龍のことと今ある国々の話 女の子が成った神=精霊だけで世界を支えるのは大変です。だから旧い世界の魔法使いたちは、彼女を助ける仕組みを用意していました。
ゆらぎを強く発し曖昧になりやすい場所は、意志を帯び自らを律するようになる仕組みです。例えば高く険しい山の頂。例えば澄んだ湖の水底。例えば深く底知れない森の奥。
そういった場所は、自律型仮想神格自動生成プログラムによってゆらぎを象徴し管理するAIが……はい、ややこしい話はカットね。つまり、この世界には龍が生まれるという話です。
例えば、白く染まる草原に影差す大岩から生まれた、白夜の幽狼/草原を泳ぐ影/影龍スウレシウ。
例えば、青空の鏡たる曇りなき湖から生まれた、晴天の深魚/空を映す水底/水龍ネプルディル。
例えば、紫電渦巻く嵐を海に鎮めて生まれた、蒼藍の巨象/海と踊る叢雲/雲龍バツィオエアーラ。
大自然の象徴である彼らは、精霊の心が描いた創作物、霊的な精霊の子とも言えます。
事実、彼らは女の子の娘である王を、きょうだいと認め、尊重しました。王もまた龍たちをきょうだいと呼び、龍と人の橋渡しを担いました。
ゆえに、民は王を「龍王」と呼び、王国は「龍王国」と呼ばれるようになったのです。
さて、龍王国は滅びましたが、龍たちは健在です。そして遺された人々も、龍と共に生きるのが当たり前になっていました。
影龍と共に生き、草原に死者を弔うことで死したのちも影龍の仕える草原大国カウマーン。
雲龍の翼たる羽雲で航路を引き、大海原を旅する海上連盟ノストコール。
水龍と地龍ハティタノノンの二柱に守られ、精霊の教えを遵守する教会都市セロ。
そしてここ。四柱の龍の霊脈を束ね、龍王国最後の公子が興した公国コノラノス。
え? どうして龍王国は滅びたのかって? その話はまたいつか。龍のことをもっと知りたい? 勉強しなさい。魔物のこと? 子どもに聞かせるのはちょっと……
うーん、でも聞かせておいたほうがいいか。魔物についてはどこまで知ってる? 未練を遺して死ぬと死んだ後に魔物になる? 間違ってはないけどちょっと不正確だね。
わかった。じゃあ明日はその話をしよう。この世界で死した命がどうなるかを。祈りが叶ってしまう曖昧な世界の話を。