□にあらず 昔々、あるところに■■という※の子がいました。
■■は神様でした。いえ、本当に。だって人の願いを叶える力があったんですから。そんなのきっと、神様でしょう?
■■は優しくて気前が良い※だったので、景気良くみんなの願いを叶えてやりました。
「神様神様、どうか雨を降らせてください」「はいどうぞ」
「神様神様、どうかこの子の病を癒してください」「よしきた」
「神様神様、どうか憎いあいつを殺してください」「これでいい?」
願いを叶えるには供物を捧げねばなりません。いえ捧げるのは■■の仕事です。■■が体の一部を大地に捧げれば、大地が願いを叶えてくれるのです。
いつからそうだったかはわかりません。生まれたときから? それともその前から? 覚えていません。わかりません。今日も一房、■■は髪を大地に捧げます。
けれど人の願いに限りはないのです。
「神様神様、どうか願いを叶えてください」「いいよ。どんなお願い?」
「神様神様、もっと願いを叶えてください」「うんうん、落ち着いて」
「神様神様、出し惜しみしないでください」「いや、ちょっと」
「神様神様、もっと、もっと」「やめて」
──が■■の髪の毛を千切ります。もっと願いを。
──が■■の歯を引っこ抜きます。もっと願いを。
──が■■の目玉をほじくり返します。もっと願いを。
■■はみんなの願いを叶えてやりました。引っこ抜かれた端から歯が生えます。髪が増えます。目玉があふれます。みんなに行き渡るくらいに。みんながお腹いっぱいになるまで。子々孫々に至るまで幸せになれるまで。
最後に、■■はみんなにお願いをしました。「ねぇみんな、■■の願いを一つ、叶えてほしい」
みんな気前よく頷きました。「ああいいよ。こんな気前よく叶えてくれたんだ。一つくらいお安い御用さ」
■■の髪の毛は、歯は、目玉は、耳は、足は、血は、肉は、指は、にっこり笑って願いました。
「みんな、一人残らず、不幸になれ」
これにておしまい、今は遠い昔の物語。
願いの叶う聖人の骨肉を奪い合って滅びた国の、みんな忘れた物語。