分からず水上の白い掌と顔を交互に見比べた。
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    おはぎ

    DONEWebイベ展示作品①
    テーマ「シチュー」教師if
    一口サイズの風物詩 ふと顔を上げると部屋に差し込んでいたはずの明かりが翳り、窓の外では街頭がちらほらとつき始めていた。慌てて家中のカーテンを引きながら、壁にかかる時計に目をやればまだ時刻は十七時を回ったあたり。日没がすっかり早くなったものだと季節の移り変わりを感じる。
     今日の夕食はどうしようか、悟の帰宅時間を思い出しながらテレビに目をやると、そこには暖かなオレンジの光に包まれた食卓が映っていた。
    「あ、そうだ」
     私は冷蔵庫の中身を覗くと、そそくさと買い出しに出かけた。

     ◇

    「たっだいま~」
    「おかえり」
     はー疲れた、と呟きながら悟が帰宅する。彼が帰ってきた途端に部屋の中が賑やかに感じるのは私だけだろうか。少しだけ感傷に浸ったような心地で「急に冷えてきたでしょ」と声をかけると「全然分かんなかった! でも確かにみんなコート着てたかも!」と洗面所から大声が返ってくる。がたがた、ばしゃばしゃ、様子を見ずとも悟が何をしているのか物音だけで手に取るように分かる。これは私の気持ちの問題ではなく、存外物理的にうるさくなっているだけかもしれないな、と苦笑した。
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