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    uncimorimori12

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    夏五の匂わせしかねえ伏五

    #伏五
    volt5

    無名のファイル「恵ってサッパリした食べ物好きって言ってたよね」
     扉を開けると、そこには日常生活ではそうそう拝まない白金に光り輝く頭髪を靡かせた男がいた。睫毛の奥まで純白をたもつ男は、ビニール袋を伏黒に差し出すと我もの顔で靴を脱ぎ捨て家へと上がる。押しつけられた袋の中身を確認すれば、小分けにされた生蕎麦がいくつか入っていた。つゆやネギなども同封されたその袋は、どうやら茹でて皿に盛れば完成という代物のようだ。
    「おそばですか」
    「うん、三人で一緒に食べようー。って、津美紀は?」
    「ちょうど買い物に出ています。さっき出たばかりです」
    「そっか、入れ違っちゃったなあ」
     五条はそういうと座布団を枕にし畳の上にゴロリと寝転がる。以前はなかったえんじ色の座布団は、津美紀が「五条さんが来るから」と言って買い揃えたものである。それまでは来客はおろか姉弟ふたりのみしか存在することの無かった六畳一間は、五条が訪ねるようになってから少々物が増えた。食器類は三人分揃えるようになったし、客用の布団なんてものも用意されている。べつに五条はそんな頻繁に来るわけでもなく、よくて月に二回顔をみせる程度なのだが、窮屈になったアパートは以前より風通しがよくなったように感じる。
     伏黒はしかたなくキッチンに立つと、大鍋を取り出し湯を沸かす。こういうのって普通オトナがやるもんじゃないか、と思わなくもないが五条にその理論は通じない。伏黒も火の扱いには日頃から慣れているので特段つっこむこともなく、沸き立った鍋に五条と伏黒のふたり分の麺を入れると、片手間につゆなどを手際良く揃えていく。
     しかし、珍しいこともあるものだ。いつもの五条ならばたいていシュークリームやどこぞのケーキなど、とにかく甘いものを手土産にしていた。そうでなくとも「恵や津美紀がこれ好きだろうな」なんて考えながら買ってくるなんてこと、それこそ前代未聞すぎて津美紀に訊かせたら驚かせること間違いなしである。気まぐれなのかなんだか知らないが、五条は伏黒にとって非常にやりにくい相手であることは間違いなかった。『恵』なんて馴れ馴れしく名前で呼ぶくせして、触れようとすれば五条の術式で弾かれる。なのにほんのたまに、こうやって蕎麦を持ってきては伏黒たちを振り返る。突き放したいのか歩み寄りたいのか、強いんだか弱いんだか。それを推し量るには、伏黒はまったく五条のことを知らないのだ。
    「五条さん、できましたよ」
     ひとまず自分と五条の分だけを用意し居間にはいると、そこには相変わらず無駄にデカイ図体を遠慮なく広げ寝転がっている五条がいた。よく見れば、どうやら眠っているようだ。伏黒は詳しくは知らないが、どうやら五条はこれでも忙しい身らしく年がら年中全国を飛び回っているらしい。季節は梅雨も終わりに差し掛かり暑さを思い出し始めたとはいえ、このままでは肌寒いことだろう。伏黒は「せっかく茹でたのに」とぼやきつつ、押入れからタオルケットを取り出すと五条にかけてやる。かけるついでに顔を覗き込むと、普段の笑顔を削ぎ落とした鋭利な寝顔がそこにはあった。温度を感じさせない白い肌が、無防備に晒されている。
     ふと、伏黒のなかに「この人って本当に人間なのかな」と疑問が浮かんだ。動いて喋って、呼吸をしているが、一度だって体温を嗅ぎ取ったことがない男。好奇心の萌芽が伏黒の中で産声をあげる。伏黒は息を止めると、慎重に五条の頬に触れた。指先につたわる感触は、伏黒の予想を裏切り温もりを訴える。
    「…あ、」
     生きてる
     当たり前の事実が、伏黒の背骨を舐めあげる。だって伏黒は、五条のことなんてこれっぽっちも知らないのだ。道端に居座る気持ちの悪い化物が呪いと呼ばれるものであることも、自分が不思議な力を使えることも、呪いと戦う機関が存在することも。五条はそれらを教えてはくれたが、五条自身のことはほとんど語らない。だから、伏黒は五条が生きている可能性だってすっぽり頭の中から抜けて過ごしてきたのだ。
    「ん…」
    「!」
     五条の瞼が震え、とっさに伏黒は手を引っ込める。五条は眉間にシワを寄せると、むずがるように身体を小さく丸めた。
    「……すぐ、る」

     ゾワリ

     身体中を駆け巡る電流の根元を、伏黒は知らなかった。ただこのままでは危ないと本能的に察知し五条から距離を取る。心臓はうるさいほどに脈打ち、洩れる吐息は熱をもっていた。
     本当に、いまのいままで伏黒は五条が人間であるなんてこと知らなかったのだ。触れたら氷のように冷たくて、予め設定された言葉を喋って、傷つくことなんて知りませんって顔して。だから、だから、こんな迷子の声を出すなんて考え付きすらしなかった言うのに。
    「…なんだよ、これ」
     伏黒は部屋の隅で膝を抱え顔を埋める。冷え固まった蕎麦の横で、津美紀が帰宅するまで伏黒はいつまでも頭を抱え過ごした。

     雨の匂いがまだ残る、蒸し暑い夕暮れ時のことであった。
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    Replies from the creator

    uncimorimori12

    PASTみずいこ
    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)
    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
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    uncimorimori12

    DONEみずいこ
    書きながら敏志の理不尽さに自分でも爆笑してたんで敏志の理不尽さに耐えられる方向けです。
    犬も食わない「イコさん」
     自分を呼び止める声に振り返る。そこには案の定、いや声の主から考えても他の人間がいたら困るのだが、やっぱり街頭に照らされた水上ひとりが憮然とした顔でこちらに向かって左手を差し出していた。はて、たった今「また明日な」と生駒のアパートの目の前で挨拶を交わしたばかりだと言うのにまだ何か用があるのだろうか。生駒は自身のアパートに向かいかけていた足を止めると名前の後に続くはずの水上の言葉を待つ。すっかり冷え込んだ夜道にはどこからか食欲をそそられる香りが漂ってきて、生駒の腹がクルクルと鳴った。今晩は丁度冷蔵庫に人参や玉ねぎが余っていたのでポークシチューにする予定だ。一通り具材を切ってお鍋にぶち込み、煮えるのを待ちながらお風呂に入るという完璧な計画まで企てている。せっかくだしこのまま水上を夕飯にお誘いするのも手かもしれない。うん、ひとまず水上の話を聞いたら誘ってみようかな。そこまで考えて辛抱強く水上の言葉を待ち構えていたのだが、待てども暮らせども水上は口を開くどころか微動だにすらしない。生駒は訳が分からず水上の白い掌と顔を交互に見比べた。
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