冬の先取り「へっくしゅんッ」
暁人が唐突にくしゃみをする。それもそのはず、部屋の室温は18℃を下回っていた。
「はぁ…朝晩は寒い時期になったね…」
「ほら、風邪ひくから暖かくしろ」
KKがピッとエアコンのスイッチを入れると、徐々に部屋が暖まっていく。なんと心地のいい事か。
「電気代節約しなきゃって思ったけど…よく良く考えれば、風邪ひいて病院で診てもらったり、薬代がかかるよりはマシかもね」
「今年はいろんな風邪が流行ってるみたいだからな」
暁人はまだ暖まりきっていない台所へと足早に向かって、電気ケトルでお湯を沸かし始める。
「KK、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「コーヒー、熱めのやつな」
お揃いで買ったマグカップにインスタントのコーヒーとお湯を注いでいくと、すぐにコーヒーの香りが辺りに漂い出す。テーブルにマグカップを置き、二人がけのソファに腰掛けると、すぐ隣にKKが座った。
「うわ、KKの足冷たッ、靴下履きなよ」
無言で冷えた足を絡ませて、暁人の足の体温で暖を取るようにスリスリと動かす。
「オマエが暖めてくれるんだろ」
「その前に、KKの足に冷やされちゃうよ」
そうは言いつつも、暁人からも足を絡めて暖めるように動かす。こうしている時間がなによりも心地よいと互いに感じていた。
「よし、今日は休みだし…冬を迎える準備をしよっか」
暁人がKKの肩に寄りかかりながら呟くと、仕方ねぇなぁ、と満更でもない言葉が返ってきた。さぁ、冬支度だ。
「衣替えと、ベッドの寝具替えと…そうだ、湯たんぽも出しておかないとね」
「湯たんぽはまだ早いだろ」
「節約になるだろう?」
「炬燵があるから十分だと思うがな?」
少し奮発して大きめの炬燵を購入したのだが、使う前からワクワクが止まらなくて少し早いが一式出すことにした。炬燵布団もちょっと良いものにしたが、大正解だった。
「いやぁ……………これは、出られないね」
「暁人、コイツは妖怪コタツカラデラレナイだ」
「ここで寝たら最高だろうなぁ……」
「おいバカ、寝たら風邪ひくからな」
コツン、と軽く額を叩くと大袈裟に暁人が反応して「KKのいじわる」と少し拗ねたように言うのが面白くて、互いに笑い合った。そうだ、とここで暁人の提案。
「そうだ、KK!今日は鍋にしようよ。冬の先取り!」
肉、魚、野菜、豆腐――
とりあえず食べたいものをたくさん入れて、濃いめのスープで煮込めば完成。酒のつまみにも最適な鍋の出来上がりだ。今日はビールがよく進む。
「美味いな、これ」
「市販のスープで十分美味しいよね、ご飯足りるかな」
「オマエなぁ、もう茶碗二杯は食ってるのによくいけるな」
「しっかり食べて、免疫つけないとね」
アツアツのソーセージと野菜を口に入れれば、肉と野菜の旨みが口いっぱいに広がる。これはご飯が進んで仕方がない。
「ねえ、シメに塩神入れていい?」
「さすがに塩分を取りすぎだ、今日は控えろ」
「KKってたまにそういうこと言うよね、自分は不健康なのに」
「オマエの身体の心配をしてるんだよ」
長生きしてもらわないとな、と年上の恋人に心配されるのは少し複雑だが、暁人は満面の笑みをKKに向けた。
「不健康って言ったけど、僕のおかげで今のKKは割と健康になったんじゃない?今度の健康診断が楽しみだね」
「あーあ、暁人くんに健康にされちまうなぁ」
「長生きしてもらいたいからね、今度こそは」
シメは雑炊にして、鍋はすっからかんになった。
「布団、暖かいね」
「朝になっても布団から出てこないオマエがように想像できるよ」
「仕方ないよ、朝は布団から出たくないものなんだからさ」
互いにぴったりと密着して、少しひんやりとした部屋の空気と布団の暖かさを感じながら床に就く。布団乾燥機をかけた布団はふわふわで気持ちが良かった。
「次はおでんにしよっか。あ、もつ鍋も食べたいな」
「寝る時に飯の話をするなよ、腹が減る」
「はは、実はもう小腹がすいてる」
「あんだけ食ったのにか」
「うん」
だから、と暁人が言いかけたのをKKが制止するとニヤリと笑いながら暁人を見つめる。
「別のことで腹を満たしてくれ、だろ?」
「さすが、僕の相棒は理解が早くて助かるよ」
互いに唇を合わせて身体に触れていく、熱を深めていく。
翌朝、せっかく洗ったシーツや毛布を再び洗う羽目になるのだが、すっかり互いに夢中になってしまった二人はそんなことを考えている余裕などなかったとさ。