定式幕+取捨選択+ルーズリーフ では始まり始まり。過去かいずこか定かでなく、遠く近くも見通せぬ、彼方此方の物語。
寂れた家の片隅に、母の骸より生まれた双子がおりました。どちらが兄でどちらが姉か、それを知る者も既になく、きょうだい仲睦まじく支えあって暮らしておりました。
けれどその年の冬は厳しく、生き延びれるのはひとりだけ。嘆き悲しみ身を裂かれるような心地なれど、片割れを生かすため、もう片方は食糧を置いて旅に出ることにしました。
どちらが旅立ったか? ええ、それは、
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旅立った片割れは、灰色の雲の下、荒涼とした道を延々と歩いておりました。
草木も枯れ果て野鼠すら見当たらず、野盗さえ野垂れ死ぬありさまのおかげで却って安全な、淡々とした死出の道でございました。
されど、天からの一瞥の慈悲だったのでしょうか。道に変化が訪れました。左右に分かれた道に、看板があります。
貧しい育ちの片割れに文字は読めませんでしたので、代わりに看板に尋ねました。
「もし、みちしるべのお方。この道はどちらがいずこに繋がっているのですか?」
こんなにも丁寧に話しかけられたのは創られてこのかた初めてです。看板は感激して答えました。
「右は豊かだが波乱の多い海の国、左は険しいが平穏な山の国に通じておりますよ」
「幾つの夜を越えたら着きますか?」
粗末な身なりの旅人を不憫に思い、看板はしばらく考えて答えました。
「右の道は昨晩好色な商人が行きました。もし気に入られたら、あなたの誇りと引き換えに食糧と衣類を恵んでくれるかもしれません。
左の道には一昨日物静かな狩人が行きました。もし追い付けたなら、狩りの仕方をおしえてくれるかもしれません」
片割れは看板に礼を言い、それから考えて、選んだ道は、
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患難辛苦を乗り越えて、片割れは豊かで平和な夜の国のたどり着きました。
花びらの舞う風、穏やかで優しい人々、実り豊かな土地、輝かしい星々に守られた美しい場所! 片割れはあっという間に魅了されました。
幾許かの年月を経て、片割れには新たな家と家族ができました。丈夫な煉瓦のおうち、ただよう夕飯の匂い、笑いさざめく家族の声、暖かで懐かしい我が家!
ああけれど、思い出されるのは寂しい故郷に置いてきたきょうだいのことです。今でも、とても寂しい。新しい我が家が暖かければ暖かいほど、胸に空いた寂しさが恋しいのです。
手紙を送っても返事は来ません。そもそもあんな辺鄙な場所に無事にたどり着いているのでしょうか。迎えに行こうにも、家族を置いてはいけません。けれど寂しさが募るのです。
片割れが選んだのは、
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ではこれにておしまい、誰か彼か定かでなく、夢もうつつも身明かせぬ、此方彼方の物語。
寂れた家の片隅に、母の骸より生まれた双子がおりました。どちらが兄でどちらが姉か、それを知る者も既になく、きょうだい仲睦まじく支えあって暮らしておりました。
それがいつのことか。始まりのことなのか、終わりのことなのか。すべては戯言。気に食わなければ紙片を千切ってなかったことに。
あなたが選んだ結末は、
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