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    桃本まゆこ

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    桃本まゆこ

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    沢深ワンライ「あなたを愛してる」で書きました。沢深前提の無自覚両片思いで、深がモブ女子に告白されていますので注意。将来的にこの沢深はくっつくんですけどたぶん10年くらいかかる。さ~きたくんの情緒が育つのを見守りたいよ~!

    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    恋をしている俺は三年の教室にはしょっちゅう遊びに行っていたから、それが深津さんと同じクラスの先輩の声だってことはすぐに気が付いた。
    「深津くんのことが好きです」
    グラウンドから聞こえてくる野球部の声とか、実習棟の機械の音とか、風が吹いて木の枝が揺れる音とか、そんな何でもない音にすぐにかき消されそうな小さな声なのに、その一言は俺の耳にもはっきりと届いた。
    授業が終わって部活に向かう前の時間に深津さんと話していたのは、髪の毛をいつも二つに結んで眼鏡をかけている、地味で大人しそうな女子の先輩だった。先月の合唱祭で、深津さんのクラスのピアノの伴奏をしていた人だ。静かで真面目っぽくて、俺は全然話したことがない。深津さんのクラスに行くと派手な女子の先輩は俺に絡んできたりするけど、あの人はそういうタイプじゃないからだ。
    いつものように深津さんを呼びに来て告白現場に遭遇してしまった俺は、咄嗟に物影に隠れて息を潜めた。河田さんにおめぇ空気読めっていつも怒られている俺でも、ここで出て行っちゃ流石にマズイことくらいは分かる。
    深津さんも女子に呼び出されたりするんだ。ベシとかピョンとか変な喋り方するし無表情だし何考えてんのか全然わかんねぇけど、実はモテてたりすんのかな。
    深津さんは何も言わず黙っている。でもきっと、この先輩はフラれるだろう。深津さんだけじゃなくて、河田さんだって松本さんだって俺だって、バスケ部の誰に告白したってそうだ。今の俺らに女子と付き合っている暇なんてない。俺は足元の小石を蹴った。さっさと終わんねぇかな。早く深津さんとバスケしたいのに。強い風が吹いて木の影がざぁっと揺れる。ここからじゃ見えないけど、深津さんは今、どんな顔してるんだろう。
    「答えてもらえないって知ってるの。それでも私が深津くんを好きだってことを、ただ知ってほしくて……私の自己満足だから、急に呼び出してこんなこと、ごめんなさい」
     静かな、きっぱりした声だった。俺はびっくりして思わず息を止めた。
    「好きです。ただそれだけ、伝えさせてください」
     俺に告白してくる女子が言うことはいつも決まって「沢北くん好き、私と付き合って」だった。だからこの先輩が何を言ってるのか、すぐには分からなかった。
    「ありがとう、ピョン」
    「……うん。こちらこそありがとう」
     語尾についた『ピョン』はいつも通りなのに、深津さんの声は部活のときよりずっとずっと優しかった。それに答える先輩の声は少し震えている。泣くのを堪えているんだって、見なくても分かった。
    「好きな人がいるピョン。叶うことがないって分かってる。でも好きだピョン」
    「……!!」
     俺は叫びそうになって慌てて口を塞いだ。自分の耳に入ってきた言葉が信じられなかった。
    「俺はたぶん一生、言えないと思うピョン。だから〇〇さんがこうして俺に伝えてくれたこと、尊敬します。……気持ちはすごく嬉しいです。ありがとう」
     深津さんが部活に向かって、女子の先輩が小さく啜り泣く声が聞こえてきても、俺はただ呆然とその場から動けなかった。
     叶わなくても、ただ好きでいる。そんな『好き』があるのか。それってどんな気持ちなんだろう。この先輩も深津さんもその気持ちを知ってて、でも俺には分からない。俺は自分がめちゃくちゃガキくさく思えた。この人もどうせフラれるだろうなんて思っていた、ついさっきの自分が恥ずかしかった。
    女の子たちに「付き合って」って言われても、俺はいつも「ごめん無理」って簡単に断ってた。その場で泣いたり怒ったりする子も結構いて、俺はそのたびにめんどくせぇなって思ってた。どんな気持ちで涙を流しているかなんて、考えたこともなかった。
     叶わなくても、伝えられなくても好きな人。深津さんの心を占めている顔も知らない誰かが憎らしくて悔しくて、俺はただ、拳を握り締めることしかできなかった。
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    桃本まゆこ

    DONE沢深webオンリー『さわぐ心をふかく射止めて』展示作品です。以前の壁打ち「思い出が欲しい深津」のネタを小説にしました。高校時代は始まらなかった沢深が十年後に急接近する大人沢深です。後半は書き終えたらアップします。それにしても天才のイベントタイトルですね!開催ありがとうございます!
    The Way Back Home(前編)1.

     さっき貰ったばかりの色紙を潰れないように一番上に入れて、ボストンバッグのファスナーを閉める。ほとんど余白がないくらいびっしり埋まった寄せ書きを思い出すとまた涙が出そうになるけど、泣いてばかりはいられない。ずっと狭いと思っていた二人一組のこの部屋は、一人分の荷物がなくなると随分ガランとして見えた。俺は明日、この寮を出る。コンコンとドアを叩く音がして、俺は慌てて両目を拭った。
    「沢北、いるピョン?」
    「はい、どうぞ」
     ドアの外から聞こえてくるのは予想通りの声。俺は少し緊張しながらドアを開けた。
    「……お前ひとりピョン?」
    「ッス。佐藤は別の部屋行ってます」
     一歩中に入ってきた深津さんが部屋の中に視線を走らせて訊ねた。食堂で見送りの会を開いてもらったあと、最後に二人で話したいことがあるから時間をくれ、と言ったのは深津さんの方からだった。まさかこの期に及んで説教ではないと思うけど、二人きりで話したい内容の心当たりがなかったから、同室の奴には今だけ出て行ってもらった。
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    桃本まゆこ

    TRAINING沢深だけど沢が影も形も出てきません。深に片思いするモブ女の一人語り。苦手な方はごめんなさい。
    モブの名前は山内恵令奈ちゃん。ほんとに何となく付けただけですので、もし同姓同名の方がいらっしゃってこの名前は嫌だ!とかあったら教えてください。すぐ変えます!
    金木犀/ひとりよがりの恋金木犀/ひとりよがりの恋

     私の好きな人は、ちょっと変わっている。マイペースで、いつもぼーっとしてて、無表情で、口を開けばピョンピョン言っている。バスケ部の特待生で、高校の頃は全国で一番バスケが強い学校のキャプテンだったらしい。
     背が高くて、いつも変な寝癖がついてて、手のひらが大きくて、いつもスエットやジャージ姿で全然おしゃれじゃなくって、優しくて、笑顔が可愛い。私の好きな人。


    「深津くん、おはよー」
    「山内さん。おはようピョン」
    「あはは! おはようピョン~」
     教室の隅にいる深津くんに駆け寄って、一つ離れた隣の席に腰を下ろした。月曜一限の授業なんて真面目に来ている学生はほとんどいない。教室の座席はガラガラだ。平日は毎日バスケ部の朝練があるらしく、深津くんは一限の授業も余裕なのだという。私はなんとか深津くんと同じ授業を取るのに必死で早起きしているっていうのに。
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